自分が魅せられた“ヒップホップ”を表現したかった “DEFなYが送る特別授業”YUKSTA-ILL『DEFY』

YUKSTA-ILL   2019/02/12掲載
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 東海エリアを代表するヒップホップ・クルー、RC SLUMに在籍する“三重県名古屋市鈴鹿区在住”の重要参考人であり、MASS-HOLEISSUGIらとコレクティヴ、1982sに名を連ねるラッパー、YUKSTA-ILLが、前作『NEO TOKAI ON THE LINE』から2年を経て、自らのヒップホップ・ライフを証明するニュー・アルバム『DEFY』をリリースする。

 「渾身のソロマイカー 独り占め この快感」(「DEFY INTRO」)とアルバム冒頭でラップしているように一切の客演を招かず、MASS-HOLE、FALCON a.k.a. NEVER ENDING ONELOOP、OMSBDJ WhitesmithJUNPLANTDJ HIGHSCHOOLDJ SEIJIBUSHMINDといった、各地で出会ったビートメイカーと共に獲得した、さらなる“強度”を確認しよう。
――“全国の猛者”として参加したビートメイカーはどのように選ばれたんですか?
 「基本的に多くは、旧知の“いつかやりたい”って話していた皆さんです。約束が流れていくのが俺はきらいで、必ず実現したい。関係性が近い人と作ることは当然の流れだけど、自分の作品は何をしてもRC SLUMだと思うから、外の人たちとも作りますね。今回の収録曲で最初に完成した〈PIECE OF MIND〉は長崎のDJ MOTORAさんのトラックを使っていて、この曲のおかげで全体の方向性やコンセプトが定まりました」
――DJ MOTORAさんと出会ったきっかけは?
 「『NEO TOKAI ON THE LINE』のツアーの時、長崎でOWL BEATSが紹介してくれました。MOTORAさん、“ちょっと待ってください!”ってぐらい次々とトラックを送ってくれて(笑)。〈PIECE OF MIND〉をRECして送ったら、すぐリミックスが届いて、レスポンスも速い(笑)。“混ぜるのどうですか?”ってトラックを切り替えるように提案してみたり、アイディアを出し合って。そういうのはうれしいです、応えたいし。俺も、MOTORAさんがプロデュースした長崎のラッパーMARCOの〈TAKE OFF〉(アルバム『FIRE BIRD』収録)という曲に参加しています」
――先行配信された「TILL THE END OF TIME」、これはKOJOEさんが「ビートを選ぶセンスがヴィンテージ」とツイートされていた曲ですね。
 「“昔のやつが出てきた”ってKOJOEくんから、15年前のNY時代に作ったトラック集をもらったんですけど、その中から選びました。まさにクイーンズ周辺のラッパーが使ってそうなゴリゴリかつ哀愁漂うトラックだらけで“やべえ、さすが現地にいた人だ!”ってなりましたね。その中で今回のこのトラックはすごく開けた感じだったというか、ピアノを生で弾いていて、人間らしく生々しくて、単純なループじゃないところがすごく気に入ったんです」
――この曲をきっかけにアルバムを聴くと、いい意味で裏切られることもありそう。言葉が詰まった曲も、リリックがちゃんと耳に届きました。
 「フロウに馴染ませて言葉を詰めた『QUESTIONABLE THOUGHT』と、原点回帰と“伝えよう”という姿勢を重視した『NEO TOKAI ON THE LINE』との中間くらいの感触を意識していました。それぞれまったく違う作品なので、あくまでもイメージとして。OWL BEATSとまわったツアーのとき、物販用にリミックス音源(『YUKSTA-ILL REMIX EP/REMIX BY OWL BEATS』)を作ったんですけど、そこに1曲だけ入れた新曲〈DRASTIC REMEDY〉もヒントになりました」
――前半は特に、強くて硬い言葉が並んでいます。具体的でかつ直接的な言葉が多いですが、結論めいたことは言っていない。これは意図的なものですか?
 「聴いたみんながそれぞれに答えを出してくれれば。俺の中では結論が出ているんですけど、ヒップホップミュージックって、リスナーにゆだねるというか、聴いて考えて理解してもらうという本質的な部分があると俺は思います。いまは、もっと分かりやすい表現が好まれるし、受け入れられないものはそこで閉じられてしまう。耳触りのいい音楽がダメってわけではないけど、あくまで自分が魅せられたヒップホップを、この時代に表現したかった。何かに合わせるのは俺らしくない。自分のやり方で、メッセージも込めて、アルバムとして届けたかったですね」
――その意図は最初からあったんですか?
 「早い段階で、アルバムのアウトラインと『DEFY』ってタイトルは決めてました。“DEFY”は“ものともしない”“反抗する”とか強い意味を持っていて。あとヒップホップにとって“DEF”ってすごく重要な言葉だし、“DEFなY(UKSTA-ILL)”って意味も込めています。“DEFY”の対象は積年のもの。昨日今日だけの気持ちではないです。これまでは触れられなかったトピックについて、いまなら描くことができるという気持ちになったし、もし昔やってたらもっといやらしい感じになってたと思います」
――アグレッシヴな言葉でも品があって、洗練されていました。
 「『NEO TOKAI ON THE LINE』を出してからの2年間、いろいろと悩んだ部分はありましたし、なにくそってこと、たくさんあったけれど、それらを踏まえても、自分は曲げられない。もっと強度の高いものを作ろうと思いました。“DEFY”はそんな感じの意味で捉えてもらえれば」
――地元で活動を続けていることにも関係がありますか?
