渋谷をベースに活動するテクノDJ、
Sakiko Osawaが、初のフル・アルバム『
Sakiko Osawa』をリリースした。テクノ、ハウスはもちろん、ジャズ、ファンク、ロック、エキゾチックミュージック、アフリカンビートなど様々な音楽を吸収してきた彼女。大学生からトラックメイクをスタートし、DJとして国内だけでなく海外でもプレイしてきた経験がある。そんな彼女の生み出すサウンドは、ストイックさとグルーヴ感を併せ持つクールなダンスミュージック。では、彼女のこれまでの歩み、アルバム『Sakiko Osawa』に込めた思いなどを聞いていこう。
――Sakikoさんは、どんなきっかけで音楽の道に進んだんですか?
「もともとは、3歳からヴァイオリン、小学校くらいからピアノをやってたりと、親が好きだったのでクラシックから始まったんです。中学生くらいのときは、ロック・バンドでベースを弾いてました。日本大学芸術学部の音楽学科に入って、情報音楽コースでDTMや音響学を勉強したんですよ。なので、DJやるよりも、トラックメイクが先だったんです。ディスクユニオンでバイトしてたのでレコード買ったり、友だちとクラブに遊びに行ってて、その頃、初めてDJをやらせてもらったんです」
――影響された音楽を挙げると?
「もともとエレキベースをやってたので、中学のときに憧れてたのは
マーカス・ミラー。あと、ミクスチャーのバンドをやってたので、
レッド・ホット・チリ・ペッパーズが好きでスラップベースばかりやってました。ディスクユニオンもソウルブルース館でアルバイトをしていたこともあって、振り返ると黒人の音楽が好きなんだなって改めて感じましたね。テクノもデトロイト・テクノが好きで、URのヴァイナルを集めてる時期もありましたし、最近はアフリカっぽいのを聴いてたりもしますし。メロディがきれいだったり、ベースがかっこいい音楽は、やっぱり黒い音楽の影響かなと思います」
――曲作りを始めた頃は、どんなサウンドを意識していましたか?
「その頃、Warp RecordsとかNinja Tuneが好きだったので、初めに打ち込んだのはドラムンベースだったんです。でも、かっこよくできなくて4つ打ちを作っていったんですよ。あと、ハタチくらいのときにエレクトロが流行ってて、ロックとクラブの間みたいな音楽も好きだったんです。それと同時にミニマルテクノも好きで、
リッチー・ホウティンとか見に行ってました。その頃の私のパフォーマンスは、ライヴセットが多くて、自分でマッシュアップをやったりしてたんですよ。私、コントローラーとかシンセとか機材が好きなんです。ただ、ライヴセットとPCDJとの違いって、オーディエンスから見るとあまりわからないじゃないですか。あとクラブ・イベントだと前後の人とのつながりが合わなかったりするし。そういうこともあって、DJプレイに移行していったところはあります。いろんな音楽をかけるのも好きなので」
――では、これまでの活動について聞かせてください。
「DJをやりながら、自分の曲だけのライヴセットもやりつつって感じでした。クラブだと、WOMB、ContactでDJやることが多いですね。イベントだと、ageHaで
石野卓球さんがレジデントのWIRED CLASH、WOMBのSTERNEのラウンジで出させていただいたり、りんご音楽祭、Sawagi Festivalとかに出させてもらいました。大阪に5年間くらい住んでた時期があって、東京と行き来しながらDJをやってたんです。海外だと、2014年にアムステルダムのADE、上海のThe Mansionというクラブ、今年の夏はモントリオールの野外イベントに出たりしました」
――曲作りにフォーカスすると、どんなイメージで制作してるんですか。
「曲作りは、日々やってるんですよ。ライフワークって感じですね。機材を触るのが好きなので、新しい機材を使う機会があると、このシンセの音いいなっていうところからエディットして曲を作ったりもします」
Sakiko Osawaの自室機材
――瞬発力で作ると。
「そうですね。あと、私の中の“流行”がその時々で違うこともあって、サクッと作ることが多いです」
――機材以外でインスパイアされるものは?
