音楽生活27年、レゲエとヒップホップを股にかけた大いなる冒険、昭和レコードから平成を飛び越え令和に届ける経験、これが最強のベスメン。SHINGO★西成の盟友ことDJ FUKU、キャリア初のアルバムの名は『スタメン』。自身の高校球児時代の写真(スリム!)をジャケットに、綺羅星のごとく揃ったレベル・ミュージックのヒーローたち。般若にSHINGO★西成にDABO、ZORNにBESにNORIKIYO、NG HEAD、餓鬼レンジャー、FIRE BALL、R-指定、卍LINEと、名演が多すぎて挙げきれない。鋭い耳とぶっ飛びセンス、笑顔と愛嬌で語る『スタメン』の内実を聞く。
――この豪華すぎるアルバムの、監督と言ったらいいですかね、FUKUさんの立場は。
「そうですね。アルバムのタイトルどおりなんですけど、僕、ずっと野球をやってたんですよ。歌ってくれる人を選手と捉えて、一線で活躍している人たちを自分のチームのレギュラーに見立てて、“僕の1枚目のアルバムのスタメンはこの人らです”という感じにしようと思ったんです」
――すごいスタメン。まさに最強打線。
「とにかく自分がいいなと思う人で、仲が良くて、“この人とこの人を組み合わせたら面白そうやな”というものをイメージしていきましたね。いちばん初めにBESとの曲(6曲目〈Higher Level〉)を作り始めてから、ほぼ2年半ぐらいかかってるんです。本当は半年で作るつもりだったんですけど、みなさん忙しい方たちばかりで進まないんです(笑)。人それぞれ作り方も違いますし。コンピみたいにならないか心配だったんですけど、オケをすべて自分で作って、曲のコンセプトを考えて、イメージを伝えて、こういう仕上がりになっているので。自分の中ではこれ以上はできないです」
――90年代からやってるベテランと2000年以降の世代を組み合わせるとか、レゲエとヒップホップを混ぜるとか、歌とラップとか、そういうパターンが多いと思ったんですね。あえて違うものを組み合わせるというか。
「そうです。本当にそのイメージで、今大阪で“ICE CREAM OSAKA”という自分のイベントをやってるんですけど、そのコンセプトが“ベテランと若手の融合”なんです。実際、ベテランのファンの人は、若い人はあんまり聴かない。逆もしかりで、若い人が好きな人は、そっち側はあんまり聴こうとしない。それを同じステージに立たせたらどうなるんやろ? と思ってて、“こっちに興味を持ってきたけど、この人もええやん”ってなったら面白いなと思ったんです」
――“ICE CREAM”のコンセプトがそのまま……。
「詰まったのが、このアルバムかもしれないです。それともう一つは、自分の中の喜怒哀楽を全部出したかったというか、かっこいい部分だけじゃなくて、実際自分がかっこ悪い部分は自分自身で知ってるわけじゃないですか。生きてる中で、たぶん9割方そうなんかなと思うし、そういう部分も見えたら面白いなと思って、つらい時も楽しい時も全部アルバムに詰め込めたらいいなという、そういう形になりましたね」
――3曲目「真面目か! feat.茂千代, HI-KING TAKASE & 歩歩」はまさにそこを突いた曲じゃないですか。大人の真面目な生き方とは何ぞや? みたいな、ユーモラスに歌いつつ、身につまされるところがあったり。
「なんていうんですかね、不良がこういう音楽に携わるのが大半な中、真面目に音楽やったらあかんのか? というと、そうではないじゃないですか。真面目も突き詰めればかっこいいというか。そういう曲にはこのメンバーが、とくに茂千代が必要で。彼も大阪で長いし、どうしても誘いたかった一人なんで」
――アナログのA面B面みたいな感じで、6曲目まではかなりシリアスな、熱い曲が並んでいる。
「どちらかというと、若い人が聴くのかな? ってイメージしてたんです。たとえばJ-REXXXとR-指定の曲(10曲目〈この道の先〉)を前のほうに置いたら、若い人は完全に割れるかなと思って、後ろに置いて、こういうテイストも僕の中にはあるという感覚を、あの2人に表現してもらいたかったんで。それを生かしたかったんです、逆に言えば。餓鬼レンジャーとCHOP SHICKさんの曲(9曲目〈いぐいぐアイランド〉)もしかりなんですけど」
