9月20日発売のCDジャーナル2019年秋号に掲載されているINORANロング・インタビューをWEBでも大公開! 写真はWEBのスペシャル・ヴァージョンです(雑誌版も素敵な写真なのでぜひチェックしてみてください)。
LUNA SEAの新作と同時進行だったという約3年ぶりのソロ・アルバムについてじっくりと聞いたロング・インタビューです。
――今年、LUNA SEAが結成から30周年を迎えました。
「自分の人生の中で30年続いてるものって、家族とか以外にないので、まずその感覚がないですよね。長いなぁとも思わないし、短いなぁとも思わないし、気がつけば、というのが正直な感想です。それと同時に、30年やれていることに、すごく感謝の気持ちはあります。ただ、当時は想像もつかなかったけど、永遠にやれるとは思っていたんですよ」
――一方で、自分に影響を与えたような人たちが、今も最前線で活動してる現実も興味深い現象に思えますよね。
「そうですね。X JAPANもD'ERLANGERも、今でもリスペクトしているし、同じ音楽活動をする人として、いつまでもというか、できるところまで、一緒に続けていきたいなというのはあります」
――ソロ名義の活動も、当初はLUNA SEAがある状態で始まりましたが、その後は“終幕”や“REBOOT”を経ながら続けられている。その都度、向き合い方も違うと思うんですが、今はどのような心持ちなんですか?
「ソロ活動もこれだけ長くやらせてもらっていると、そこにもファミリーができるわけで。それをLUNA SEAの5人、メンバーそれぞれが持っている。ものすごく幸せだし、光栄なことです。その2つをやりくりするのは簡単なことではないですけど、逆に言うと、バンドの30周年だったら、普通はソロ活動を止めてそっちに専念するでしょ(笑)? だけど、みんな同時並行でやっている。そんなバンドいないですよね。そう考えたら、僕らは希少動物みたいな存在だなと(笑)。だから、いわゆるスタンダードなものじゃないということは確かで。それゆえにやり甲斐があるし、レールは自分たちで敷いていくべきものなんだろうなとは感じてますね、最近は」
――ギタリスト、ヴォーカリスト、作曲家として、ソロ作品の作り方が変わってきたなと自覚したタイミングもありました?
「3枚目のアルバムぐらいまでは、自分探しみたいな、自分の内面にあるもの、心地よいと思っているものとか、そういうものを探究してたんですけど、自分の身の丈とか、取り巻く状況、立ち位置が何となくわかってきて、人と一緒にやる、人と一つになる、共有するためには、どういう音楽がいいのかというのを探し始めたのが前期から中期。そこから後期、現在に至っている感じですかね」
――歌に対する意識が変わったのはどのあたりですか?
「歌はね、その都度、振り切ったり、考えたりとかはしました。いいときもあれば、苦しいほうが上回ったときもあったし。何しろ自分が最初にヴォーカリストとはこういうものだと思ったのは河村隆一なので、そこからして僕の不幸が始まってるんです(笑)」
――それを基準に考えざるを得ないでしょうからね。
「だから、変な言い方をすると、キース・リチャーズでよかったのに、エリック・クラプトンを選んでしまったんです。そこからして、茨どころの道じゃないですよね(笑)。だけど、KEN LLOYD(FAKE?)とか、MAESON(Muddy Apes)とか、いろんなヴォーカリストと一緒にやったり、その時々で好きなヴォーカリストも、フェイヴァリットなグループも違うし、そんな中で、自分は歌で何を残せるんだろうと考えるようになったよね。歌が巧くなりたいとか、歌いたいとか、いいメロディを作りたいとかではなくて。だから、アルバムごとに多分違うと思うし、そこで修行したぶんは蓄積されてるんですよね」
――ファースト・アルバム『想』から辿ると、その変遷はよくわかりますが、今回のアルバムでも、自身の声の特性を掴んだうえで、ある種、歌を中心に作品作りをしているように感じられます。
「やっぱり、ギターだけを弾いている時代よりは、歌を聴くようにはなったし、一般的な音楽の聴き方というのは、だいぶわかるようになったから、そういう組み立て方はします。そうじゃなかったら、多分、インスト主体に傾いていると思うんですよ」
――逆にインストではなく、みずから歌い、ギターを弾くことにこだわってきた理由は何なんでしょう?
「ギターだけを弾いているよりは、ギタリストとしても、作曲者としても成長できるからでしょうね。歌ってみることで自分に返ってくるんです。何か違うことをやってみたら、その違うことをやっている専門の人をリスペクトできるじゃないですか。たとえば、エンジニアさんにはエンジニアさんのプロがいる。今の時代、自分でミックスもできるけど、絶対に(仕上がりが)違いますよね。あえて挑戦していくほうが、得るものがあるんじゃないかなって」
INORANというものに集まった集合体
「その前の『
BEAUTIFUL NOW』のとき、バイオリズムがすごくよかったんです。今が悪いとかじゃなくてね。振り返ってみると、『
Thank you』ってアルバムはその余韻でしょうね。3〜4枚前から、フェンダーとエンドースして、ジャズマスターを手に入れてからアルバムを作るようになった時点で、今のツアーやレコーディングのメンバーとコラボするようになり、何周もいろんなところを一緒に旅してきたんです。そこで得られたライヴの喜び……どうやったらもっと喜べるのか、一緒に演奏して楽しくなれるのか、そんな曲を作り続けているんでしょう、今も。どっちかというと、そういう曲作りにおけるマインドが続いているんですよ」
――あくまでもバンドってものが好きな人なんだなというのはよくわかりますね。
「そうですね。一人よりみんなで遊ぶほうが好きですから(笑)。自分の好きなことだけをやるというタイプではないし、好きなものがあったら、分け合うほうがいい。まぁ、根っからのバンドマンだと思いますよ」
――ちょうどジャズマスターの話が出ましたが、あのギターを手にするからこそ、生まれる曲もありますよね。
「そうです。心底惚れたギターだし、出会えてよかったし。最初に自分のところに届いたのは、ちょうどLUNA SEAのワールド・ツアーのときだったんですけど、その後に作った『
Teardrop』というソロ・アルバムでは、その1本しか使わないという制約を課したぐらい、最初からしっくりきていました」
――今回の『2019』においてもその音はしっかり収められていますが、アルバムに向けてはどんな構想があったんですか?