 「名古屋も東京も、それぞれ良いところがありますよね。住まないけど(笑)。自分は、いまでも鈴鹿にいます。ヒップホップ特有のローカリズムって大事だと思ってて、鈴鹿や四日市でのイベントを続けて根をはって、“YUKSTA-ILLは俺の地元にいるよ”って言ってもらえたらうれしい。そのうえで名古屋でも東京でも自分はどこでも行きます。でも個の力の強さは重要だけど、信頼する仲間と“やる”ことに意味があるなって。今回はRC SLUMとしてP-VINEとディールしていて、ジャケットはRC SLUMのボス、ATOSONEがデザインしてくれました」
――「俺と俺の韻は頑なに固い」(「DEFY INTRO」)とおっしゃっているように、らしい言葉ですね。
 「あとは、聴いて奮い立つような、強い気持ちになってもらいたいからこそ、悲観的になる自分も入れたかった。良いことばっかじゃなくても“DEFY”だぜっていうムードのまま、強気と内省を繰り返す。強さと弱さは表裏一体で、強くありたいという暗示でもある。人間の弱さも感じるアルバムの流れで、最終的には“そこじゃない、それだけじゃない”ってところに辿り着きました」
――それは、聴くたびに何かを発見することができる、多面的な作品になった理由でもありますね。配信で気に入った曲だけを買うのも悪くないけど、それだけでは受け取れないものがたくさんある。
 「そういう音楽の聴き方に対しての“DEFY”って気持ちも、もちろんあります。いまは山を登って頂上にいる感じ、すがすがしいですね。アルバムを作るのって、魂をすり減らす作業だし、楽しい部分もあるけど、妥協は一切ない。だからこそみんなに聴いて欲しいです」
――シリアスな一方、裏テーマのように特撮ヒーローがあしらわれていました。刃頭さんはバルタン星人なの?って思わせるような演出も(笑)。
 「あれはたまたま〈LONELY CLOWN〉の前にあったら面白いかなって。刃頭さんをバルタン星人に見立てたわけではないです(笑)。ちなみに〈DEFY INTRO〉のトラックは昔、トラスムンドで買ったJJJのビート集に入ってたんです。“あれ……だよね?”って反応しちゃって、本人からデータをもらって寝かせてました。ちょうど今作のイントロにぴったりハマりましたね。ちなみに、アルバムに参加してる“RC SLUM合唱団”や“鉄のアマゾンの皆さん”にも最大級の感謝を」
――そして今回は、客演を迎えず完全に独りでラップしていますね。
 「誰かをフィーチャーすることも途中まで考えてたんですけど、MC KHAZZと話したとき、“一人でやりきるべきでしょ”って言ってくれたことが後押しになりました。その一言で、迷いからぐっと前に出ることができた。格好いいラッパーと一緒にやりたいのはもちろんだけど、今回は違うとあいつが示してくれました。あと、アルバムの完成が近づいてきて“特典でミックスCD付けませんか”ってMercyくん(WDsounds)とした話が大きくなって、12月に出したDJ BLOCKCHECKとの『ABYSSS MIX』になったんです。じゃあ、そっちで色んな人と曲を作ろう、ってなりましたね。リリース順は逆ですけど」
――『ABYSSS MIX』は「RUMOR'S ROOM」のリミックスも聴けるし、『DEFY』への期待が高まりました。「COMPLEX」の少年はご自身ですよね。アレン・アイバーソンがヒップホップを教えてくれたっていうことは前回のインタビューで伺ったんですが、初めてラップをしたのはいつだったんですか?
 「〈COMPLEX〉では、ラップ駆け出しって意味で“少年”って言ってるけど、描いているのは20代前半のころの自分で、日本に戻ってKOKIN(BEATZ THE ILLEST)と出会ってからのこと。初めてマイクを持ったのはアメリカにいた高校時代です。学校の友達がやってたラップ・クルーに俺も参加することになって、クルーの家、ラボみたいな感じでスタジオ機材とかがある地下室でラップしたのが最初。その流れで一度だけライヴもしたんですよ、手応えまったくなしでしたけど……。あ、でもそれよりも前に、JAY-Z〈CAN I GET A...〉のMVを観てたら急にラッパーになりたくなって、小節もなにもわからないまま映像に合わせてリリック書いてラップした覚えがありますね。なんでその曲でラップがしたくなったのかはわからない(笑)」
――『ラッシュ・アワー』のサントラですよね、確かに意外 (笑)。次のアルバムの予定や今後の活動について教えてください。
 「作品は作り続けていきます。1982sで音源を作る話もあるし、近場で帰ってきた人もいるし。ソロでの次回作は、ある1人のビートメイカーと作ろうと思っています。その作品を先に出そうと考えてもいたんですけど、『DEFY』のイメージが早くに固まったので。今後いつどんな順番でリリースになるかは、まだわかりません」
――どれも楽しみです。ところで今日着ているパーカー、TYRANTのプリントなんですね。ボディはスーパーフーディだし、サイズ感もすごく似合っていて、まさに“DEFなY”、ヤバいです。
 「これはもうかなり昔の、10年以上前のもので、自分でもう一度黒く染め直しました。やっぱいくつになってもオーバーサイズが好きなんですよね(笑)。ISSUGIくんに“サイズ感がいい”って言われたことがあって、彼に言われると説得力が違うし、嬉しいですね」
取材・文 / 服部真由子(2019年1月)
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