高校時代にヤマハのオーディションでグランプリに輝き、大学在学中の2012年にメジャー・デビューしたシンガー・ソングライター
山崎あおい。2016年2月の3rdアルバム『
Rinkle-Rinkle』を最後にしばらく表立った活動がなかったが、このほど新たなレーベルから、12月5日に2年10ヶ月ぶりの新作『
FLAT』を発表した。
親しみやすいメロディに寂しげな歌声が乗る彼女独特のアンビヴァレントな魅力は相変わらず。自ら編曲を手がけ、作風にも変化が見られるなど、しっかりと成長の跡をうかがわせてくれた。作詞家・作曲家として他アーティストに楽曲提供したり、札幌時代の音楽仲間とユニット
motorpoolを結成したりと、音楽活動が以前よりも自由度を増したことが、自らの作品にも好影響を与えているのかもしれない。
――この2年10ヶ月、何をされていましたか?
「いろいろありましたね。環境の変化もあったし、出したいって気持ちはあったんですけど、なかなか出せない状況で。でもその間に作家活動であったりとか、あと友達と趣味でやるようなユニットを始めてみたりとか、音楽自体はがんばって……というか、やりたいことを好きにやってた2年10ヶ月だったんじゃないかなと思います。ただ、その出口がなかったっていうもどかしい期間でもありました」
――出口がようやく見つかった感じですかね。
「ツアーはアコースティック編成とか弾き語りで毎年回っていたんですけど、音源がずっとなくて。会場限定でCDを作ったりとかはしてましたけど、これっていう新曲がない状態でライヴだけずっとこまごまやってましたね、自分の活動としては」
――作家としての山崎さんの活躍は頼もしく拝見しています。6月に出た
鈴木愛理さんの「君の好きなひと」(ソロ・デビュー・アルバム『
Do me a favor』に収録)が最高ですが、どういう経緯で曲を提供されたんですか? もともと大学の先輩後輩ですよね。
「アルバムを作る前から親交はあって“一緒にいつか曲を作りたいね”みたいな話はずっとしてたんです。具体的に動くことはなかったんですけど、それと関係なく先方の会社に提出していたデモを愛理ちゃんがたまたま聴いてくれて“これ、いいじゃん”ってなって、そこから一緒に曲を作るようになった感じですね。ほんっとに自然に“こんな曲を書いてきました”っていうテンションで書けた曲だったので、評価していただけるのはうれしいです。他の曲が不自然ってわけではないんですけど(笑)」
「そうですか? 歌ってる内容をちゃんと見ていくと、わたしが書きそうな曲だって昔からのファンの方とかは感じると思うんですけど、音だけだとバキバキのダンス・ミュージックなので、けっこう意外がられます」
――作家活動で何か得られたり学べたことってありますか?
「いい意味で書きたいときに書けるようになった気がします。前は例えば本当に失恋しないと書けないとか(笑)、生活をそのまま曲にするみたいなことしかできなかったんですけど、書かなきゃいけない状況が常にあるから、こういう曲を書きたいなってところからテンションを持っていって書けたり。あと、DTMでアレンジをある程度できるようになったので、アレンジャーに自分のやりたいことを伝えやすくなって、最終形も自分の頭の中で最初から鳴っていたものにより近くなったと思います」
――自分の中にモチベーションがなくても書けるようになった?
「モチベーションの作り方が変わったというか。前は若気の至りじゃないけど“この気持ちを伝えたい!”みたいな感じでずっと作ってて、いつか燃え尽きるな、と思ってたんです。この気持ちがなくなったらどうするんだろう、普通になっちゃったらどうしようって不安でしたけど、いまは“この音面白いから、これを使って曲を作ってみたい”とか、“こういう日本語の使い方ができたら面白いよな”とか、もっともっとシンプルな興味とかで作れるようになりました。いつか燃え尽きるであろう火種が大量にある、みたいな感じですかね。どれか燃え尽きても大丈夫、っていう安心感があります(笑)」
――インスピレーションの素を探す行動みたいなのは何かしていますか?
