『東脳』『LSD』などを手がけたゲーム・クリエイターであり、ミュージシャンやグラフィック・デザイナーなど、多様な顔を持つアーティストOSAMU SATOが、自身のレーベル“理念音盤(理念レコーズ)から、最新アルバム『GRATEFUL IN ALL THINGS(感謝感激雨霰)』を発表した。立花ハジメ、佐藤 薫、大野由美子、成田 忍、宇川直宏ら多彩なゲストが参加したアルバムで、ファンタジックなテクノからアッパーなダンス・チューン、エクスペリメンタルな電子音楽、アンビエントまでバラエティに富んだ内容は、彼のこれまでの足跡が伝わってくる集大成的な傑作といえるだろう。SATOにメールで話を聞いた。
――SATOさんは2017年に15年ぶりの新作『All Things Must Be Equal』をリリースして以降、『Objectless』『LSD REVAMPED』と、過去作品にリマスターやブラッシュアップを施したアルバムが続いていましたよね。それはレーベルやファンからの要望が大きかったのでしょうか?
「15年ぶりに音楽を始めたのは、ベルリンのSLEEPERSからのオファーがきっかけです。音楽はその間まったくやってなかったので、何度か断っていました。もうスタジオも機材も何もないので音楽を作ることはないと思っていたんです。そうすると(SLEEPERSが)昔、録音したものはないかと聞いてくるものですから、昔のDATやバックアップのデータなどをチェックしていたら、自分でも記憶にない曲が結構発掘できました。そして、また録音を始めていくと、それにのめり込むことになり、旧作のリワークも含め20曲以上できました。ですので、『All Things Must Be Equal』はカセット、アナログ、CDとすべて曲が違ったりします。そして、日本でもCDを出したいなと思い、古巣でもあるMUSICMINEから出すことにしました。
『LSD REVAMPED』については『All Things Must Be Equal』リリース当時に個展も同時にしたところ、多くの若い10代、20代のファンが見に来てくれました。それは大きなありがたい誤算でした。実際、『All Things Must Be Equal』も予想より多く売れました。それは、ネットインフラが成熟して、ゲーム関連である僕の制作物が相当数掘られていたという結果だと思います。そしてその発端がやはり『LSD』というプレステのソフトが入り口でした。日本だけで発売されたものが、国内はもとより海外にまで飛び火して、そこから現在の海外リリースという現象は始まっているのではないかと思います。ということで、『LSD』のサントラをリイシューという話でしたが、僕としては、新たにミックスし直して出したいと考えました。原盤は僕が所有していて、全曲、マルチトラックが残っていたというのも大きいです。
佐藤薫さんは僕の学生時代に遡って、EP-4のツアー・カメラマンとして何度かご一緒したり、薫さんのレーベルのスケーティングペアーズから『Objectless』を最初にリリースさせていただいたり、僕がリスペクトする人であり、原点です。薫さんは、3本のドローン的な音、ノイズを送ってきてくださいました。それらはそれだけで音世界がありました。僕はそれを僕のバックトラックにピッチを編集したり切り刻んでリズムにしたりして、できる限り使い切りました。気持ちとしては、猟師がイノシシを撃ったらすべてを感謝していただくという感じでしょうか。またこの〈SWEET SUITE FIELDS〉には、バッファロー・ドーターの大野由美子さんにMINIMOOGを弾いてもらっています。バックトラックが50%くらいできたところでそのトラックを送り、手弾きで弾いてくれたファイルを送ってもらい、僕が編集してダビングしています」
――今回のアルバムの重要曲「I LOVE YOU」では、立花ハジメさんとコラボされています。
「立花ハジメさんは、僕にとってはスターです。学生時代はYENレーベルから出たレコードをすべて聴いていました。デザイナーとしてもADC賞を取られたり、憧れの存在です。そして僕もその後同じ世界を目指し、20代の後半、ハジメさんが審査員を勤められた、デザイン・コンテストに応募して賞をいただきました。そして昨年ハジメさんが個展をされていて、そこでお願いしました。音はその会場でサーキットベンディングしてあるTR606とSPEAK&SPELLをハジメさんがずっと触って面白い音を出されていたので、それを録音させていただきました。〈I LOVE YOU〉のほぼ全編で鳴っています」
――この曲はSNSで集められた「I LOVE YOU」のたくさんの声をサンプリングするというユニークな試みをやっていて、愛にあふれたような音像を生んでいますね。
「SNSで募集して、いろいろな国の言葉の“I LOVE YOU”を使っています。僕のSNSはいろいろな国のファンがフォローしています。以前、『LSD』の〈COME ON AND〉という曲のビデオを作る時、ゲーム画面だけでビデオを制作するのではなく、ファンたちに住んでいる街を歩く動画を送ってもらい、それを使って完成させました。当時もSNSで募集すると結構な数が集まりました。その時の方法と同じで、各国の言葉で“I LOVE YOU”を募集したら、一晩で50を超える数が送られてきました。どうして“I LOVE YOU”という言葉にしたかというと、世界中の人が一番誰でも知っていて、一番美しい言葉で、普遍的だからです。アルバム・タイトルの『GRATEFUL IN ALL THINGS(感謝感激雨霰)』のテーマにも沿った言葉だと思いました」