――そのあたりの曲がアルバムの中でいちばん変化球というか、ふざけてるというか(笑)。
「そうですね(笑)。そのふざけた部分も、僕の中にはやっぱりあるので。全面的におかしいですはないですけど、おかしいところはもちろん秘めてますと言っておきたいです(笑)」
――すごくよくできた曲順だと思いますけどね。「The Anthem」で正統派ヒップホップらしく重々しく始まって。2、3曲目はメッセージ性が強くて、そして4曲目「Yes or No feat. DABO & TAK-Z」は直球のせつない恋愛ソングです。
「恋愛を表現するというのは、このメンバーの中ではなかなか数少ないんですけど、DABOとHI-Dの〈恋はオートマ〉とか、その感覚をやりたかったんですね。TAK-Zはレゲエのアーティストですけど、彼の歌はクリス・ブラウンみたいなR&Bのテイストに変えれるなってずっと僕の中では思ってたんです。それを実現した感じですね」
――そして「色 feat. 般若」。これがまた超ディープ。恋愛のくくりだと思いますけど、うまくいかなくて、どうしようもないどん底感、せつなさの表現がすごい。
「このオケは、作った時に般若にしか渡さないと思ってたんで。ドラマに使えたらいいなと思ってたぐらいの感覚なんですよ。シリアスなドラマのエンディングをイメージして、それをそのままあの人の感覚で書いてきてる。あの人はやっぱり『最ッ低のMC』ですね。最高です」
――BESの「Higher Level」も、さっきのTAK-Zと一緒で、思い切りR&Bバラードになってます。
「今回レゲエのアーティストが何人か入ってるんですけど、本当にラガなイメージをやってほしいと思ったのはNG HEADだけなんです。逆に言えば、レゲエのアーティストを起用して、こっち(ヒップホップ)のテイストに引き込みたかった。TAK-Zがクリス・ブラウンみたいになったら面白いな、卍LINEがウィズ・カリファみたいになったら面白いな、とか。でもそれって、歌心がないとできないことなので、それの理解力は、レゲエの人のほうがあるかなと思ったんです」
――そして「新しい日本 feat. SHINGO★西成」。もう言葉にできないですね。政治的なことも含んだメッセージ性の強いリリックを、これだけぶっとんだ形でユーモラスに伝えられるのは彼しかいない。とんでもないです。
「彼をこのアルバムに迎えるにあたっては、初めはぜんぜんこういう感覚じゃなかったんですよ。それこそシリアスな、暑苦しい感じの曲にしようかなと漠然と思ってた矢先、彼が“いや、ほかと差つけなあかんやろ”ってボソッとつぶやいて(笑)。じゃあ一回リセットしますわって、2人で考えていった結果こうなりました。ほんと、彼の脳内がどうなってるのか、覗いてみたいですけど。後付けですけど、令和元年で“新しい日本”ってばっちしやなと」
――一転して「Stress Free feat. JUN 4 SHOT, SUPER CRISS & NORIKIYOは、爽やかすぎるサマー・レゲエです。
「今はストレス社会じゃないですか。シリアスな曲はもちろん入れようと思ってたんですけど、この人のストレス発散はどうしてんの? という一面が、アルバムの中で見えたらいいなというので、3人に、ストレスを感じてる部分と、発散する部分の表現をお願いしたんですね。なおかつ僕も、発散する方法として、その次の餓鬼レンジャーの曲で表現したり」
――ああ、この2曲はそういう意味があるんですね。「いぐいぐアイランド feat. 餓鬼レンジャー & CHOP STICK」は、つまりエロ路線と言いますか。
「切っても切り離せないです(笑)。そのおかげで自分自身も生まれてきたんで。そこに愛があれば、ですけどね。この曲はもう、夜楽しい! でしかないです。それを表現するには、餓鬼レンとCHOP STICKしかいなかった。今まで一度もこの組み合わせはしたことないらしいんですけど、ばっちしでした」
――そしてこれですよ。「この道の先 feat. J-REXXX & R-指定」。これがまたすごい。
「面白かったですか?」
――最高です。ある意味いちばんキャッチーな曲じゃないですか。一般のリスナーにわかりやすい。
