1月に「星つむぎの歌」、4月に「孤独の向こう」とコンスタントに新曲を発表している平原綾香。2,690人の詩人が参加した「星つむぎの歌」のCDが3月にスペースシャトルエンデバー号に乗り宇宙で聴かれたり、環境問題を扱うテレビ番組のリポーターとして南太平洋のキリバス共和国を訪れ、現地の人たちと合唱をする貴重な経験をしたり、今年の彼女は精力的な活動を続けている。そして、7月16日には新たなスタイルをかたちにしたニュー・シングル「さよなら 私の夏」を発表。そんな彼女に本作について話を訊いた。 「Jupiter」「Eternally」「星つむぎの歌」といった壮大なテーマの曲を歌うイメージが強い平原綾香。しかし、今回リリースされるニュー・シングル「さよなら 私の夏」は、前述の楽曲とはまったくタイプが異なる。夏という設定、リアルで切ない恋の歌、モータウン・サウンドの弾むようなリズム……と今までの彼女のイメージを覆す、そんな一枚となった。
「今までの楽曲はバラードの方が多くて、あと
〈Jupiter〉を12月にリリースしたので、私の曲は冬のイメージがあるんですよね。夏に関する曲ってなかったんです。だから今回はサマー・ソングを作ってみようというところから始まりました。切ない恋の気持ちをアップ・テンポのサウンドに乗せて。そう考えたときに、60年代のモータウン・サウンドが浮かんだんです。
シュープリームスとか、
ロネッツとかの歌を聴くと、歌詞は切ないんだけど、明るく歌ってますよね。そういう曲を歌ってみたら、新鮮に感じてもらえるのかなって」
詞は、「Jupiter」「CHRISTMAS LIST」などを手掛けた
吉元由美によるもの。また、サウンドは“感情直結”型ギタリストとして有名な西川進が手掛けている。切ない歌詞と勢いのあるサウンド、そして悲哀を押し隠すようなヴォーカルによって、夏の恋物語が切なくも情熱的に脳裏で展開する。
「最初のイメージでは、夕陽が落ちる海岸線を横目で見ながら、車で走りながら聴いている感じのイメージだったんです。テーマは“夏の別れ”ですけど、この曲の主人公の女性は強い心の持ち主ですね。潔さもそうですけど、行動力とか、自立している感じがします。今までは、宇宙とか、星とかをモチーフに、大きな愛について歌うことが多くて。そういうイメージを自分のなかでも決め付けていたんです。それで実際に今回の歌詞が来たときに、すごい身近な恋の歌だったから、“私が歌っていいのかな”って不安にもなりました。私の曲の中では、サビ始まりはなかなか珍しくて。でも、切ない歌詞とアップ・テンポの曲が、いいバランスで仕上がっていると思います。サウンドは今までの雰囲気も変えたいし、懐かしいモータウンのサウンドってギターが印象的ですよね。だからギターでアレンジャーといえば西川進さんだろうと。歌はまっすぐに歌うようにしてましたね」
カップリング曲「空に涙を返したら」も吉元由美の詞だが、作曲は「星つむぎの歌」に引き続き、
財津和夫が担当した。“愛する人との別れ”による煩悶を乗り越え、悲しみを振り切った主人公が、一つの答えを見出す――。成長していく主人公の姿が感動を呼ぶ作品と言えるだろう。
「財津さんの曲は歌いやすいですね。歌えば歌うほど味が出てきて、改めてすごさを実感して“すいません”という気になりました。〈空に涙を返したら〉の詞は、〈さよなら 私の夏〉の直後のような、切ない気持ちからポジティヴな方に気持ちが動いてる感じですね。人を愛して、愛を知って、自分を知ることができて……。結局、生きているってことは、“信じ合うこと”だって」
作品をリリースするたびに、大きな壁を乗り越えてきた平原綾香。本作によってまた新しいスタイルを築き、彼女は着々と表現力の幅を広げている。次はどんな楽曲を手掛けるのか? 今作の新たな試みはそんな楽しみも湧いてくるきっかけにもなるだろう。
取材・文/清水 隆(2008年6月)