音ゲーは“音楽の楽しさを伝えるツール” モリモリあつし『タイムカプセル』

モリモリあつし   2019/03/19掲載
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 音楽ゲーム界隈で活動しているトラックメイカー兼DJのモリモリあつしが、3月20日に1stフル・アルバム『タイムカプセル』を全国流通でリリースする。今作は、コナミアミューズメント主催の大規模楽曲コンペを勝ち抜いた「Appliqué」「ドキドキ☆流星トラップガール!!」や、大人気スマホ用音楽ゲーム「Deemo」に収録された「PUPA」などの代表曲を網羅した、ベスト盤とも言える1枚。リリースを記念して、どのようキャリアを経て現在の地位を築いたのか話を聞いた。
――先日、Twitterを見ていたら1月31日に24歳の誕生日を迎えられたそうで。
 「そうですね(笑)」
――モリモリさんのキャリアからして、もっと上なのかと思っていたんですよ。
 「ははは、ありがとうございます(笑)」
――いろいろ調べても、生い立ちなどわからないことが多いんですよ。改めて、どのような経緯を辿って音楽ゲーム界で活躍されるようになったのか教えてください。
 「元々、親がいろんな習いごとをさせるタイプの人で、その中でピアノも習ってました。ちょっとは音感があったんですけど、別に当時から音楽は好きだったわけではなくて、むしろ嫌いでした」
――はいはい。
 「そんな時、中学生で1本のゲームと出会うんです。『大合奏!バンドブラザーズDX』というソフトがニンテンドーDSから発売されたんです。それは自分でリズムを叩いて遊ぶといった音楽ゲームなんですが、最大の特徴が自分で打ち込んだ曲で音楽ゲームを楽しめるという、作曲機能つきのソフトやったんです。僕は当時からゲームが好きで、特に音楽ゲームは大好きやったので、自分で打ち込んだ曲で遊んでみたくて作曲を始めました」
――最初はDSのゲームをきっかけに作曲をされたと。
 「作曲をやろうと思ったのには、もう少し詳しい話があって。僕の好きなゲームに『東方Project』というシューティングゲームがありまして。いろんな良さがあるんですけど、特にBGMが素晴らしいんです。『東方Project』の曲を打ち込んで、音ゲーで遊びたいと思ったのが作曲のきっかけです。メロディラインが秀逸だったので、それを耳コピして『大合奏!バンドブラザーズDX』に打ち込みました。100曲まで保存できるんですけど、すぐに容量いっぱいになって。新たにもう1本買って、再び100曲耳コピで打ち込んで(笑)」
――相当のめり込みましたね。
 「あと、ニンテンドーDSはほかにも作曲ソフトがあって、『KORG M01』というゲームなんですけど。そこでも数百曲ほど打ち込みましたし、あとはバンドスコアを読みながら打ち込んだりもして。無意識に作曲の基礎となることをその時に学んだと思います」
――バンドマンだと「GarageBand」で作曲する人が多いですけど、どんなソフトで作曲したかで後の音楽性に影響を与えそうですね。
 「そうですね。ちなみに僕と全く同じ境遇なのは、岡崎体育さんなんです。岡崎体育さんも『大合奏!バンドブラザーズ』から作曲を始めたそうです」
――「大合奏!バンドブラザーズ」シリーズが、いかに優れたクリエイター育成ソフトだったのかっていう。
 「あはははは、確かに(笑)。その後、高校生になってコンピューター部に入部したんです。そこは “コンピューターを使って何かを作り出そう”というクリエイトする部活で。当時、 “ゲームを作る部門”、“イラストを描く部門”、“音楽を作る部門”があって」
――モリモリさんは“音楽を作る部門”に入って。
 「はい。そこに所属しながら顧問の先生に“曲を作ってみたんですけど、どうですか?”と聴いてもらってました。だから趣味の一環として、楽しみながら作曲をしてましたね。そんな時、ゲームセンターに一般の人から公募して楽曲を集める音楽ゲームが2012年に出てたんですよ。それまでの音楽ゲームは、社員さんがほとんど収録曲を作って、たまに他のクリエイターに外注するのが普通やったんです。それがほぼほぼ外注で、しかもコンペ形式。おもしろそうだなと思って、僕も2013年からコンペに応募を始めました」
――コンペでの反応はどうでした?
