THREE1989が挑んだ“愛のアルバム”『Kiss』

THREE1989   2019/03/08掲載
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 1989年生まれのShohey(vo)、Datch(DJ)、Shimo(key)によるスリーピースバンド、THREE1989(スリー)が3rdアルバム『Kiss』をリリースした。3人が影響を受けている1980年代〜2010年代のブラックミュージックを存分に堪能できる1枚で、タイトルには“挨拶”“愛の表現”“感謝”という意味が込められている。作品ごとに進化を続けている3人にアルバムの魅力や、いま気になる音楽を尋ねた。
――私事なんですけど、昨日失恋をしまして。
Shohey 「え? は、はい(笑)」
――ケジメをつけるために、昨晩は1人でみなとみらいの山下公園へドライブに行ったんですよ。車の中でTHEREE1989の『Kiss』を流しながら。
Shohey 「はいはい」
Datch 「……嬉しいです(笑)」
――1曲目の「Fresh Kiss」から前向きで煌びやかな世界観じゃないですか。楽しいことだけを見せてくれるというか、これは吹っ切れそうだと。
Datch 「アハハハハ!」
Shohey 「行くぞー!みたいな曲ですからね」
――4曲目の「mint vacation」を聴いたあたりから、完全に次の恋へ切り替えられそうだなと思って。……そしたらですよ! 「morning light」のバラードで、もう一度、気持ちを引き戻されて。車を降りて、みなとみらいの海辺、ライトアップされた観覧車、山下公園のベンチに座る恋人たちを見てたら自然と涙が……(笑)。
Shohey 「嬉しいと言っていいのか、なんだか(笑)」
Datch 「我々としては嬉しいですけど」
――そこからヒップなブラックミュージックの「monotone」が流れてきて。再び前向きな気持ちになって。“よし、元気になったし帰ろう”と思ったら9曲目に「Rambling Rose」が流れてきて。“……ちょっと待てよ”と、ウインカーを切り替えて先ほどの道に戻るという。
Shohey 「アハハハハ、Uターンして」
――最後は「Kiss In The Sun」でまた明るい気持ちへ連れて行ってもらいました。改めてですけど、『Kiss』は傷ついた僕の心を優しく撫でてくれて(笑)。
Shohey 「逆に、嬉しいっすね。そんなタイミングで聴いてもらえて」
Datch 「中々、聞くことの少ないシチュエーションかもしれないです」
――音楽的にどうとかじゃなくて、『Kiss』はもっと身近な生活の中で助けてもらったんです。だからこそ、今回はどんな映像を思い浮かべながら曲を作っていたのか聞けたらと思って。
Shohey 「僕が書いた〈Kiss In The Sun〉は、限定した時間を表しているんです。これはリアルにあった話なんですけど、良いなと思った女性と一緒に寝てて。朝、僕の方が早く目を覚まして彼女の顔を見ていたら、ふと“キスしたいな”と思って」
――キスしたんですか?
Shohey 「だけど“まだキスをしたらまずい関係だよね”と躊躇している時に彼女の顔に差し込む朝の光、白い部屋。そんなタイミングで〈Kiss In The Sun〉が流れるとバッチリかなと思って」
――なるほど。恋愛って結ばれるよりも、もっと手前の目が合っている瞬間が幸せだったりしますよね。
Shohey 「そうっすねぇ!」
――ゴールに行かない方がね、実はドキドキしますから。
Shohey 「僕が目を覚ましました。それで彼女も目を覚まして2人の目が合った瞬間、〈Kiss In The Sun〉のイントロが流れてくるっていう。それで小鳥たちが“早くキスしろ”ってさえずり出すイメージです(笑)」
――ドラマのワンシーンみたいですね。
