元
キャロルのギタリストである
内海利勝が、約10年ぶりのソロ・アルバム『
mujun』をリリースする。ソロとしての彼は、みずからヴォーカルを取り、ブルージーなギターとともに聴かせる歌ものが持ち味なのだが、今回は独自のスタイルにいっそう磨きがかかった印象。しゃがれていて男の色気を漂わせるダンディなヴォーカルで、タイトルにもなっている“矛盾”をテーマにしたディープな歌詞が歌われ、人生の重さや深さが伝わってくる。ブルースを軸とした懐の深いサウンドも含め、今の彼でなければ表せない滋味あふれる作品だ。
自分で聴きたいものを作りたいって思った
「聴いていいと思えるものには、参加できたらいいなっていうのはありますけど、あまり自分から積極的にやろうっていうタイプではないんです。だから誘っていただけるのがうれしいっていうのが大きいですね。ただ、自分が10年も個人名義ではやっていなかったのは、あんまり言いたいことがなかったんだと思うんですよ。言いたいことがないのに無理矢理作るのもへんだし、そういう気持ちにもならないじゃないですか」
――それが今回は作る気になったということですか?
「なったんですね。というか、これは何年もかかったんです。一緒にやってくれた安宅秀紀さん(本作のアレンジャー)と、ほとんど二人で作っていたもので。月に1〜2回しか録音できないので、5〜6年はかかっているんじゃないかな。あとは個人的な要素がかなり強くて、俺はこう思うんだ、こういう感じがやりたいんだっていうことを言うべきだと思って。言葉というよりは、雰囲気というかサウンドでね。だから自分で聴きたいものを作りたいって思ったんです」
――音楽的には、前作はかなりバラエティに富んでいたんですけど、それに比べると今回はブルースに焦点を絞ったように思えます。
「自然に絞られたっていう部分もある。二人だけだから、どうしても意思の疎通が早いんですよ。お互い価値観も共有できるので、すごくやりやすかったし」
――たとえばレゲエ曲もあるんですけど、ギターはブルースですし、ある意味全部ブルースとも思えるんですよね。
「そうなんです。音楽っていろんな形やニュアンスがあるけど、基本は同じじゃないかなっていう気はしていますね。だからそのへんはあまりこだわりたくないっていうのを意識していたのかもしれない」
――そういうサウンド以上に、ヴォーカルとソングライティング、つまり歌がメインのアルバムと思えるんです。聴いた後に耳に残るのも歌だったりします。
「もともと歌が好きですから、どうしてもそういう傾向は出てくると思います。最初の頃は自分で歌も歌ってなかったけど、一人でやるようになって、歌うようになって、それを自分でも聴きたいわけです。歌っていてどこが気持ちいいかなっていうのもだんだんわかってくるし。そのへんが理解できてきたのが良かったのかなという気はします。かといって満足しているわけじゃないんですよ。満足はずっとできないと思いますね」
――太くしゃがれた声で、独特の節回しで丁寧に歌っていて、前作や前々作と比べても変化しています。
「少し変わったかもしれないですね。さっきも言ったように、意思疎通がうまくいくと、どんどん中に入っていけるから、自分がやりやすいようなノリとか雰囲気ができちゃうんですよね。そうなると歌にも集中しやすくなる。(ほかのバンド活動などで)まわりの人間の歌を聴いていると、こいつのこういうところいいなとかわかるので。そういう刺激も受けているのかもしれない」
――今回ですごくオリジナルのスタイルになった印象があるんですけど、ご自身でどう思いますか?
「自分で納得するわけじゃないけど、これは俺の色がちゃんと出ているなっていう気分はありますね。まだ改良の余地はあると思うんですけど。だんだん自分が歌いたいように歌えてきている。でもまだ歌だけで説得できるようまではいっていないんです。もっと良くなるんじゃないかな」
――まだ到達するところまではいっていないですか?
「そう。もっと自由にっていうか、もっと気持ちいいところがあるんじゃないかなって思う。知らない部分もあるわけじゃないですか。だから知らない部分をもっと知ったら、また変わってくるかなっていうのはあります」
――歌詞もすごく深いように思えるんですけど、タイトル曲の「mujun」で、“俺を変えてくれ”“俺は変わらない”って言っていて、そういう両方を求めてしまうのが矛盾ということですか?
「いろんな意味があるんですけど、その矛盾もあると思います。そういうものってかならずどこかで感じているじゃないですか。自分の中でも感じているし、外に対しても感じている。だから、自分を変えたいんだけど、変わらなかったりする部分もあれば、変えたくない部分もあるし、変わっちゃってるところもある。それは誰しもあると思います」
――そういうことをずっと抱えていて、最近になってそれが強くなった?
