ケイコ・リーが70〜80年代洋楽ヒットなどを歌う

ケイコ・リー   2019/12/04掲載
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 トップ・ジャズ・シンガーの座を揺るぎないものにしているケイコ・リーの新作『The Golden Rule』がリリースされる(7 inch analog「Another One Bites The Dust(with T-Groove & Yuma Hara) / We Will Rock You(T-Groove Raw Mix)」も同時リリース)。ドナルド・フェイゲン、クイーン、ホイットニー・ヒューストンなどの洋楽ヒットを中心に、オリジナル曲を加えた構成で、70〜80年代のメインストリームの音楽を、その本質はそのままに、ブラッシュアップした印象だ。そこには、気ごころの知れたレギュラー・バンドのメンバーとの音づくりを楽しむのと同時に、新たな才能の抜擢もみずからの役割と考える、ケイコ・リーの姿勢が見て取れる。
――ここ数年は毎回、ジャズ・スタンダードやJ-POPなど、テーマを設定してアルバムをつくっていますが、今回は70〜80年代のポップスやロック、ブラック・ミュージックを柱に、オリジナル曲を加えた内容ですね。
「アルバムをつくるうえで、メンバー(野力奏一〈key〉、岡沢章〈b〉、渡嘉敷祐一〈ds〉)に、“どんなのがいいかなあ?”って相談したら、“やっぱり80年代とか70年代とか、俺らがリアルに聴いて、やってきた音楽をやりたい”っていうことになったんです」
――タイトルの『The Golden Rule』は、直訳すると“黄金律”ですが、どんな思いを込めたのですか?
「新曲の曲名をアルバム・タイトルにしました。この曲の歌詞は、10年くらい前、アメリカ人のDonny Schwekendiek(本作収録の〈The Flame(Dimitri From Paris Remix)〉の作詞も担当)と、“世界には矛盾や差別があるけれど、黄金律、つまり自分がしてほしいことを人に施すことが大切”というような話をして、書いてもらったものです。いまの時代にぴったりということで、曲をつけました。この曲には、(渡辺)貞夫さんが参加して、華を添えてくれています。いっしょに演奏したのが(全員、70〜90年代に渡辺貞夫グループに在籍していた)野力さん、岡沢さん、渡嘉敷さんだったので、“懐かしいなあ、当時を思い出しちゃうなあ”って、ニコニコなさっていました」
――数あるダリル・ホール&ジョン・オーツのヒット曲のなかから、「I Can't Go For That」を選んでいますね。
「迷ったんですけど、ランダムに聴いていたらこの曲が印象的だったし、ライヴでお客さまも体が動く感じかなと思って。ライヴっぽい感じでレコーディングをしようということもありました。岡沢さんがコーラスをつけてくれている〈You've Got A Friend〉は、ライヴでも同じようにやっています」
――長く続けているバンドですから、レコーディングで新しい曲を前にしても、“あうん”の呼吸があるのでしょうね。
「最初はみんな思い思いに演奏します。繰り返しているうちに、グルーヴとかリズムのパターンが決まってきて、そこから、“コードどうする?”とか、全員でアレンジを作り上げていくパターンですね。トリオでグルーヴをループしていくと、“こんな感じがいいかな?”って、私もピアノを弾いたりします」
――アニタ・ベイカーの「Sweet Love」はドラムレスで、メロウな仕上がりです。演奏はレギュラー・バンドではないのですね。
「この曲は、オリジナルのアレンジ以外、想像がしにくいなと思っていたんですけど、そのままやっちゃうとアニタの呪縛から抜け出せない。どうしようかと、自分でキーボードを弾きながら歌っていたら、こういうメロウなのもありだなと思って。アコギとフェンダー・ローズでやることにして、だったら、吉田サトシ(g)と宮川純(key)、たまには若い子とやってみたいなと。私も、若い子を引っ張っていく存在となりつつあるので」
Keiko Lee
Keiko Lee
――二人はほかの曲にも参加していて、とくに吉田さんは「Sweet Love」を含めて7曲に参加と、大活躍ですね。どのような経緯でレコーディングに参加することになったのですか?
「最近、ちょこちょこデュオで仕事をすることがあって、すばらしいギタリストだなと思っていたんです。バンドでアルフィー(ジャズ・クラブ)に出るときに、“今日からサトシくん、来るから”と言ったら、“どんなギターなの?”って聞いてくるんですよ。うちのメンバーのなかでは、“松木恒秀(2017年逝去)がいちばん”というのがどうしてもあって。それで2〜3曲やったら、“なかなかやるな”っていうことになり、レコーディングにも参加してもらったんです。彼にとっても宮川純にとっても、すごく刺激になるレコーディング・セッションだったようで、“夢のようだ”と喜んでくれました」
――インパクトのあるアルバム・ジャケットは、佐賀在住の日本画家・大串亮平さんに、直接、アートワークをオファーされたそうですね。
「2019年2月に佐賀でライヴをしたとき、たまたま打ち上げで行ったお店でサイケデリック・アートの個展をやっていたんです。私がすぐに気に入って、もしかしたらジャケットになるかもねって。店のオーナーの女性が大串さんの知り合いだったので連絡を取ってもらい、トントン拍子で話が進んだという感じですね。その後、レコーディングに入り、トラックダウンしたものを送って、音を聴いてもらいました。大串さんの作品は、近くで見ると、黒いところも筆で少しずつ色をつけていて、ただ黒く塗っているのとは違う奥深さがあります。描き込んであるから、サインするところがありません(笑)」
――最後に、今回のレコーディングに関して、何かエピソードはありますか?
「スウィング・アウト・シスターの〈Now You Are Not Here〉は、意外なことにメンバーが知らなかったんです。この曲がヒットしたのは、ちょうど彼らがバリバリに仕事をしている頃で、耳にする機会がなかったのかもしれません。“この曲、うちのバンドでやったらいいはずだから”とやってみたら、野力さんも“いい曲があるんだねえ”って、気に入っちゃって。あとは〈The Flame(Dimitri From Paris Remix)〉ですね。2003年の『Vitamin K』で発表した曲を、Dimitri From Parisにリミックスしてもらいました。これは松木さんが弾いてくれているんですけど、マスタリングのときに松木さんの音を聴いたら、涙がぼろぼろ出ちゃって。そして、こんなに音が太いんだと。ほんとうにすごい。バズーカみたいです。ここまで太いのかっていうのを再認識して、彼への尊敬の念が一段と大きくなりました」
Keiko Lee
取材・文/浅羽 晃
Information
Keiko Lee
〈Keiko Lee ニュー・アルバム “The Golden Rule” 発売記念コンサート〉

2019年12月29日(日)愛知・名古屋 NAGOYA Blue Note
2020年2月6日(木)東京・六本木 Billboard Live TOKYO
2020年3月23日(月)・24日(火)大阪 Billboard Live OSAKA

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