「映画はもとからよく見るんですけど、雑誌とかはあんまり得意じゃないっていうか、ファッション誌でいまの流行りの女の子が考えてることとかは見なくて、なに見てるのかな……YouTubeをよく見てますね。けみおとか大好きなんで。言葉遣いとか面白いですよね。でもそれをインスピレーションと呼んでいいかどうか。ただの娯楽なんじゃないかと思うんですけど(笑)」
――見聞きしたものはなんらかの形で養分にはなっていると思いますけどね。
「直接的な養分っていうよりも、ひとが本気で作ったものに感動して自分を奮い立たせる、みたいなことが多いかもしれないです。ゲームとか映画とか、単純に作品として面白いっていうのもあるんですけど、“これ予算いくらかけたんだろう?”みたいな感覚で楽しんじゃうんですよ(笑)。そういうのを見ると“音楽も負けてらんないな”みたいな気持ちになります」
――そうしていろんな活動をしながら久しぶりにご自分の作品を世に問うたわけですが、たまに鋭いナイフをちらつかせていたり、快活なメロディを元気のない感じで歌っていたりして(笑)、これぞ山崎あおい! おかえり!と思いました。こういう言われ方はイヤかもしれませんけど。
「イヤじゃないです。その通りだなって思うので(笑)」
――ポップな曲を山崎さんはどう捉えているんでしょうか。あえて少々意地悪な言い方をすると、心にもないことを……。
「あははは。そう聞こえますか?」
――いや、ご本人のキャラと齟齬があるからそう見れないこともないって程度なんですけど、そういうわけではないじゃないですか。昔やったインタビューで、わたし自身がたくさんの人の前で歌うことが向いているとは思わないけど、わたしの曲はそうなるべきだと思う、とおっしゃっていましたし。
「いまもその考え方は変わってないと思います。わたしが表に出て人気者になって、山崎あおいキャーキャー、みたいなのが向いてるとは思わないんですよ、ほんとに。思わないんですけど、曲はニッチなところには行きたくなくて。ポップでありたいし、大衆受けしたいし、歌ってほしいし、覚えてほしいし。歌詞に関しても、こんなの歌いたくない、ダサいと思いながら歌ってることはひとつもないんですけど、わたしがどう思ってるかってことよりも、曲としてどうかなってところを先に考えちゃうかもしれないですね。例えば〈鯖鯖〉とか、“カレシ、遠洋漁業の人がいい”とわたしは思ってないですけど(笑)、曲としてそこに行きたいなと思って」
――“鯖鯖 好きと言ったでしょ?”と、サバサバという語感から最終的に“たまに会えたその日に港で 新鮮な鯖が食べたい”と別の話になっちゃっているのが最高です。
「めちゃくちゃな曲ですよね(笑)」
――山崎さんってお魚好きですよね。
「わたしも思いました。2ndアルバム(『
12センチ』2015年7月)でも〈サカナ〉って曲を作ってるし、水族館好きだし、そういえば昔、お魚の図鑑をずっと持ち歩いてたなって。エイが気持ち悪くて好きですね」
――あの口元ね。
「そう。人間の顔みたいで気持ち悪くて、すごくいいです」
――1曲目の「遠距離トレイン」は、遠距離恋愛というよくあるテーマなんだけど、“すぐに会いたいのに 会えない距離にずっと わたし甘えていたの”という一節が山崎さん独特の感覚だなと思いました。常に自責の念を忘れない(笑)。
「そうなっちゃいますね、たしかに」
――そしてリード曲「アイソレイト」。“群れてんじゃねえぞ!”という、けっこう踏み込んだメッセージですけど、何かムカついたことがあったんですか?
「ありました。勢いで書いちゃった感じですね。これはほんっとにシンガー・ソングライター的な曲の作り方をしたなと思います。誰かに提供することになったら、もうちょっと直したりすると思うんですけど、自分の曲だからいいか、って。雑な気持ちではなく、言葉尻まで考えないで、思ってることをそのまま出しちゃえ、みたいな気持ちでデモにしていきました」
――アルバム前半は誰かに提供してもよさそうな曲が多くて、後半に山崎さんじゃないと歌えない曲が集まっている感じがありますね。
「その通りだと思います。前半の曲はちょうど作家活動をしたいなって思い始めたころに書いた曲が多くて、〈遠距離トレイン〉とかも最初は誰かに歌ってほしいなって気持ちで作り始めた曲なんです。だからアレンジも振り切ってポップにしてたんですけど、自分で歌ってみようかなって気持ちになって、自分用に書き直して。後半の曲はアルバムを出すことになってから、わたしが歌うことを前提に作ったり作り直した曲が多いです」
――「遠距離トレイン」で、自分が歌うことになってから変えたのはどの部分ですか?
