2019年、Apple Musicの〈今週のNEW ARTIST〉に自主制作のEP『Take Me Out Of This World EP』がピックアップされ、インターネット上で「誰? どこのバンド?」と騒がれていた記憶がある。The mellowsは大阪を拠点に活動する5人組。ヴェイパーウェイヴ+バンド・サウンド+日本語なスタイルが、2019年から20年の日本の都市音楽をめぐる心象にすっとはまっていった感がある。セカンドEPにして、初の全国流通盤『MEMORY OF HOLO LOVE』リリースを期して、バンドの成り立ちや彼らが考える理想的な音楽について話を聞いた。
――2019年にApple Musicの“今週のNEW ARTIST”にファーストEP『Take Me Out Of This World EP』が選出されたことをきっかけにThe mellowsの名前は知られるようになったと聞いてます。そもそものバンドの始まりについて教えてもらえますか?
茶谷 「もともとメンバーの違う前身のトリオ・バンドを僕はやってたんです。そのときは池田くん(IKEDANAL funny beast)、アベくん(Jun funny birthday)はサポート・メンバーとして参加してもらってました」
池田 「いま、僕はベースなんですけど、そのときはギターでサポートしてました」
茶谷 「そこから僕以外のメンバーが2人抜けちゃって、半年くらい活動を休止してたんです。そしたら今のヴォーカルのアオイ(AOI CUTIE FUNNY)が“私もバンドやりたい”って言い出して、“じゃ、やろうか”と。それで、僕、池田、アベ、アオイの4人で新たに始めたのがThe mellowsなんです。それが、2016年の終わりか、17年の初めくらいですね。そこにドラムでいちばん若いサトミくん(Satomi new ninja)が入って、今のメンバーになりました」
サトミ 「茶谷さんのバイト先で知り合いました」
――ちなみに、The mellows以前のバンドはどういうスタイルだったんですか?
茶谷 「もっとサイケデリックな要素が強かったですね。今ほどローファイな感じではなかったです。マッドチェスターっぽい音もやってみたりしてました。だけど、僕らの周りには洋楽っぽい感じのバンドもあんまりいなかったです」
――そこからThe mellowsに至るには、もちろんヴォーカルでアオイさんが加入したということもあるけど、音楽性の面でも心機一転するきっかけがあったんですよね?
茶谷 「(前のバンドでは)僕が歌ってたんですけど、次のバンドではあんまり歌いたくなくて、このタイミングで女性ヴォーカルでやったら面白いんじゃないかなと思ったんです。ヴェイパーウェイヴ感も結構意識してました。(竹内まりやの)〈Plastic Love〉が海外でアンセム化していたし、僕らも日本語でやってそこにヴェイパーウェイヴ感を絡めると面白いんじゃないかなと」
――バンド・サウンドでこの感じを狙うというのも、ありそうでないユニークな着想だったと思います。
茶谷 「最初は、ヴェイパーウェイヴでもMcCintosh Plusとか、SURFINGとか、初期のかなりローファイな音が僕は好きだったんです。でも、新しいヴェイパーウェイヴでも100% ELECTRONICAを主宰するジョージ・クラントンとか、バンドでやっても結構大丈夫そうな音が出てきてて、こういう感じなら音源的には再現できるし、あとはライヴでできるかどうかを考えれば、なんとかいけるんじゃないかなと」
池田 「僕はもともとポストロックが好きなんですけど、ヴェイパーウェイヴは茶谷さんからいろいろ教えてもらっていて、“すごい面白い!”と思ってました。自分があんまりちゃんと知らない音楽だったけど、それをバンドでやるんだということで入り口に入れたワクワクが結構ありました」
サトミ 「正直にいうと、そういう世界をあんまり知らないタイプのドラマーだったんで、初めに自分がドラムを叩く音源を聴かせてもらったときの反応は“なんやこれは? 聴いたことないぞ”でした。でも、それは不快感じゃなくて、新しいものを見つけたような感覚だったし、今までもドラマーとして新しさをいっぱい感じられる刺激的なバンドだなと思ってます」
アベ(nega) 「彼(茶谷)に“こういう曲をやりたい”って曲を渡されたときに、僕もヴェイパーウェイヴな感じの音がやりたい時期だったので、面白いと思いました」
茶谷 「なんか、僕が好きな音楽を混ぜていったらこうなった、みたいなところがあって。もともとバンド・サウンドが好きっていうのが大きいんかなとは思いますね」
――実際に『Take Me Out Of This World EP』が話題になった瞬間、どんな感じだったか覚えてますか?