 「最初は受からない状態やったんですけど、当時の僕は全然落ち込んでなくて。“ラジオのお便りが今週も読まれなかった”くらいのレベルだったんです」
――そもそも受からないだろうなっていう。
 「その一方で、公募していること自体がネット上でお祭りのようになっていて、“応募した曲を聴いてくれ”とニコニコ動画やいろんなサイトでアップロードをするブームが起きたんです。そこで僕も自分の曲をアップしたら反応が良くて。いろんな人に“これは採用されてもおかしくなったよね”と言われたんです。そこから本気でコンペに取り組むようになりました。するとその後は採用されるようになって。気づけば、コンペを通さずにコナミさんだけでなく他の会社からも依頼をいただくようになって、いまに至る感じです」
――ところで、モリモリさんはどんな音楽を聴いてこられたんですか。
 「音楽ゲームの曲であったり、いわゆるロキノン系も好きですね。あとは普通に有名どころはほぼほぼ聴きつつ、アニメソングもチェックして。僕が作曲を始めた高校生のころだと、相対性理論をめちゃめちゃ聴いてました」
――個人的に相対性理論は、ゲームの音楽としてもハマる気がしてて。モリモリさんはどう思いますか?
 「まさにその通りで。僕が高校生くらいの頃、相対性理論の曲がそのまま音ゲーに使われる事例がありました。基本はゲーム会社の社員が人気の曲をカヴァーして、ゲームに使われることが多かったんですけど、相対性理論に関しては原曲のまま使われるのがあって。きっと通ずるものがあったと思いますね」
――相対性理論はある種、ロック界隈でも異端な存在でしたよね。
 「本当にそう思います。ジャンルの垣根を越えてますよね」
――モリモリさんは業界内でどのような見られ方をしていると思いますか。
 「僕は逆に、“音楽ゲームでしかないような曲を作る人”に思われているみたいですね」
――“音楽ゲームでしかないような”という話で言えば、2月に名古屋の東海中学校・高等学校が主催している〈サタデープログラム〉で講師を務めたそうですね。そこで音楽ゲームのトラックメイカー代表として生徒に講義をしたとか。
 「そうなんですよ。各業界の著名人が講義をするという企画に、なぜか僕がお呼ばれしまして(笑)」
――どんな話をされたんですか。
 「その日は“ただの音ゲーマーがコンポーザーになった話”というのを講義タイトルにしました。自分がのほほんと作曲をしてきた中で、ターニングポイントや、これは正解でこれは不正解だったなと思うことを交えつつ、“これがあったから、いまの自分がいる”という話をさせていただきました」
――何をもって正解と不正解を感じました?
 「僕は作曲をする前は、イラストを描いていたんです。小学生から始めて、高校までやっていたんですけど。当時からネットが徐々に発達してきてイラストを個人で発信していける時代になったんです。それをしていくうちに、評価をもらいたがるようになってしまって。逆に、それが仇となってうまくいかずに途中で描くことを諦めたんです。そういう挫折経験があったからこそ、いまの僕は評価に捉われずに伸び伸びと曲作りをする状況を作れた。数字に左右されないようなスタンスに進められたのが正解やなと思ってて。そういう失敗があったからこそ、いまの自分があると思ってます」
――モリモリさんが“自分らしくやるのが良いんだな”と気付いたのはいつですか。
 「高校1、2年生の頃ですね。完全に趣味やったんで、楽しくやっているうちにこうなりました。それこそ〈ドキドキ☆流星トラップガール!!〉は、高校生のころに曲だけは作ってましたね」
――曲作りが趣味から仕事に変わったのはいつですか?