Shimo 「僕が書いた〈monotone〉という曲はピエロが流す涙の理由を曲にしました。その物語は男の子と女の子がいて、女の子は重い病気と闘っているんです。そして男の子は女の子の俳優になりたかった夢を代わりに叶えようと奮闘する。だけど男の子が俳優として有名になればなるほど、女の子の病状は悪化して。結局、男の子が有名になったことで彼女は死んでしまうんです。そこで僕は“二兎追うものは一頭も得ず”というのを伝えたくて」
――ピエロというのは、何を指しているんですか。
Shimo 「俳優って違う人間を演じるわけですから、要は道化師なんですよね。男の子は自分が有名になったのと引き換えに、彼女が死んでしまって。人前では絶対に泣いてはいけないけど、仮面の中では耐え切れずに泣いてしまう。そんな情景を書きました」
Shohey 「それは切ないね」
――蒼井 優さんは、映画『フラガール』完成披露試写会のときに、現場に喪服姿で来たそうですよ。大好きな祖母が亡くなってお葬式に行っていたと。だけど試写会があるから出棺までいられなくて。舞台ではフラの衣装で笑っていたけど、終わったときに会場の外で“ダメな孫だな”って涙を流してたというのが印象的で。
Shimo 「あぁ……まさにそれで。そんな表と裏の心の揺れ動きを1曲にまとめました。僕たちもTHEREE1989として会場がどんどん大きくなる上で、何かを払わなければいけないんじゃないかと思ってて。大きな買い物をするには、それなりの代償がいるんじゃないかなって。それを1曲に込めました」
Datch 「僕の場合〈morning light〉はタイトルのまま、朝の情景をイメージしているんです。実は〈Time Line〉ときにもおおよそはできていたんですけど、アルバムのコンセプト的にハマらなくて収録しなかった。だけど、今回は“90年代”というのが裏テーマとしてあったので、他の曲の並びとも合致して。楽曲の世界観でいうと、広い意味では夜明けなんですけど。夜明けにもいろんな意味があって、日がまたいでも違う自分に生まれ変わるというか。それはそれで新しい自分に生まれ変わって“頑張ろう”という気持ちで書きました」
Shimo 「確かに、夜にピッタリだよね」
Shohey 「僕は〈morning light〉って、結婚式の曲だと思ったんですよ」
Datch 「アウトロは結婚式場で面と向かって彼が彼女に“自分はこうだから、こうしていきたいんだ”という思いを伝える風景をイメージして書きました」
Shohey 「めっちゃロマンチックな曲ですよね。初めて歌詞を読んだ時には、俺には絶対に書けないと思いました。こうやって曲を並べてみると、全部が恋愛をテーマにした曲に感じると思うんですけど。恋愛だけじゃなくて、音楽に対する愛だったり、地元や家族に対する愛を表現したくて。今回、僕らは30年間という人生の節目を迎えるにあたって、愛を表現したいと思いました……だから『Kiss』は愛のアルバムですね」
――デモから大きく変わった曲はあるんですか。
Shohey 「〈Tiny Dancer〉の最初はヤバかったね」
Shimo 「最初に複雑なコーラスがあるんですけど、それがサビの予定だったんですよ」
Shohey 「そうなんです。トラックが送られてきて“Shimo、これは無理だって!”と言いました(笑)」
Shimo 「最初は1個もキャッチーなところがない曲だったんです。僕は浮遊感をテーマにしていたけど、それは3人で話し合って今の形にしました。ハービー・ハンコックも難しいことはしているけど、どこかキャッチーな要素やポップなことをしていたりするし、この曲もサビは掴みやすいメロディにしました。ただ僕のエゴなんですけど、曲の終わりにファンクのカッティングを入れて。ライヴで弾きたいからどうしても入れたいと」
――THEREE1989ってメロディはキャッチーだけど、演奏や音の入れ方はマニアックというかテクニカルなことをしてますよね。
Shohey 「嬉しいっす。そこはずっと狙っているので。メロディは分かりやすくて、後ろの音は細かいことをやっているっていうね」
Shimo 「それこそ1stアルバム『Time Line』からやっていることではありますね」
――3人はどんな音楽を聴いてきたんですか?