茶谷 「はい。初めて音源としてちゃんとできたかな、と思えた5曲ではありましたけど、聴いてくれてる人が増えてるという現象は、“あれ?”って感じでした。それまでめちゃめちゃ無名なバンドやったんで、人目に晒されるのに慣れてなかったんです。リアルに声をかけられるというより、ネットを通じての反応が多かったですけどね。“あのバンドがThe mellowsのこと言ってたみたいやで”と人から聞くとか」
――曲名にも「Plastic Time」とか「Dream Funk」とか、ワードからしてあえてヴェイパー感を変に迂回せずに直球で突いてきた感じもありました。
池田 「僕らも(このタイトルを)パッと持ってきたとき、“あー、(ヴェイパー)ぽい!”って思いました(笑)」
茶谷 「サウンドにはこだわりたいという気持ちは強かったんですけど、自分としてはそんなにタイトルが直球という意識はなくて。ロマンスっぽい感じを狙ったというか、曲に合うタイトルかなくらいの気持ちでした」
――面白いですね。それが逆に、すごく狙って出てきたように見えるという。そもそもバンド名もThe mellowsですからね。これもある意味、直球ですよ。
茶谷 「そうですよね。思いきり言っちゃってますよね(笑)。バンド名は全然思いつかなくて、作ってた曲調がメロウだったので“それでいっか!”みたいな感じですっと決めちゃいました」
――そういえば新作EP『MEMORY OF HOLO LOVE』には、一曲だけ初めて日本語のタイトルがついてる曲がありますよね。「Empty 適当な偶然に」。
茶谷 「あれはヴェイパーっぽいタイトルを狙いました(笑)。わけわからん日本語っぽいのをつけようと」
アベ(nega) 「ヴェイパーウェイヴの要素っていっぱいあると思うんですけど、そのなかでもタイトルのつけ方の面白さがありますよね。英語を全角にしたりとか、適当な感じなんだけど絶妙なセンス。言語を知らんからこそできるバグった世界というか、ヴェイパーウェイヴの人たちって音楽を文字でも表現できるんだって思います」
――こういう表現って、わりと“人間不在”みたいな感じにも向かいがちですけど、The mellowsはそこにしっかり人間を入れてきてますよね。
茶谷 「たしかに。そうですね」
アベ(nega) 「そういう意味では、僕はヴェイパーウェイヴっぽいって言われることに心のどこかで違和感もあります。たしかにそういうサウンドは好きだし、結果的にそう言われてるけど、むしろ“そういうふうに言われるんだ”みたいな感じが強い」
茶谷 「まあ、僕たちは本当はヴェイパーウェイヴじゃない人間やし(笑)」
アベ(nega) 「最初のEP出したときからそう言われるようになって、逆に僕はその概念を自分のなかで考え直したりするようになりました。たとえば、フューチャーファンクとヴェイパーウェイヴってじつはすごく違う音楽じゃないですか。それを一緒にしてる人が多いことに結構違和感がある。僕はヴェイパーウェイヴは好きですけど、フューチャーファンクはあまり好きじゃないですから」
茶谷 「僕もそうなんです。フューチャーファンク的な跳ね感は、このバンドでは消したいので。ライトな感じより、もっとディープな感じにしたいし、最終的にヴォーカルがいちばんよく聴こえるようにはしたいと思ってます。ヴォーカルのメロディありきというところに最終的に落とし込みたい」
――ヴェイパーウェイヴっぽさに甘えずに、ちゃんとそこに違和感を持って自分たちの音楽を探すことを意識してるんですね。
茶谷 「そうです。やっぱり新しい音を求めたいし、いろんな音楽を混ぜていきたいなと思ってます」
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――そういう思いの強さも、今回のセカンドEP『MEMORY OF HOLO LOVE』には入ってると思います。
茶谷 「無名だったこともあって、“僕らの音を聴いてくれる人がいる”と思いながら曲を作ったのは今回が初めてだったんですよ。気合い入ってます」
――周りがThe mellowsを“ヴェイパーウェイヴっぽい”というジャンルにはめようとしていくなかで、逆に自分たちらしさが何なのかを強く意識していかなくちゃいけない時期でもあると思うんです。
アベ(nega) 「それはめっちゃ思いますね」
茶谷 「だから、このEPで一回ひとつの区切りみたいにしたいんです。今までの作り方とか、今までの音楽の考え方とかをリセットして、もう一回新しくThe mellowsを作っていこうかなという気持ちがある。その意味でアルバムのタイトルに、“MEMORY”という言葉を入れたというのもあります。ここからは今までのThe mellowsっぽさに偏らず、いろんな方向性で曲を作っていきたいなとは思ってます。最終的には、ヴォーカルのメロディがいちばんよく聴こえるようにしたいし、アオイの声は昭和歌謡みたいな曲を歌ったら似合いそうなところもあって、ちょうどいいなと思うんです。うまいことこのバンドがやりたいことにハマったんじゃないかなと」
――アオイさんの歌い方やサウンドの絶妙な折衷感って、今の海外から見たらオリエンタルな演出とかよりよっぽど日本っぽさとして受け止められやすいかもしれないですね。海外からの文化の影響を受けて日本の音楽はできてるけど、そこから浮かび上がる日本っぽさって何なんだろうって海外の人たちも深く考察し始めてる時期なので。ネット上だからこそ自分たちの知らない場所で勝手にそういう伝わり方が起こる気もします。
茶谷 「そこはめっちゃ大事に思ってます。そこを押し出すほうがいいもの作れるんじゃないかなと」
アベ(nega) 「いずれ僕らをパクったようなバンドが出てきてほしいですね。“あいつらThe mellowsっぽい”みたいな。しかも海外とかで」
茶谷 「それは超面白いね! 海外で聴かれるようになったら本当にいいな」
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取材・文/松永良平