 「大学生のころです。僕、音楽大学に進学したんですけど、2年生ぐらいにはいまと変わらない状況になっていて“これは卒業しても、卒業せんでも一緒やな”と思った。その時点から音楽が仕事に変わりましたね」
――学生でモリモリさんのように音楽で生活できている人って……。
 「いなかったです。なんだったら卒業しても音楽とは違う方向へ進む人はいっぱいいますし」
――若い時から評価されていたのはどうしてだと思います?
 「繰り返しになりますが、自分の好きでやっていたことが良い意味で作用したのかなと思っています」
――それがオリジナリティということですね。ちなみにモリモリさんは多作タイプですか?
 「昔は多作で年間100曲くらい作っていたんですけど、いまは一曲ずつに力を入れたくて年間30曲くらいになりました」
――音楽ゲームの作家だと30曲は少ない方でしょうか?
 「結構バンバン曲を作っていく世界なので、僕は少ないほうだと思います。ただ一曲に力を入れて、バーン!と話題をかっさらう方がカッコイイと思っているので、僕はじっくりと作るようにしてます」
――消費されない音楽ということですね。
 「そうなんです。特に同人音楽というのは、曲の消費が早くて。音楽ゲームもなんですけど、どんどん次から次へ消費されていくんですよね。自分は1回作ったら終わりじゃなくて、長年愛してほしい曲の作り方をしています。音楽ってある程度、精神の宿るものかなと思ってまして。作業的にはデータを打ち込むだけなんですけど、絶対に何かが映るかなと思ってます。自分が本気で取り組んだ曲は相手にも伝わると信じてます」
――当然、音楽には様々なジャンルがあるわけですけど。その中でモリモリさんが音楽ゲームに魅力を感じたのはどこですか。
 「世の中には、いろんな音楽ゲームがありまして。特に有名なのは『太鼓の達人』であったり『Dance Dance Revolution』。何が楽しいのかっていうと、音楽演奏の疑似体験ができるということなんですよね。普通、楽器を持ってすぐに演奏することは無理じゃないですか。そういうのを取っ払って、音楽の楽しいところをすぐに味わえるのが魅力だなと思ってます。音楽ゲームの中でも、楽器を模したゲームもたくさんあって。例えばギターだったり、ピアノだったりがあるんです。で、こういう話を音楽ゲームをやってない人に話したら“じゃあ、本物の楽器で弾けばいいじゃん”と言うんです。“でも、そうじゃないんだ”ということを言いたくて。音楽ゲームは楽器を弾くこと自体を模しているわけじゃなくて、音楽の楽しさを伝えているツールだと思うんです。そこは気軽に誰でも体験できるのは強みなんですよね。だからこそ、ぜひ音楽ゲームをやったことがない人は体験してほしいです」
取材・文 / 真貝 聡(2019年2月)
『タイムカプセル』店舗別初回購入特典
モリモリあつし
アニメイト(タイムカプセル ICカードステッカー)
TSUTAYA(モリモリあつし 限定缶バッジ)
Neowing(モリモリあつし アーティストロゴ アクリルキーホルダー)
Amazon(特典音源「タイムカプセル(AMAZE Remix 2019)」DLカード)
※Amazonでは、MilK Remix Contestにて最優秀賞を獲得し、アルバム収録曲「MilK(AMAZE Remix)」を提供したAMAZEによる特典音源、「タイムカプセル(AMAZE Remix 2019)」DLカードが付属します。
youtu.be/BfkO0st6BY4

Event Schedule
モリモリあつし『タイムカプセル』全国流通記念イベント
www.village-v.co.jp/shop/detail/902

2019年3月21日(木・祝)
大阪 ヴィレッジヴァンガード アメリカ村店
15:00〜
※トークショー&特典会 / トークゲスト: 出前

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