KID FRESINOのアルバム『ài qíng』を締め括る「Retarded」やBIMのアルバム『The Beam』のリードトラック「Bonita」、ERAのアルバム『Culture Influences』収録の「Drop」など、人気ラッパーの重要曲を手がけ、ビートメイカーとして評価が高まるなか、VaVaの2枚目となるラップ・アルバム『VVORLD』がリリースされた。昨年、怒濤のペースで発表された3枚のEPからピックアップされた6曲を含む全16曲からなる本作は、BIMやtofubeats、Yogee New Wavesの角館健悟をフィーチャー。さらにFutureのプロデュースを手がけるKINGBNJMNら、海外のプロデューサーのビート提供を受けながら、オートチューンを交えた柔らかくあたたかみのあるビートとラップのフロウによって、弱さや優しさ、ナードなライフスタイルなど、彼の等身大の姿をありのままに描き出した転機作となっている。
――THE OTOGIBANASHI'Sへのビート提供や2枚のアルバム『Blue Popcorn』、『Jonathan』を通じて、ビートメイカーとして認識されていたVaVaくんが2017年のアルバム『low mind boi』以降、ラッパーとしても活動することになった経緯を改めて教えてもらえますか?
「CreativeDrugStoreの仲間たちと2年半くらい共同生活を続けながら昼夜問わずビートを作っていたんですけど、その間に色んなストレスや確執が生まれて。それが我慢できなくなって、2015年の年末辺りに実家に逃亡したんですけど、CreativeDrugStoreやTHE OTOGIBANASHI'Sから離れて、いざ、独りになった時、自分には何もないなと思ったんですよ。で、その数ヶ月後に、“曲は出したことないけど、以前やったことがあったラップにまたトライしてみよう”と。それで後に『low mind boi』の1曲目に入れた〈My Shit〉を録って、それをsummitの増田さんに送ったら、“良かったらラップアルバムを作ってみませんか?”って言ってくれて。それをきっかけに『low mind boi』の制作を始めたんです」
――自己を確立したいという意識がVaVaくんを音楽制作に向かわせた、と。
「そうですね。だから、2017年の7月に出した『low mind boi』というアルバムには“やってやるぞ”っていう野望が牙をむいて、それがリリックに表れていると思うんですけど、そういう作品を作り上げたことで、CreativeDrugStoreの仲間たちともまた話せるようになりましたし、BIMが去年出したアルバム『THE BEAM』に入っている〈BONITA〉(MVの公開は2017年12月)って曲は、もともと、僕が自分でラップをしようと思っていたんですけど、“今だったら仲間にビートを提供出来るかもしれない”と思って、こちらから“このビートちょっと聞いてみて”と提案したり。そんななか、自分に対する自信が生まれてきたり、仲間に対してもフラットに接することが出来るようになったんです。『low mind boi』以降の最初の作品である昨年8月のEP『Virtual』は、そうした気持ちの変化がリリックや気持ちの入れ方、音楽の世界観に反映されましたし、自分のビートとラップのみの『Virtual』から10月リリースのEP『Idiot』は海外のビートメイカー、12月のEP『Universe』はtofubeatさん、Yogee New Wavesの角舘健悟さんをはじめ、全曲がフィーチャリング。その後にリリースする今回のアルバムには3枚のEPから抜粋した曲を収録しようと、リリースプランを考えて、ものすごいハイペースで制作を進めていったんですけど、今回の『VVORLD』は『low mind boi』以降の約1年の間に生じた心境の変化が色濃く表れた作品になったと思いますね」
――ちなみに、VaVaくんが2曲のビートを提供していたERAさんに昨年インタビューした際、“駄目な自分を肯定した『low mind boi』には大きな影響を受けた”と語っていましたよ。
「それはホントうれしいですね。ラッパーは格好つけてなんぼだと思うんですけど、俺は格好よくないから、格好つけるのは違うなって思ったんです。ただ、『low mind boi』はあの時点での自分の本心ではあったんですけど、リリース後に振り返った時、まだまだ格好つけている自分がいるなと思ったので、その反省も踏まえて『Virtual』ではもう格好つけないよって歌ったんです」
――その開き直りや気持ちいい振り切れ具合が今回のアルバムの起点になっていますよね。
「そうかもしれないですね。『Virtual』と今回のアルバムにも入っている〈現実 Feelin' on my mind〉では、僕がゲームばかりやっていた中学高校時代に抱いていた妄想、"みんなを助けるために戦って、ヒロインにモテるっていうゲームの世界に生きられたらいいのに"っていう、あまり人に言いたくない妄想や感情をリリックにしたんですけど、あの曲を形にしたことで、考え方が変わったというか、自分が自分であることがめちゃめちゃ楽になりましたね」
「そうですね。ここまでトラックを作り続けてきて、自分の好きな音が分かってきたということはあると思います。ホーンのサウンドはもともと大好きなんですけど、ドラゴンクエストの音楽をオーケストラで再現する演奏会を独りで観に行ったことがあって、そこで大感激したことをきっかけにオーケストラ系のサンプルフレーズを集めるようになって。現時点ではそれらを複雑に組み合わせるスキルがまだ足りていないんですけど、ホーンに関しては、自分なりに操れるようになってきたので、自分のトラックで使う機会は確かに増えましたし、鍵盤も、まだ、そこまで複雑なフレーズは弾けないんですけど、曲の軸となるネタに重ねて弾く機会も増えましたね。あと、『low mind boi』との大きな違いとしては、ラップのメロディに対してより自覚的になったところが大きくて、今まで鼻歌のように作っていたメロディをオートチューンを使いながら形にすることで幅を広げることが出来た気がします」
「日本のビートメイカーでも良かったんですけど、人が手がけた曲だったら自分はラップに専念出来るので、今回のアルバムではラッパーとしてのVaVaの個性を色濃く出来るんじゃないかなって。そういう意図がある一方で、色んな方々とコラボレーションを行うにあたっては、相手にも参加してよかったと思ってもらいたかったので、ラッパーとしての経験値を少しでも上げた3枚目のEPをコラボ曲で固めたものにしたんです。〈Virtual Luv〉にフィーチャーしたtofubeatsさんは、彼の映像企画『HARD-OFF BEATS』がビートメイカーを志すきっかけになったこともあって、自分にとっては感慨深い曲でしたし、tofuさんに満足してもらえるように気合いが入った曲でもあって。かたや、角館さんは直接面識はなかったんですけど、Yogee New Wavesは作品を愛聴していて。アルバム『WAVES』のツアーファイナルも観に行ったいちファンだったんですけど、〈星降る街角〉のビートを作っている時に“ここに角館さんの声が入ったら最高なんだけどなー”と思い付いて、声を掛けさせてもらって。夢が実現出来てうれしかった反面、プレッシャーもものすごくて、今回はプロデューサーとしても鍛えられた作品でもありますね」
――ヒップホップ以外で普段のVaVaくんはどんな音楽を聴かれているんですか?
「一言で言うなら、“聴いていて、カロリーを消費しない音楽”が好きですね(笑)。“分かる分かる!”って感じでリリックに共感出来るなら、カロリーは消費しないんですけど、よく理解出来ていないのに、ハードにラップしている曲を聴くのはカロリーを消費して疲れてしまうんですよね。だから、ヒップホップは一番好きな音楽ではあるんですけど、ヒップホップに疲れるタイミングはかなりの頻度でやってきますし、そういう時に優しく響くゲーム音楽や映画音楽、バンド系だとThe 1975やInc. No World、あと、ジャズだとキース・ジャレットとか、全く別のジャンルを聴いて癒やされたりしています」