Shimo 「ロックはもちろんですけど、民族音楽とか現代音楽も聴いてます。楽器をやっている人にありがちですけど、音楽理論を勉強するとジャズにハマっていって、どんどん難しい音楽を求めるようになった。それこそ最近はピアノだけのアンビエントな作品を聴くようになりました。トム・ヨークのプレイリストをチェックしたり、尊敬している坂本龍一さんのプレイリストに入っているゴールドムンドの『Occasus』をひたすら聴いてます。異次元に連れて行ってくれる感じで良いんですよね」
Datch 「自分は……20代前半はクラブミュージックを聴いてましたね。曲を作るようになってから、ルーツを掘っていこうと思ってTLCとか、R.ケリーがプロデュースしているアリーヤも好きですし。ターンテーブルを触るようになってヒップホップクラシックも好きになって。そこから最近はジャズヒップホップ、ビートミュージックを聴いてます」
Shohey 「80年代のディスコは漁っていたんですけど、印象的だったのはシャーデーとか、ジャミロクワイブラン・ニュー・ヘヴィーズあたり。それからジャズもさらいつつ、ヌジャベスのおかげでジャズヒップホップも好きになって。ストリーミングが出来たから、聴く音楽の幅も広がった気がします。いまはライヴでガンガン、ビートの鳴る音楽を聴いている分、家では聴けなくて。ピアノだけのジャズが良いなと思って、セロニアス・モンクの『Alone in San Francisco』というアルバムを聴いたりしますね」
――ストリーミングができる前って、普通にCDを買うしか音楽に触れる機会ってなかったじゃないですか。例えばジャケ買いして、予想外の出会いがあったりとか。
Shohey 「ああ、ありますね! 僕は浜名湖へ向かう高速のインターで、CDの100円コーナーがあったんですよ。当時、エヴリシング・バット・ザ・ガールを知らなくて。バーっと見てたら、男の人と女の人がタクシーの後ろに座っているジャケットがめっちゃカッコイイと思って」
Shohey 「それがめっちゃカッコイイと思ったんですよ。当時はブラックミュージック的な音楽に詳しくなかったので、“全然聴けねえ”と思ってたけど、年を重ねるうちにめっちゃ聴くようになった。それこそジャミロクワイの『Rock Dust Light Star』というアルバムを中学の時にジャケ買いしたんですよ。当時の僕は久保田利伸とかCHEMISTRYにハマってたから、そこまでピンとこなくて、ずっと机の隅に置いてたんです。それがいまやジャミロクワイを一番好きになっているので、そういう感性の変わり方が面白いなと思いましたね」
Shimo 「僕はそういう面白い話はないなぁ……」
――じゃあ、初めて買ったCDはなんですか?
Shimo 「KinKi Kidsの〈僕の背中には羽根がある〉ですね。そういえば……その頃から民族っぽい音楽が好きだったのかもしれないです」
――イントロの笛から始まって、メロディのアップダウンも変わってますよね。
Shimo 「構造的に面白いし」
Shohey 「サイモン&ガーファンクルの〈コンドルは飛んでいく〉みたいな感じだよね」
Shimo 「そうそう!」
Datch 「僕が洋楽を聴くきっかけになったのが、マライア・キャリーなんです。それこそ、英語の授業でマライアを取り上げてて“めっちゃ良いな”と思って買ったんです。この間、引越しをしてて荷物を整理していたら東京に持ってきてることに気づいて“あの時に買ったアルバムや”と。やっぱりCDって当時の思い出を呼び起こしてくれるから良いんですよ。そういうのも染み付いてて良いなと思いますね」
Shohey 「だからこそジャケットにこだわりたいのはありますよね。あえてCDの要らない時代に買ってくれるのであれば、絶対思い出に残るものにしたいというか。今回のは親に見つかったら気まずいかもしれないけど(笑)」
――時間がそろそろ迫ってきたみたいで。今日は冒頭から好き勝手に話してしまったので、言いそびれたことってありますか?
Shohey 「“結婚します”とかっすかね?」
――嘘はダメですよ!
Datch 「アハハハハ! (マネージャーを見ながら)何かありますか?」
マネージャー 「1stアルバム『Time Line』では70年代の世界観を表現しているんですけど。今回は70年〜90年代といろんな世代間の音楽を表現しているんです。中には打ち込み曲を入れつつ、やっぱり70年代に戻ったりして。『Kiss』は1枚通して、ルーツミュージックや最新の音楽表現を詰め込んだ作品になっていると思います」
Shimo 「すげえ……最後だけマネージャーの名前が出てくる感じですね(笑)」
Shohey 「誰なんだ!っていう(笑)」
取材・文 / 真貝 聡(2019年2月)
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