鹿児島県奄美大島に生まれ、奄美民謡をルーツに持つシンガーとしてオリジナル曲から名曲カヴァーまで、幅広いレパートリーで活躍する
城 南海(きずき みなみ)。近年はテレビ東京の『THEカラオケ☆バトル』に出演して毎回高得点をたたき出し、その高い歌唱力が話題を呼んでいる。2018年はNHK大河ドラマ『西郷どん』で劇中歌と、本編後にゆかりの地を巡る『大河紀行』のテーマにヴォーカリストとして起用されて注目を集めた。デビュー10周年を来年に控え、12月から全国ツアー〈ウタアシビ2018冬〉をスタート予定の彼女に話を聞いた。
写真:「ウタアシビ2018夏」より
自分の故郷が大河ドラマの舞台に
――城さんといえば、なんといっても歌唱力の高さには定評がありますね。やはり子どもの頃から奄美民謡のシマ唄を聴いて歌って、育ったからでしょうか?
「そんなふうに思ってくださっている方がたくさんいらっしゃるのですが、じつは子どもの頃からシマ唄が身近にあったわけではないんです。生まれは奄美ですが中学の途中で鹿児島の学校に転校し、高校の音楽科に進んでピアノを勉強しました。シマ唄の魅力に目覚めたきかっけは、兄の影響で三味線を始めて奄美民謡に特有の“グイン(こぶし)”などに興味を持つようになってから。その後、鹿児島の繁華街・天文館にある郷土料理の店に集まる奄美出身のお客さんからもいろいろなことを教わり、一緒にセッションしたりして楽しみながら唄を覚えていきました。そこからスカウト、そしてデビューへと繋がっていったわけです」
――今年は『西郷どん』の劇中歌「愛加那」と本編後のコーナーで流れる「西郷どん紀行〜奄美大島・沖永良部島編〜」に歌手として起用され、注目されました。
「自分の故郷が大河ドラマの主要な舞台となって、全国の視聴者に知ってもらえるのは本当に嬉しいことですね。最初にオファーをいただいた時はすごく嬉しくて、しかも奄美の言葉で歌わせてもらえると聞いて光栄に思いました。大河ドラマの音楽って、あまり“歌”のイメージがなかったので、どうなるんだろうって詳細が決まるまでワクワクしながら楽しみに待っていたら、レコーディングの1週間くらいに前になって〈歌詞もお願いします〉って言われて、吃驚! さあ、どうしましょう? って(笑)」
――地元では、藩命により奄美大島に潜居した西郷吉之助(隆盛)がそこでとぅま(後に愛加那と改める)と出会い、島妻として迎えて一緒に暮らした、というのはよく知られている話なのですか?
写真:「ウタアシビ2018夏」より
「私自身はあまりよく知らなかったので、歌詞を書くうえでも絶対に必要だと思い、島に帰って二人が住んでいた龍郷町を訪ねたり、西郷さんのことを調べている方を紹介していただいてお話を伺ったりしました。とくに書物などに書き残されているわけではないので、皆さん〈これは伝え聞いたことなのだけど……〉って前置きをした上で、それでもいろんなことを話してくださいました。それらを参考にして、まだ映像も何も出来上がっていなかったので自分の中で愛加那さんのイメージを想像して、歌詞を書き上げました。レコーディングの時は脚本家の中園ミホさんもスタジオにいらして〈ああ、この曲を聴いてからシナリオを書きたかった〉っておっしゃってくれたのがすごく嬉しかった。後日ドラマを観たら、けっこう私の思っていたとおりの愛加那さん像で、それも嬉しかった。それといろんな方に、二階堂ふみさん(愛加那役)と私の雰囲気がなんとなく似ている、なんて言われました(笑)」
愛加那の深い愛と女性としての強さ
――「西郷どん紀行〜奄美大島・沖永良部島編〜」の歌詞には、天命を果たすために人生の大海原へと漕ぎ出す西郷さんを、島から見送る愛加那の熱い想いが見事に描かれていますね。とくに“姉妹神(ウナリガミ)となってあなたを守る”(訳詞)と歌っているところに胸を打たれます。
「薩摩から来た人はいずれ帰る、自分はそれを追いかけるわけにはいかないからって、運命を受け入れて〈いってらっしゃい〉と送り出す、愛加那さんの西郷さんに対する深い愛と女性としての強さを描きたかった。奄美では男性が漁などで海に出て行く時、女性が姉妹神になって守るという信仰があるので、それと重ね合わせました」
――奄美の言葉で書かれた歌詞も美しいですね。どこか懐かしい不思議な気持ちになります。
「奄美の方言は集落によって違うので、龍郷に住む地元の方々に協力していただきながら書きました。そして奄美の言葉の7割は日本の古語だという説もあります。本土では消えてしまった“やまとことば”がまだ残っているんですね。どこか懐かしいとお感じになったのはそのせいかもしれません」
――音楽を担当した
富貴晴美さんの旋律も味わい深いですね。またこの曲はジャズ・ピアニストの
山下洋輔さんの力強くて温かい演奏とのコラボも聴き応えがあります。
「〈西郷どん紀行〉の音楽は、富貴さんがメインテーマの次に作曲したという、西郷さんをイメージしたオーケストラ曲〈敬天愛人〉がベースになっています。富貴さんはドラマのスコアを書くにあたって、実際に島を訪れて奄美の音階を勉強されたそうですけど、本当に地元の人が書いたような魅力がいっぱい詰まっていると思います。山下さんのことを最初に知らされた時には、ジャズの方とどう共演したらいいんだろうって身構えていたのですが、実際にお会いして演奏を聴いたら、私がどう歌ってもすべて包み込むようなピアノで、リハーサルもなくいきなり本番で一発録りOK。素晴らしい経験でした。シマ唄もジャズもともにセッションを大切にする音楽なので通じるものがあるのかもしれません。またいつかぜひ、ご一緒したいです」
――劇中歌の「愛加那」は、島に残った彼女が、月夜の下で紬を織りながら、遠く離れた西郷さんのことを想っている曲ですね。
「ドラマでは二人の息子である菊次郎が誕生した時にも流れました。旋律は富貴さんが私のことを愛加那さんに見立てて書き下ろして下さったものです。“加那”にも愛しい人という意味があるので、考えてみたら“愛加那”という名前はとても甘くてロマンティックな響きですね。オーケストラをバックに歌ったこの曲の三味線弾き語りヴァージョンがシングル盤に収録されている〈愛、奏でて〉。スタジオで〈一度やってみる?〉と言われて歌ったものが、そのままCDになっているんです(笑)」
全国の会場に奄美の南風を届けたい
――12月からの全国ツアー〈ウタアシビ2018冬〉では、ドラマ『西郷どん』で城さんのことを知った新しいファンの方もたくさん会場に足を運んでくれそうですね。どんなコンサートにしたいですか?