「構想は何かと聞かれたら、ライヴがやりたいからということです(笑)。ツアーでみんなにまた再会したときに、お土産として持っていける曲たち。そういう思いは、ここ最近はすごくあって。その意味では変わってないけど、じつは今、LUNA SEAのアルバムも作っていて、タイミング的にはほぼ同時で重なっているんです。当然、気持ち的には時期を分けたほうがラクなんですけど、今回は逆に分けないようにしようと思ったんですよ」
――というのは?
「そういった状況の中で、どんなものができるんだろう? って。だから、たとえば、ソロだからジャズマスターにファズをかけてとかじゃなくて、あっちでもファズをかけてたり。今までなかった環境を自分でも楽しみながら作った感はありますね」
――曲作りはいつ頃から始めたんですか?
「2月ぐらいかな」
「僕、書き溜めるとか、あまりないんです。なぜならば、曲を完成させるまでに寝かせると、鮮度が落ちるし、いじりたくなるから。そのいじりたくなるものって、一概にクオリティが上がるものではない。生まれたもののよさを消してしまう場合が、曲作りにおいてはあるし、これだけ長年やっていると、小手先を使ってできちゃうことっていっぱいあるんですよね。だから、家でデモを作っているときに弾いたテイクも、わりと使ってますからね。そのときに気持ちよく弾いたものに勝るものはないですから」
――ファースト・テイクがいいなんてことは、よく言いますもんね。最初にできた曲はどれでした?
「〈COWBOY PUNI-SHIT〉かな。ライヴの熱をさらに上げられるような曲がほしいなぁと。そのときはこれがアルバムの1曲目かなぁと思ったんですけど、〈Gonna break it〉がこういうふうにできたことによって、また変わっていって。これはディーン(・タイディ/Muddy Apes)に書いてもらったんだけど、彼には自分にないタイム感だったり、リフのセンスだったりがあるんですよ。もちろん、友達としても、人間としても、尊敬する部分があって。ほかに参加してくれている人たちもそうですね。だから、どんな曲を書いてほしいとか、どんな内容の歌詞にしてほしいとか、そういった話もしないですし。だから苦労する人もいるかもしれないけど(笑)、音で会話するということですね。歌詞で言えば、今回も多くを書いてくれているJon(Underdown/元fade)は僕の癖も知ってるけど、初めて依頼した新しい人たちは、僕の癖もそんなに知らないから、それがまたいいアクセントになったりするし、それと向き合うことで、自分の経験も増える嬉しさがあります」
――ヘヴィなサウンドのギターもありつつ、たとえば「Starlight」や「Long Time Comin」のような、アコースティック・ギターで弾き語るスタイルの楽曲は、どんな狙いで書かれてたんですか?
「いや、狙いはなくて(笑)、たまたまできただけです。2週間ぐらいで一気に作曲するんですけど、最初の曲作りは頭の中でしちゃうんですよ。その時点で、メロディとギターとベースとドラムが、だいたい全部鳴ってるんです。それがアコースティックだったりする場合もあるし……家などで弾くのはアコギが多いので、そういったところから生まれることもあるし。だから、まったくコンセプトがないと不安なタイプのミュージシャンがいるとしたら、僕は完全に失格です(笑)。どこに向かうのか、いつも行き先がわからないんですよ」
――何が出てくるかわからない、その面白さを楽しんでいる。
「この日に浮かんだこの曲は、こういう気分だったんだろうなっていう。でも、前もってどういう気分かはわからない。仮に自分が迷ったとしても、つなげてくれる人が周りを固めてくれているんですよ。それはバンドのメンバーだったり、エンジニアさんだったり、スタッフだったり。その意味では、INORANというものに集まった、その集合体の記録であって、作品である。僕自身もそう捉えているんです」
――アコギは、ジャケットのアートワークともリンクする重要な鍵なのかと思ったんですが、そういうことではないんですね。
「あのジャケットは〈Starlight〉のミュージック・ビデオからインスパイアされたもので、あのシーンがあるんです。そのときに“これはジャケットにいいよね”って、ほぼその場で決まったという(笑)。でも、今回のアルバムはすごく手応えがあって。近年にはなかったような満足感があるんですよ」
――『2019』で初めてINORANさんの音楽に触れる人に何か言えることはありますか?
「そうですね……一緒に何かをやる、何かに参加することというのが、すごく響く時代だと思うんですよ。たとえば、ユニバーサルスタジオやディズニーリゾートもすごいけど、みんなで喜びや感動を共有することの一つに、音楽のコンサートってあると思うんですね。僕はそういう場所が大好きで、それをやるためにアルバムを作っている。僕も10代のときに音楽に救われて、未だに魅せられて音楽を続けているけど、もちろん、アルバムを聴いて気に入ってくれたら嬉しいですよ。でも、その先にある、みんなで共有する、特別な熱があるのがロック・コンサートなんです。そこをぜひ体感しに来てほしいですね」
取材・文/土屋京輔
Interview & Texy by Tsuchiya Kyosuke
撮影/斎藤大嗣
Photo by Saito Daishi