「もっとかわいい感じでしたね。それこそ“会えない距離にずっと わたし甘えていたの”はなかったフレーズだし。もっと“会いたい会いたい、なんで会ってくれないの”って。そういう気持ちってかわいいじゃないですか。かわいい子に歌ってもらうんだったらかわいい気持ちがいいなっていう、願望の押しつけなんですけど(笑)。わたしが歌うってなってから、この声で会いたい会いたい言われてもな……って思って、等身大の自分に近い、ちょっとうじうじした感じに変えていきました」
――昔、明るい人に見えていたいけど暗いねって言われるとうれしくなる、その両方が本心だっておっしゃっていましたけど、ポップな曲を作りたいのも、内省的な曲を作りたいのも本心ですよね。常に引き裂かれている状態でやっていると、しんどくないですか?
「あんまりないですね。どっちかに絞ればそういう人として確立するのは早いのかもしれないんですけど、どっちもやりたいんだからやっちゃえ、みたいな。昔からそういう感じなので、そこには折り合いをつけて……じゃないですけど、そういうもんだからどっちもやるか、みたいな感じです」
――以前はほぼ自分自身でしか歌っていなかったですよね。そうするとポップな曲のイメージに自分自身を寄せていくみたいなこともあったんじゃないかと。
「そうでしたね」
――ふだん穿かないスカートを穿いたりワンピースを着たり、ヒールも履いて。
「やってましたね!」
――その楽しさももちろんあったと思うんですけど、どこかに“柄じゃないな”みたいな気分はなかったですか?
「ちょっと笑っちゃう自分もいました。でもすごく俯瞰して見ると、21歳とか22歳のいましかできないんだからやっとくべきだ、とも思って。いまのうちにスカート穿いとけ、メイクしてかわいい感じでMV作っとけ、みたいな。いまそれをやりたいと思っても、25歳で初めてスカート穿きましたウフッ、みたいなのはちょっとないなと思うので(笑)、あの時代にあれができたのはよかったと思います」
――出ましたね、俯瞰癖(笑)。作家活動を始めたことで、いまはかわいいポップな曲も出口が別にあるし、以前よりもメリハリがついた感覚があるのでは?
「変なストッパーがなくなったかもしれませんね。どんな曲を書いても、リリースされるかどうかはともかく、提案する先があるじゃないですか。前よりも楽しんで曲を作れてるかなって思います。前だったら〈鯖鯖〉を配信シングルで出そうとは誰も言い出さなかったと思うし、わたしも“これはアルバム曲じゃないですか?”って言ってたと思います。〈アイソレイト〉もわりとそういうタイプだと思うんですよ。わりとポップでロックだけど、ちょっと強すぎるとか、イメージと違うとか言ってたと思うので。そういう意味では山崎あおいとしての活動もやりやすくなったと思います」
――「アイソレイト」は時流に合った曲だなとも思います。同調圧力に異議を唱えるみたいな動きも出てきていますよね。“一人で嫌え 一人で怒れ きょろきょろ仲間探すなよ”っていうのは大切なことを歌っていると思うんですよね。
「高校、大学と、いわゆる変わった人が多い環境だったんですよ。音楽をやってる人も世の中的にはマイノリティだけど、大学ではマジョリティだったりして。でもそういう人たちが社会に出て働き始めて、自分がマイノリティだったことに気づいた、みたいな話をよく聞くんですよね。わたしは卒業してからも音楽をやってるので、まわりにはミュージシャンしかいないし、自分がマイノリティだなんて思ったこともなかったんですけど。そんなときに、あるところで“あの子、変わってるから”って悪口を耳にして、えっ?と思って。学生時代は“変わってる”ってほめ言葉だったんですよね、わたしの中では。むしろ“あいつ普通だよね”が悪口みたいな。それで、変わってない人たちに変わってるって言われるって、そんな恥ずかしいことなのかな?って問いかけたくなったんです。イラッときて曲にして、共感してくれる人が多かったらわたしの勝ち、みたいな(笑)」
――たくさんいると思いますよ。“経験が全てだとか言ってる”大人たちに“何も知らない方が都合いい”と反抗する「ナニモシラナイ」も、誰かに言われたことから発想した曲ですか?
