――まず、前作『LIFE IS MOVIE』を振り返っていただけますか?
「前作を振り返ると、作っている最中から感じていたことなんですけど、ポップなアルバムだったなと思いますね。ポップラップじゃないけど、ある種のキャッチーさがあったし、それまで2枚出したアルバムの延長線上にあって、なおかつ、その流れの集大成的な作品だったんじゃないじゃなって」
――それ以降の3年間で、BIMのシングル「6 Words Hoilday」やGOLBY$OUNDのシングル「
Out In 」への客演というトピックもありましたが、今回の新作アルバム『Culture Influences』の制作はどのように進めていったんですか?
「『LIFE IS MOVIE』から気づいたら、3年が経っていたっていう感じなんですけど、今回のアルバム制作を本格的に始めたのが、2017年の頭なので、完成までに大体1年半くらいかな。今回、時間がかかった曲だと、〈Ukiyo〉はいい曲にしたくて、リリックを仕上げるのに結構かかりましたね」
――曲によってかかる時間はだいぶ違いますか?
「はい。すぐ出来る時はすぐ出来るんですけど、この曲はリリックが出てくるまで待ってみたり、書いては直して、ビートに乗せてみての繰り返しでしたね」
――前作は誰にも意見を聞くこともなく、完全に一人の作業で完成させたアルバムということでしたが、今回はいかがでした?
「その辺は変わらずでしたね。あと、今回はマイクをはじめ、機材を変えたので、それによって自分のスタイル自体、大きく変わった感覚がありました」
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――ビートメイカーのチョイスは?
「これまで何度となく参加してもらってる
DJ HIGHSCHOOL 、
JJJ に加えて、
VaVa くんは、彼が去年出したアルバム『
low mind boi 』が個人的に好きになって、そこからコンタクトを取らせてもらいました。
Febb とはこれまでに2曲一緒にやっていて、今はどちらもSoundCloudに上がっているんですけど、
Lil mercy とやってる〈Takeoff〉、それから『
JEWELS DELUXE 』のボーナストラックで収録した〈Again Again〉があって、今回の〈You&I〉はメールでトラックをやり取りをするなかで、自分が気に入ったものをチョイスさせてもらいました。そして、今回は直球のヒップホップのフレイヴァーを欲していたところで、
Fitz Ambro$e が
仙人掌 のアルバム『
VOICE 』に提供していたトラックがいいなと思ったので、仙人掌に連絡先を聞いて、トラックを送ってもらいました。あと、
Tonosapiens は、最近、現場では遊んでないんですけど、今回提供してもらった〈Next Episode〉は、かなり昔の曲を使わせてもらいました」
――これまでの作品では、Lil Bに象徴されるようなトリル・ウェイヴ系の浮遊感のあるトラックを好んで選んでいた印象があるんですけど、今回はヒップホップ然としたトラックをチョイスされていますよね。
「そうですね。ヒップホップはずっと好きで聴いてきて、クラウドラップをはじめ、自分なりに追求してきたんですけど、その一方で変わらずに存在するオーセンティックなヒップホップでもラップしてみたくなったという。具体的なきっかけとしては、WDsoundsが出したコンピのリミックス盤『
5014CompMostWANTED - revisit- 』でJ.COLUMBUS、仙人掌、
MASS-HOLE という面子でやらせてもらった〈SESSION〉とDown North Campのコンピ『#the believe media is around us』で
DJ Scratch Nice のトラックで、
CENJU 、
YAHIKO 、
OYG と一緒にやらせてもらった〈I'm Good〉ですね。その2曲をでラップしてみて、自分でもヒップホップ然としたトラックでやりたくなったんです」
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――かたや、DJ HIGHSCHOOLによるサイケデリックなバウンスビートに、普段はオーセンティックなビートでラップしている
ISSUGI 、それから
Campanella をフィーチャーした「Ism」は組み合わせの妙が楽しい1曲でもありますね。
「そうですね。DJ HIGHSCHOOLのトラックがあって、そこにISSUGI、Campanellaをフィーチャーしたら組み合わせ的に面白いんじゃないかと自分も思いました。曲タイトルそのままに“Ism”をテーマにリリックを書いてもらったんですけど、思惑通り、ばっちりでしたね」
――リリックの面では、「Gone」で言及している“5丁目”に象徴されるフッドの変わらない日常を描きながらも、「In The City」では、大人になってしまった自分について歌われていて、身の回りの変化に対して、意識的であるように感じました。
「以前と比べると自分の私生活に変化があったというか、パートナーが出来たこともそうだし、今までは一日のルーティーンのなかで音楽を作っていたのが、今回はコーヒー屋に行って、そこで思い浮かんだフレーズをメモして、そうしたものがリリックに反映されていますね」
――そして、変化という意味では、ダメな自分を肯定する言葉があちこちに散りばめられていますよね。
「そうですね。VaVaくんの『low mind boi』を聴いて、気分がローでもいいんだと思えたというか。だから、〈In The City〉では開き直ってみたり(笑)、〈Ova Ova〉や〈Gone〉は今までは拒絶していたダメな部分も受け入れたということなんですよね。あと、自分の内から出てきたものを形にしていた以前からの変化としては、今回はリリックが内から出てこなくても、作詞するようにリリックを書いてみよう、と。前作に収録した〈Meditate〉の続編にあたる〈Meditate Part 2〉はそうやって作りましたね」
――今回、ローなムードが描かれることで、「Drop」のように気持ちがアガっていく曲がより引き立っていますよね。日々のなかで、ERAさんがアガる瞬間は例えばどんな時ですか?
「気分的に“アガりたいな”と常々思っているタイプではあるんですけど、昔のようにアガる瞬間は最近なくて。だから、無理矢理アゲるというか、リリックを書いてる途中にアガることはあっても、アガってる最中に書くことはなかったりするし、リリックでアガる瞬間を歌っているのは“アガりたい”という自分の願望でもあるというか。音楽でアガっていける瞬間をこの先も作っていきたいですね」
――最後に、アルバム・タイトル『Culture Influences』に込めた意味とは?
「アルバム・タイトルは“文化的影響”っていう意味なんですけど、これは自分が周りに影響を与えたいってことではなく、この作品は周りの文化的な影響を受けて出来たアルバムなんだということです。例えば、普段、自分はメガネをかけているんですけど、メガネをかけて、コーヒー屋に行ってるっていう、そういうイメージだったり、今回のアルバムを作っている時、自分はマッチョではないし、どこかナードで、文化系なラッパーになれたらいいなとふと思ったんですよね」
取材・文 / 小野田 雄(2018年9月)