「それもあります。だから今出したいなっていうか、表現したいと思ったんです。愛とか恋とかあるけど、それって個人的なもの。それがどうあろうと、人間自体は変わらないと思う。その中で自分がこうなりたいっていうのはあるけど、そうじゃない自分もかならずいる。そうするとそこに矛盾が生じてきますよね。そういったことを考えると、矛盾だらけの中で生きているような気がしてきます。サウンド自体も、僕がやっているんだけど、自分の中で矛盾を感じているんです。すごくブルースっぽいのをやっているくせに、媚びている感じもある。だから変わりたい、変われないってフレーズになるのかもしれないです」
――その“媚びている”というのは、「サクラソウ」が今っぽいシティ・ポップふうだからですか?
「当たりです(笑)。媚びた感じがしちゃったんですよね(笑)。これね、
スティーヴィー・ワンダーにインスパイアされて、このコード進行気持ちいいなって思って作ったんですけど」
――メロウで洗練されていて都会的で、今のシティ・ポップに通じる、同時代的な曲だと思います。
「今を生きているっていうのは、ずっと意識していたと思うんです。だから
ローリング・ストーンズにしても、うまく取り入れているじゃないですか。ローリングしていくっていうのはそういうことだと考えれば、その時代を生きていく以上、時代を生きた証しがあるんじゃないのかなという気はします」
俺言いたいこと言えてるよな
――1曲目の「月と太陽」が、POUSSE-CAFEで一緒にやられている
大土井裕二さんの作曲で、メロディがすごく叙情的で新鮮です。
「僕には出てこないメロディです。新鮮に聴こえて、だからトップに持ってきたんです」
――歌詞は人生の徒労感とか孤独感みたいなものが強くて、重いし深いですね。
「そうですね。まさに“月”と“太陽”なんです。出会うことはないけど、でもお互いいないと困る存在」
――この曲だけでなく全体的に、毎日やりきれないけど、でも生きていかなきゃならないという印象があるんです。
「世の中に応援歌は多いですけど、これはちょっと違った角度の応援歌みたいなもんです。そういうふうに自分では解釈しています」
――
ブラインド・ブレイクのカヴァーもしています。弾き語りの独演で、完全にデルタ・スタイルで、直球のカヴァーです。
「僕はこの人になりたかったんです。こういうふうに弾けたらいいなって。憧れですよね」
――総じていうと、独自のスタイルが強まったアルバムだと思うんですけど、今までに比べて満足度が高いですか?
「高いと思います。前作が70%だったとすると、80%はいっている気がしますね(笑)。(以前よりも)統一感が出せたのが違うと思います。全体的に見たときに、俺言いたいこと言えてるよなっていう充実感もある。トップに僕の曲じゃない曲を持ってくるのも初めてだし、インストゥルメンタルも滅多にないですし、カヴァーもやっていますし。ヴァリエーションがついてるのにうまくまとまってくれた」
――ちなみに、今の日本のシーンって、中高年が元気で、聴き手にも受け入れられやすい状況だと思うんですよ。そんな中で、自分の役割はどういうことだと思いますか?
「そんな大層なものはないんですけど、こんな人がいるんだって思っていただけるのが、仕事といえば仕事かな。ああいう感じもアリなんだな、こういう生き方もアリなんだなというところがわかっていただければうれしいです」
――これからもこういうペースで続けていくと思いますか?
「今回は間が空いたので、ペースを少し上げなきゃ(笑)。今は65歳で、残された時間もそんなにあるわけじゃないから。もう少し上げてがんばりたいと思っています」
取材・文/小山 守(2018年11月)
『mujun』発売記念限定イベント@dues新宿場所:dues新宿
内容:ミニライブ(弾き語り)
日時:2019年01月16日(水)19:45 開場 / 20:00 開演
出演:内海利勝
参加方法:ディスクユニオン対象店舗にて、内海 利勝(ex.CAROL)『mujun』(AP-1079)をお買い上げのお客様に先着でイベント参加券を配布します。
※入場時にドリンク代600円を頂戴いたします。
※当日のご入場は、開催前の会場前先着順になります。
※定員になり次第、入場を締め切らせて頂きます。
※参加券をお持ちの場合でも、ご入場頂けない場合がございます。予めご了承ください。
対象店舗:
新宿日本のロック・インディーズ館 (BF)/ 昭和歌謡館/ お茶の水駅前店/ 神保町店/ 下北沢店/ 吉祥寺店 /中野店/ 立川店/ 町田店/ 高田馬場店/ 池袋店/ 横浜関内店/ 横浜西口店/ 千葉店/ 柏店/ 北浦和店/ 渋谷中古センター / 大宮店/ 大阪店/ オンラインショップ
各CDショップ特典情報ディスクユニオン『mujun』発売記念限定イベント参加券
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