「ここ1〜2年ずっと考えてることなんですけど、作曲やってます、作詞やってますって言うと“いろんな経験したほうがいいよ”“もっと夜遊びしなよ”“恋愛はすればするほどいいんだよ”みたいなことを言われるんですよ。その瞬間は“そうですよね……”とか、“わたしはなんてつまらない人間なんだ、飲み会にも行かないし終電で帰っちゃうし”とか思って、夜遊びするぞ!って思って行くんですけど、やっぱり無理なんですよね。それがすごいコンプレックスなんです。はちゃめちゃに遊んでめちゃくちゃいい曲を書く人も知ってるので、それも正しいんだとは思うんですけど、悔しいじゃないですか。そうなれないわたしにはいい歌詞は書けないのかな、とかいろいろ思い悩んで、いや、そうじゃないはずだ!って自分を慰めるために書きました(笑)」
――この曲では“夜の街”が仮想敵みたいになっていますよね。
「嫌いなんですよ。港区の男女が嫌いで(笑)。『東京カレンダー』に出てくるみたいな男女、本当に嫌いなんです。友達にもなれないですけど、彼氏とかがそういう女の人と飲んでたら、醒めますね。"おまえはそっちか!"ってなります」
――その感じは「あなただけが」にもありますね。“可愛いだけの女の子と 可愛いだけの恋をしてね”という捨てゼリフ(笑)。男ってほんとつまんない女が好きだね!って。
「ほんっと。つまんない女とつまんない人生を歩め!みたいな気持ちで書きました。すいません……」
――なんで謝るんですか(笑)。「東京カレンダー」に関していえば、個人的には雑誌そのものよりも、あれをガチで読んでいるおっさんを想像すると気持ち悪いですね。
「あの雑誌自体、そういう港区の男女をいじってる感じがありますけどね。あの見出しの付け方。だから見るのはけっこう好きです(笑)。本当にあれがすてきだと思ってる男女とはちょっと相容れないですね」
――ファッション誌でも週間コーデとかで謎の設定やストーリーを組んで写真マンガみたいにしていますけど、あれもいじっているんじゃないかと思いますよね。
「いじってますよ、絶対(笑)。わたし会議に参加したいですもん」
――そういう知的なごっこ遊びみたいのは好きそう。
「好きですね。ポエムがついてるおみくじみたいなのを引いたことがあるんですけど、見てたら添削したくなっちゃって。この文字量でこれはもったいない、この仕事やりたいって思いました。書かせてください、ってどこに言えばいいのかわからないけど(笑)」
――話がそれちゃいましたが、このアルバムの新機軸として、山崎さんがアレンジをやっている曲が3曲(「maboroshi」「口先」「Singing Life」)ありますよね。DTMを始めたってさっきおっしゃっていましたけど、いつごろですか?
