2017年のデビュー10周年を経て、翌2018年7月にリリースした初の全編クラシックのアルバム『classique(クラシーク)』で自身の音楽表現を深め、昨年は10月〜11月にかけ、親しみのあるヴァイオリンの名曲を中心としたプログラムで全国5ヵ所を巡るリサイタル・ツアーを成功させた。そんな宮本笑里がこのたび、13年目を迎える音楽活動で初めて、自作のオリジナル楽曲を中心とした5曲で構成したEP盤を制作。彼女がこれまでに経験したさまざまな気持ちを綴りつつ、聴き手それぞれの人生の力になるようにとの想いを込め『Life』と名付けられた本盤は、多彩なコラボレーション・アーティストとの共演も魅力的な一枚だ。
――前作とはがらりと趣向を変えた内容です。これまでも各アルバムに1曲程度、ご自分で作曲したオリジナル曲を収録されていましたが、今回はまとめて楽しめますね。
「デビューの頃からクラシックとポップスの世界の両方を大切にしてきましたが、一昨年に全曲クラシック作品のヴァイオリン小品集をリリースすることができました。自分自身でもほっとしたし、出来にも満足しています。それで、やはり今度はもう一方のポピュラー的な作品を追求したいと思い、私の今までの経験を生かして作ってみました!」
――サウンド的にもバラエティに富んだ5曲で、すべて単独でシングル・カットできそうなクオリティです。
「自分だけで曲を書いていると、どうしても似通った部分やクセのようなものが出てしまって、もちろんそれが私の持ち味であり作風ともいえるのだけれど、せっかく今回まとめて聴いていただけるのだから、各々斬新さも打ち出して、いい意味でリスナーを驚かせたいと思ったのです。そこで、ミュージシャンでクリエイターでもある皆さんのご協力をいただくことにしました」
――まずは「Delight」と「Bitter Love」の2曲に作曲(※宮本笑里との共作)とプロデュースで参加しているナオト・インティライミさんの存在が目をひきます。
「ナオト・インティライミさんとは日本テレビ系『NEWS ZERO』のキャスター時代にインタビューしたり、フジテレビ系の音楽番組『僕らの音楽』でご一緒したことがきっかけで、お互いにライヴを聴きに行くようになったりして、音楽的な交流を続けていました。ジャンルを問わず、世界の音楽をつねに探求して独自のサウンドとアイディアを発信し続ける、あの明るくてパワフルな姿勢にすごく憧れます。勉強熱心でクラシックのこともリスペクトしてくれて、いろいろとアドバイスをくれる頼もしい先輩でもある。今回のコラボでは遊び心を大切に、たとえばナオトさんがピアノでポロリと弾いたコードに私がメロディを乗せるなど、その場のノリで思いつくままに演奏しながら一緒に曲作りを楽しみました。いつもなら悶々としているところを、あっという間に書き上がったので、自分でも驚いています(笑)」
――「Delight」は英国のユニット、クリーン・バンディットのヒット曲「Rather Be」にも通じる、アコースティックな楽器の魅力にあふれたダンサブルでノリのいい曲。それに対して「Bitter Love」は変化に富んだサウンドの仕掛けが面白いと思いました。
「2つの曲は対照的でありながらも、でもどこか共通した世界観がナオトさんらしい新鮮な仕上がりとなっています。〈Bitter Love〉はラジオから流れてくる音のようにして始まり、中間部は古いアルバムをめくっているようなレトロなイメージ、そこから鐘の音で現実に引き戻される……と三段階で構成される物語仕立てのように楽しんでいただけたら嬉しい。レコーディングしている時には、子どもの頃ドキドキした初恋のことなど思い出しながら弾いていました」
――2曲目の「Continue」は今年の日本ゴールドディスク大賞“インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤー”を受賞したTUBEのギタリスト、春畑道哉のアルバム『Continue』に収録されているタイトル曲のアコースティック・ヴァージョンなのですね。
「春畑さんのアルバムで共演したものとはひと味違う、ふんわり包み込む優しさのなかに芯の強さを感じさせるテイストで、新しくアレンジしていただきました。春畑さんの歌うようなギターも素晴らしい。温かいお人柄で、普段から愛情を持って楽器と接する物静かな印象ですが、演奏中はバリバリの華麗なテクニックでリスナーを魅了してくれます」
――4曲目の「Marina Grande」は2011年に国立西洋美術館で開催された展覧会〈レンブラント 光の探求 / 闇の誘惑〉のオフィシャルサポーターを務められた時、同展のテーマ曲として披露されたものがオリジナルだとか……。
「イタリアのカプリ島にある青の洞窟に憧れており、広い海をイメージしながら作りました。まだ作曲を始めたばかりの頃の作品なので、“若いな〜”と思う部分はありますが、以前からお世話になっているヴァイオリニストの吉田翔平さんが、今回は室内楽らしい親密な雰囲気のアレンジを考えてくれました。ストリングスの響きや二人の掛け合いなども味わってみてください」
――ポップス界で大活躍の久保田真悟(Jazzin'park)のアレンジによる5曲目の「Landscape」が、どこか希望を感じさせる楽曲で、ラストにふさわしいと思いました。
「久保田さんはナオトさんに紹介していただいた方で、私が思い描いていたとおりの世界に仕上がっていて感動しました。この曲のカチカチとした響きが表現しているのは時が刻む音。私たちが永い時間の流れのなかで今、この瞬間を生きている喜びを実感できますように、との願いを込めて作りました。皆さんが今回のEP『Life』を聴いて最後に“人生いろいろあるけど、とりあえず前に進んでいこう”ってポジティヴな気持ちになっていただけたら最高ですね」
――5月に横浜・東京・大阪の3つのBillboard Liveをまわる、本盤のリリース・ツアーも楽しみです。
「吉田さんをバンマスに迎え、バンドスタイルで楽しいツアーになりそうです。一気にオリジナル曲も増えたことですし、どうかこちらもご期待ください」
取材・文 / 東端哲也(2020年2月)
〈宮本笑里 「Life」 Release Tour 2020〉
5月17日(日)神奈川・横浜 ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場15:30 開演16:30 / 2ndステージ 開場18:30 開演19:30
5月23日(土)ビルボードライブ東京
1stステージ 開場15:30 開演16:30 / 2ndステージ 開場18:30 開演19:30
5月29日(金)ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場17:30 開演18:30 / 2ndステージ 開場20:30 開演21:30