女子のリアルな気持ちを反映した楽曲によって、10〜20代の女性を中心に支持を集めるシンガー・ソングライター、コレサワ。1年4ヵ月ぶりの新作ミニ・アルバム『失恋スクラップ』のテーマはずばり“失恋ソング”。みゆはんに提供した「恋人失格」(コレサワの代表曲「たばこ」のアンサー・ソング)のほか、渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)、Helsinki Lambda Clubがアレンジャーとして参加した楽曲も収録され、色彩豊かなポップ・ソングを堪能できる作品に仕上がっている。
――ミニ・アルバム『失恋スクラップ』がリリースされます。セカンド・アルバム『コレでしょ』(2018年9月)から約1年4ヵ月ぶりの新作ですが、この間に2度のワンマンツアーもあり、充実した活動が続いていて。
「ありがとうございます。でも、こんなこと言っていいのかわからないんですけど、めっちゃ時間がある時期もあって、お絵かき教室に通ったんです。小中学生向けの教室で、大人が習いに来たのは初めてって言われましたけど、入れてくれて。油絵をやりたかったので、習えてよかったです」
――お休みの時期もあった?
「制作期間だったんですけどね(笑)。曲を作らなくちゃいけなかったんだけど、私は家で曲を作ってるし、ライヴのリハ以外は外出することがなくなって、そのうち“あれ、休み?”って思っちゃって(笑)」
――(笑)。『失恋スクラップ』は全曲失恋ソングですが、このコンセプトは最初から決めていたんですか?
「最初はぜんぜんなかったです。〈恋人失格〉はみゆはんに提供するために作ったんですけど、その頃はとにかくセンチメンタルな気持ちで、その後も失恋の曲ができて。3〜4曲できた時点で、“全部失恋ソングっておもしろいな”と思いました。書いていて楽しかったし、こんなにいろんな別れの曲があるんだなと。やっぱり恋愛っておもしろいですよね」
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――一口に失恋ソングと言っても、歌われている状況や気持ちはまったく違っていますからね。コレサワさんは自分の体験をもとにして曲を書くことが多いそうですが、曲が書けなくて困ることはないですか?
「ないです。なかなか曲が出てこなくても、自分を責めないようにしてるんですよ。音楽を嫌いになりたくないし、仕事につぶされたくないんです。女の子としての人生を謳歌したいから、ちょっとくらい曲が書けなくても、自分のことをダメだとは思っちゃいけないなって。コレサワの音楽がもっと広まってほしいし、みんなに聴いてほしいという欲はもちろんあるんですけど」
――収録曲についても聞かせてください。1曲目の「Day by Day」は、Helsinki Lambda Clubが編曲と演奏を担当したロック・ナンバーです。
「〈Day by Day〉は3、4年前にライヴで1回やったんですけど、その時は自分のなかでしっくりこなかったんです。キーが高くて歌も難しいし、アレンジもベストではないなという感覚があって。Helsinkiは以前から好きなバンドだし、“この曲を一緒にやったらいいかも”と思いついてお願いしました。“コレサワに寄せたほうがいい?”と言われたんですけど、いつものHelsinkiの感じでやってほしいってお願いをして。メンバーの一員になれた気がしたし、彼らがどうやって音楽を作ってるか、ちょっと覗けた感じもあって、楽しかったです」
――コレサワさんの新機軸かもしれないですね。3、4年前に書いた失恋ソングも、当時と同じような感情で歌えるんですか?
「歌えます。“思わせぶり”されたことを根に持ってる歌なんですけど、ぜんぜん忘れてないので(笑)。どれくらいつらかったかは覚えてなくて、その時のことを俯瞰しているような感じなんですよ。ライヴ中に(相手の)顔が思い浮かぶこともないし、吹っ切れて歌えますね。〈Day by Day〉は盛り上がれる曲だと思うので、お客さんとウェーイ!ってしたいです」
――「最後の彼女になりたかった」も「帰りたくないって」もそうですが、失恋を背景にした“ある場面”を切り取っていて。フォーカスの当て方が独特だなと。
「ディテールを描いた歌詞が好きなんです。Helsinkiの橋本薫さん、クリープハイプの尾崎世界観さんの歌詞も好きなんですが、“そこを歌詞にする?”という感じがあって。時間でいうと2、3分くらいの状況を歌にしたいし、心が動く瞬間を切り取りたい。〈帰りたくないって〉もそう。別れた彼氏の部屋に荷物を取りに行って、あわよくば泊まりたいと思ってる、その時の感情を歌ってるんです」
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――「センチメンタルに刺された」も印象的でした。まさにこの時期のコレサワさんのモードを示す曲だなと。
「取材ではみなさん“なんで失恋ソングなんですか?”って聞いてくれるんですけど、これが生きている結果というか、“そういう感じだったんです。あとは察してください”としか言えなくて(笑)。基本的に体験したことしか書けないですからね」
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――とにかく2019年はセンチメンタルに刺されていたと。
「はい、ズタズタに(笑)。ただ、それで心配してもらうようなことではなくて。感傷に浸りたいことってありません? 今年はまさにそういう感じだったんです。でも、それはぜんぜん悪いことではないんですよ。このご時世、イヤなことやつらいことはいっぱいあるけど、私には家があって、お風呂があって、友達がいて、けっこう幸せな人生だと思うんです。ただボーッと日々が過ぎて、無感情になるのはイヤなんです。感情があるほうが生きてる感じがする。たとえそれが“悲しい”だったとしても。もちろん“嬉しい”も必要だけど、生きてれば傷つけられたり、傷ついたりしますからね。“悲しい”も曲になればいいんです」
――曲がリスナーに伝わることで、そこに込められた感情を共有できるし。
「そうですね。“コレちゃんもこんなふうに思ってるんだ。私もがんばろう”みたいに思ってもらえたらなって。いちばんは、音楽によってみんなの日常が少しでも華やかになることなんです。“イヤな通学路もコレサワの音楽を聴いてればがんばれる”とか、“失恋したときはコレサワの曲”とか、選択肢としてコレサワがあることが嬉しいので。今回のミニ・アルバムに関しては、“失恋ソングばかりなんて、悲しいアルバムだな”という感じかもしれないけど、音楽的にはいろんなことができたんですよ。打ち込みのドラムを使った曲〈やっぱり泣くよ〉も初めてだし、Helsinkiや渡辺シュンスケさんにアレンジをお願いした曲〈バカでしょ〉もあって。私としては、すごく前向きな気持ちなんですよね」
――『失恋スクラップ』から始まる2020年、いい感じでいけそうですね。
「そうなるようにがんばります。ツアーもあるし、ライヴ漬けになりそうですね。ライヴは好きなんですけど、プレッシャーと戦わなくちゃいけないんです。お客さんの前に立つのは楽しいけど、練習してると“なんでこんなに下手なんだ!”って自分にイライラしちゃうんです。楽しく練習できるようになりたい。あと、夏は暑いので、テレビでオリンピック観たいですね(笑)」
取材・文/森 朋之 Interview & Text by Mori Tomoyuki 撮影/永峰拓也 Photo by Nagamine Takuya