「一昨年の夏ですかね。喉を壊して半年ぐらいライヴをお休みしたんですけど、黙ってリハビリしてるのも癪だから、この間にできることを増やしておこう、みたいな感じで始めました。わからないことがあると今回7曲アレンジしてくださった鶴崎輝一さんにいちいち電話して教えてもらいながら。まだ学習の途中です」
――「maboroshi」の打ち込みサウンドも新鮮ですけど、僕がオッと思ったのが「口先」なんです。これ生演奏じゃないですか。
「DTMでギターのフレーズ、ベース、ドラムぐらいまで入れたデモをお渡しして、口頭でイメージを伝えました。“こういう音色にしたいんですよ”とか。自分の力じゃ届かなかったところをお願いした感じですかね。ギターの西田修大さんもベースの厚海義朗さんもドラムの五味俊也さんもそれぞれすごく活躍されてる方ですけど、うますぎるのは違うと思って、“自分を下北沢で呑んだくれてる売れないバンドマンだと思って演奏してください。1枚目を自主制作で出すか出さないかぐらいの感じで”ってお願いしました。すごくかっこいいけど“おお、シモキタで飲んでるわ、この音は”って納得がいく仕上がりになりました(笑)。贅沢ですよね」
――資料に“歌っていくことへの決意にあふれる全10曲”と書いてありますが、そのキャッチ・コピーにいちばん合致しているのがラストの「Singing Life」ですね。
「25歳になって、この先どう生きていくか考えたら、音楽をやっていく道もあるし、音楽じゃない仕事もあるし、相手はいませんけど、結婚して母親になって音楽をぱったりやめちゃうって選択肢もあるじゃないですか。その中で10年後、何をやってたら後悔しないかな?とか、死ぬときに“あれやっとけばよかったな”って何に対して思うのかな?とかずっと考えてて。10代だったら“絶対、音楽です! 音楽をやっていきます”って言えてたと思うんですけど、いまはそうじゃない気がしてて。音楽が嫌いになったとかじゃなく、もっとフラットにいろいろなことを見られるようになった結果、本当は何がほしいんだ?みたいな気持ちになって、考えながら模索するように書いていきました。最終的に、この曲の結論でもあるけど、歌がうたえればそれでいいって思ってるっていうよりは、それでいいって言える“いま”でありたいな、みたいな気持ちに落ち着いて」
――そこでアルバム・タイトルの『FLAT』が出てくるんですね。歌い続けられればそれでいい、と言い切るんじゃなくて、そう思えるわたしでありたい、と。やはりこのメタ思考というか俯瞰癖が山崎さんらしさなのかな。
「面倒くさい女ですね(笑)」
――いや、だからいいんだと思いますよ。「夜の散歩」の“蛍光灯”にはどんな意味があるんですか?
「わたしの中で蛍光灯って、メーカーには申し訳ないんですけど、安っぽい光というイメージがあって。わたしはもっと重厚な光を浴びて輝きたいのに、いまは蛍光灯の下にいるな、みたいな。実際に散歩していたときの街灯の光でもあるんですけど」
――幸せを怖がっているわけじゃないけど“でも思い描く日々 もっと素敵に輝くから 今日も満たされない”で言う輝きって象徴的なものですか? 具体的に照明を浴びて輝きたいというよりは、現状に満足できないみたいな。
「具体的にこうなりたいっていうのもありますけど、たぶん、そこにたどり着いたらまた同じことを思うと思います」
――あぁ、人間ってそういうものですよね。
「ほしがりだと思います。足るを知らないっていう」
――具体的にこうなりたいっていうのはどういう境地ですか? 現時点で。
「口にすると薄っぺらいんですけど、マンションがほしいとか(笑)。お金がないと追い詰められるじゃないですか。お金がほしい、もっと稼ぎたい、いいところに住みたい、いい車に乗りたいって思いますね、やっぱり。“そこ、いいんで”とは言えないです。タワー・マンションの最上階に住みたいし、それとは別に低層マンションにも家がほしいし、田舎にプールつきの一軒家もほしいし」
――その“売れる”形が、作家活動を始めたことによってもうひとつできたと言えるんじゃないですか。出口が自分だけだと、自分が売れないといけないけど……。
「誰かが売れてくれれば、曲が売れてくれますからね。音楽じゃなくてもいいんです。頭の中にあったものが形になって、自分に還元されればなんでもOKみたいな。結局ものを作るのが好きなだけだなって思ったので、やらないですけど、例えばものすごいヒットしたブロードウェイ・ミュージカルのプロデューサーとしてめっちゃ売れてめっちゃお金持ちになるとか、そういうパターンでも幸せだと思いますし」
――1stアルバム(『
アオイロ』2014年1月)のころに、デビューすることが目標だったけど、いざデビューしてみると先が不安になるようなことばかりで……みたいな話をされていましたが、5年経ってそのへんは変わりましたか?
「なくなりましたね、その不安は。結局、すごくいいことが起こっても、その喜びが2日間ぐらいしか継続しない人間であることがわかったので(笑)。ずっと幸せ、みたいなことを求めるのをやめようと思ったら、すごく楽になりました。なんだかんだやっていくだろう、みたいな。5年もやって25歳になっていま音楽やってるんだったら、もうタイムリミットも何もないな、って気持ちになって。タイムリミットがあるならとっくに切れてると思うし、いま音楽やってるのならこの先もやっていくんでしょう、規模はどうなるかわからないけど、っていう気持ちですね」
――初めに触れていた“友達と趣味でやるようなユニット”motorpoolも
ミニ・アルバムが出たばかりなので、その話もちょっと聞かせてください。相方の西川真琴さんは札幌で一緒に活動していた仲間?