「普段の仕事が広告のコンテンツを作ることだったりするので、ステージの演出、照明映像、音響に関わることが多いんです。デジタルの最先端なアートとかから刺激を受けます。新しい技術を、私の中で音に置き換えると理解しやすいんですよ。トラックメイクは、Ableton Liveというソフトを使ってるんですけど、最初から16小節構成で、とか、なんとなく枠組みを決めてから作ることが多いです。私自身、わりと論理的に考えるのが得意なんです。ただ、フレーズとかは感覚的に作ってます。構成はきっちり作るけど、特にこのコードだからこうしなきゃいけないっていうのは決めないですね」
――なるほど。では、初のアルバム『Sakiko Osawa』の話題に移りましょう。最初にコンセプトはあったんですか。
「いえ、特にこだわったコンセプトはなかったんです。今年のモードで作っていった10曲って感じです。全体を通して、今年私がDJでかけてた曲っぽくはなってます。民族っぽい音、ちょっとエキゾチック、アシッドっぽい音とか、自分の曲に反映されてると思います。振り返ると、先行してEPで発売した〈Black〉〈Savannah〉〈Bacab〉〈Syu〉の4曲が先にできたものなので、そこが核になって派生していった音って感覚はあります」
――ベースラインがファンキーな「Black」は、どのようにできたんですか。
「アルバムの中で一番最初にできた曲なので、前までの私の感じと新しい感じがいい塩梅で混ざってるなと思います。前は音数が多かったんですけど、海外のアーティストってスカスカじゃないですか。DJとしてもつなぎやすいし、自分でも音数少ないものにトライしたいなって思ったんです」
――パーカッシヴな「Savannah」は?
「自分の中でとても好きなトラックですね。そのころ、いいサンプル音源をいっぱいゲットして、めちゃトライバルなの作れるじゃんウェーイってノリで作っちゃったんですよ(笑)。テクノロジーでパーカッション叩くってことを楽しめた曲ですね」
――「Bacab」は、キラッとした音とビートの跳ね感がマッチしたナンバーです。
「〈Bacab〉は、マヤ文明の雨の神様って意味なんです。雨の日に作ったからってだけなんですけどね(笑)。ピアノやギターも入ったり、意外な展開を作りたかったんです。あと、波の音みたいな変なノイズっぽいのをコンスタントに入れてるんですけど、例えばクラブで流れたときに、その音で誰か引っかかってくれるかなと思ったりはしましたね」
――「Syu」はデトロイト・テクノ感のあるトラックですね。
「これも、新しいアナログシンセをもらってウェーイって気持ちで作ったんです(笑)。音が太いシンセで、面白いフレーズを作ってみたかったんです。あと、クラブのメインタイムでも、オープン時間でも使える曲を作ってみたくてトライした曲でもあります。初めからキックが入るトラックというのも、今まで作らなかったタイプですね」
――アルバムを作り終えての、今の感想を聞かせてもらえますか。
「普段から曲は作ってるけど、ちゃんと1曲として完成してしかも10曲も作ったのは結構達成感はあります。結構、ループ程度で終わってしまうことも多いんですが、今年は作った曲はほとんど仕上げました。どういうテンションで向かっていけばいいかとか、ちゃんと集中して曲にできたかなと思います」
――ちなみにSakikoさんはいま、どんな音楽に興味がありますか?
「
Objektの新しいアルバムも最高にかっこよかったし、
SCUBAの新しいのもかっこよかったです。あと、
Cercleってフランスの城とかでDJやったりするYouTubeのチャンネルがあるんですけど、その
ACID ARABの
ライヴセットがすごくよかったです。カレー屋感のあるシンセがたまらなくて、私もこの音欲しい!って思っちゃいました(笑)。あと、生でDJを見れてないんですが、海外でもご活躍なPowderさんのトラックが好きでよくかけてます。それと、&ME、Adam Port、David Mayerとかベルリンのアーティストだけどちょっとアフリカンなサウンドを作ってる人たちに影響されてましたね。私の
Bandcampを見ると、私の趣味が丸わかりなので興味ある方は見てください」
――これから先、チャレンジしたいサウンドは浮かんでいますか?
「今回、アルバムは全曲自分で作ったんですけど、楽器を演奏できる方も周りにいるので、そういう方と曲を作ってみたいなというのはあります。この間MUTEKで来日した
Nicola Cruzとか、楽曲がとてもエキゾチックで素敵なので、そういう音にもトライしてみたいです。あと、テクノ、ハウスのBPM120〜130あたりの音も大好きなので、いい割合で両者をクロスオーヴァーしていきたいなとは思ってます」
――では最後に、近々のDJの予定を聞かせてください。
「12月31日は、ContactでDJやります。メインフロアのStudioXには
Timmy Regisfordが出るんですけど、私はContactフロアで
Kuniyukiさん、
Gonnoさんなどとご一緒させていただきます。新年のカウントダウンもあるので、遊びに来ていただけるとうれしいです」
取材・文 / 土屋恵介(2018年12月)