「おかげさまで来年の1月7日にデビュー10周年を迎えます。それを前にしたツアーなので、今まで応援してくださったファンの皆さんに感謝の気持ちを伝えられるようなコンサートにしたいです。プログラムもこれまでのシングル曲やオリジナル曲の数々、皆さんからのリクエストが多かった曲など盛りだくさんの内容。デビュー前から大好きで歌っていた
ソウル・フラワー・ユニオンさんの〈満月の夕〉もぜひ歌いたいですね。具体的にはこれからじっくり決めていきますが、冬にふさわしい選曲を考えています。新しくファンになってくださった方にもきっと楽しんでいただけると思います」
写真:「ウタアシビ2018夏」より
――会場で販売予定のCD+DVDからなる『遠い約束』も楽しみです。
「これまでも少しずつオリジナル曲は書いていたのですが、今後はシンガー・ソングライターとしてより積極的に発信していきたい。10周年の節目を迎えて新たなスタートになる、そんなこれからの私を象徴するような作品集です。DVDには表題曲〈遠い約束〉のメイキングや〈満月の夕〉のスタジオ・ライヴ版、インタビュー映像などを収録。カレンダーやオリジナル・チケットホルダーのようなグッズも封入されていますよ!」
――さらに1月27日には奄美文化センターで10周年記念のふるさとコンサートも開催されます。
「こちらは豪華ゲストが魅力。
元ちとせさんと、今私がいちばん大好きな一推しバンド、サーモン&ガーリックさんが応援に駆けつけてくれます。とくに中学の先輩でもある元ちとせさんは、奄美音楽の魅力を全国の人々に広く伝えた立役者で、彼女の存在があったからこそ、私もこうして歌っていられると思うので、私自身も当日をすごく楽しみにしています……いつもは一緒に呑んでいる仲ですが(笑)」
――では最後に〈ウタアシビ2018冬〉を心待ちにしている皆さんに向けてメッセージをお願いいたします。
「冬らしい選曲を考えつつも、全国の会場に奄美の南風をお届けしたい! 〈ウタアシビ(=うたあそび)〉のタイトルどおりの楽しい島時間を一緒に過ごしましょう。お待ちしています」
取材・文 / 東端哲也(2018年11月)
全国ツアー〈ウタアシビ 2018 冬〉番外編https://www.kizukiminami.com/schedule/?id=14012月1日(土)
岡山 岡山市民会館
出演 城 南海 / IPU環太平洋大学 / 舞踊集団 宮坂流
開場 14:30 / 開演 15:00
料金 5,400円(税込 / 全席指定)
全国ツアー〈ウタアシビ 2018 冬〉https://www.kizukiminami.com/schedule/?id=13912月8日(土)
福岡 電気ビルみらいホール
開場 16:30 / 開演 17:00
料金 6,500円(税込)
12月9日(日)
大阪 メルパルクホール
開場 16:30 / 開演 17:30
料金 6,500円(税込)
12月14日(金)
名古屋 東別院ホール
開場 18:30 / 開演 19:00
料金 6,500円(税込)
12月23日(日)
東京 人見記念講堂
開場 16:30 / 開演 17:30
料金 6,500円(税込)
城 南海デビュー10周年記念ふるさとコンサートゲスト:元ちとせ / サーモン&ガーリック
2019年1月27日(日)
鹿児島 奄美文化センター
開場 17:30 / 開演 18:30
前売 3,730円 / 当日 4,500円(税込)
学生料金(小中高生)前売 1,000円 / 当日 1,500円(税込)
※お問い合わせ: アーマイナープロジェクト 0997-53-2202
Single
「西郷どん紀行〜奄美大島・沖永良部島編〜」PCCA-04693 1,000円 + 税全国ツアー〈ウタアシビ 2018 冬〉会場先行作品
『遠い約束』BRCA-00101 5,400円(税込)