「そうです。それで最近上京してきた、ただの友達です」
――西川さんの歌は素晴らしいですね。彼に自分の曲を歌ってほしいみたいな?
「始まりとしては、男の人に歌ってほしいっていうのがありました。作家としてコンペに応募するにしても、時流的にアイドル、女の子が多いんですよ。それで出口として一個、あ、いい声の人いた、みたいな。仮歌をうたってもらったのが始まりなんですけど、曲にぴったり合ってたので、じゃあ何か出しちゃおうか、みたいな。motorpoolはあんまり売れたいとか、次はこういうアルバムを作りたいとかいう感じじゃなく、休憩ポイントみたいに思ってて。向こうがどう思ってるかはわかんないんですけど、わたし的にはそういう感じです。高校時代にバイト代からお金を出し合ってアルバムを作ってたみたいなテンションで何枚か出したいな、って」
――最近のインタビューで、ようやく最近音楽を楽しめるようになったっておっしゃっていましたが、そういうことがいくつか重なって状況がよくなってきたんですかね。
「そうですね。曲作りがほんとに楽しいです、最近。チャンネルも増えたし、自分でできることも増えたし。自分で采配できることが増えたんで」
――さっき人生の話も出ましたが、将来どんな活動をしていきたいですか?
「ロール・モデル的な人はいないんですけど、とにかく、出口がどこになるかはわからないけど、イヤでも耳についてしまうくらいたっくさん世の中に曲が溢れているような作曲家であり作詞家でありたいですね。わたしのことが嫌いな人も、わたしの曲は知らないうちにカラオケで歌ってしまうみたいな。そういう支配のし方がしたいです」
――支配(笑)。カラオケの画面に“作詞・作曲:山崎あおい”って映ったのを見て“うわ、あいつの曲か!”って?
「入れたからには歌わなきゃ、みたいな(笑)。そういう仕返しができるクリエイティヴなおばさんになっていきたいです」
――昔からよく言いますよね。“音楽で社会を変えることはできないが、音楽を聴いた人が社会を変えることはある”みたいな。
「裏ボス的な。そう、裏ボスですね。わたし裏ボスになりたいです」
取材・文 / 高岡洋詞(2018年11月)
■motorpool“will be”release live2018年12月19日(水)東京 渋谷
Songlines開場 19:00 / 開演 19:30
前売 2,800円 / 当日 3,300円(税込 / 別途ドリンク代)2018年12月26日(水)大阪 梅田
GANZ toi,toi,toi開場 19:00 / 開演 19:30
前売 2,800円 / 当日 3,300円(税込 / 別途ドリンク代)2018年12月27日(木)愛知 名古屋
パラダイスカフェ21開場 18:30 / 開演 19:00
前売 2,800円 / 当日 3,300円(税込 / 別途ドリンク代)■山崎あおい LIVE TOUR 2019
〜FLAT PLAT〜2019年3月15日(金)北海道 札幌 KRAPS HALL
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 4,300円(税込 / 別途ドリンク代)※4歳以上要チケット
※お問い合わせ: music fun 011-799-1000
(平日11:00〜18:00)
2019年3月22日(金)愛知 CLUB QUATTRO 名古屋
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 4,300円(税込 / 別途ドリンク代)※4歳以上要チケット
※お問い合わせ: JAIL HOUSE 052-936-6041
2019年3月23日(土)大阪 心斎橋 Music Club JANUS
開場 18:00 / 開演 18:30
前売 4,300円(税込 / 別途ドリンク代)※4歳以上要チケット
※お問い合わせ: GREENS 06-6882-1224
(平日11:00〜19:00)
2019年3月31日(日)東京 下北沢 GARDEN
開場 18:00 / 開演 18:30
前売 4,300円(税込 / 別途ドリンク代)※4歳以上要チケット
※お問い合わせ: DISK GARAGE 050-5533-0888
(平日12:00〜19:00)