「まずそこを考えたんです。ヒップホップを好きな人も、レゲエを好きな人も、みんなこう(マニアックに)なってるじゃないですか。知ってる人は知ってるけど、でも世間のほうが圧倒的にマジョリティやし、知らん人ほうがほとんどだと思った時に、単純に知らないことを質問してみようというイメージが湧いて、それを具現化したいと思った時に、こういう音楽の形式はなかなかないし、この無理難題に乗ってくれる優しい人は誰やろ? と(笑)。なおかつフレッシュでパワーのある人は誰かというと、J-REXXXは狂ってるからいけるやろと(笑)。R-指定はフリースタイルがすごいし、ボキャブラリーはいちばん長けてると思ったので、2人の組み合わせがいいと思ったんです。R-指定にはレゲエのジャンルで知らないこと、質問したいことを20個挙げてもらって、J-REXXXにはヒップホップについての質問を20個書いてもらって、そこから面白いやつを僕が8個ずつピックアップして。その質問にする答えをそれぞれ書いてもらって、これを曲にしましょうと」
――それ考えるのは楽しいですけど、実際やるとなると相当ややこしいというか、緻密な掛け合いが必要ですよね。
「ですよね。無理難題を受け入れてくれた2人には感謝しかないです。ただ僕は大阪人なんで、オチだけはつけとかなダメやなと思ったので、J-REXXXは早口で締めて、R-指定はDJ松永の童貞ネタで締めて(笑)」
――ヒップホップとぜんぜん関係ない(笑)。笑いましたよ。
「だいぶふざけてます。すいません(笑)」
――そして10曲目「Freedom Blues feat. 卍LINE」。彼には1曲がっつり任せたかったですか。
「そうです。僕の幼い時からの仲間でTERRY THE AKI 06っていうラッパーがいたんですけど(※2007年に逝去)、彼もずっとTERRYと仲良くて、そこからの繋がりでもあるので。TERRYのことを歌う曲を考えてたんですけど、それよりはTERRYの言葉を一言だけ借りて、ゆかりのある人と一緒に作るほうが次のステップにも進めるかなと思ったのと、TERRYの音楽をみなさんにも再確認してもらおうと思った。自分の曲と言うよりは、〈ヤーマンラスタ〉という言葉を聴いて“あ、TERRY聴いてみよう”と思ってくれればいいかなと。それをやるには卍LINEしかいないと思ったので」
――いろんな深い思いも入っている。
「はい。やっぱり、今までの人生観も含めてなので」
――そして最後、13曲目は「ありがとう feat. 般若, ZORN, SHINGO★西成」。
「これは昭和レコードが去年出した『MAX』というアルバムに入っていて、自分がプロデュースした曲なんですけど、自分のアルバムにも入れたいなと思ってたんで。この3人には、いつもいろんな刺激をいただいてます。3人ともまったく違うんですけど、生き方がかっこいいし、こういう生き方もOKだなっていう、自分の幅を広げてもらった意味では感謝しかないです」
――という13曲。まとまりましたね。
「スタメンになってますか?」
――素晴らしいメンバーだと思います。
「13曲だから、野球より多いんですけどね(笑)。でも9曲じゃ足りないし」
――これはいろんな人に薦めたいですね。初めてヒップホップやレゲエを知る人にも。
「逆に、掘って掘ってずっと聴いてる人にも、目からウロコじゃないですけど、聴いてもらって感じてもらえれば。“アホやなこいつ”でもいいし、“こういう楽しみ方もあるんだな”でもいいし、なにか感じてくれたらいいですね」
――今はフリースタイル的なムーヴメントがとくに注目されてる時代ですけどね。ヒップホップのシーン全体はどう見えてますか。
「CDだけにかぎらず、テレビであったりネットであったり、聴ける環境は増えてきてると思うので、もう楽しみでしかないです。言ったら、未知数の音楽ジャンルじゃないですか。言ってもまだ30、40年くらいですか、ヒップホップって。60歳、70歳になってこういう音楽やってますって、まだ誰も表現できてないので、その年になっても若い人とおれる環境を作りたいなと思ってますし、逆に言えば、若い人たちに“年いってもできる音楽や”と思ってもらえれば、楽しいでしかなくなってくるので。そうありたいなと思いますし、そういう音楽がないなら、僕らが作っていきたいと思います。頑張るしかないですね」
VIDEO
取材・文/宮本英夫