ロックンロール、ブルース、ジャズ、レゲエなどが混然一体となったサウンドとともに響くのは、現在の社会に抗う意思とバンドマンのリアルな生き様。結成18年目、通算10作目となるフルアルバム『DRAFT』でYellow Studsは、みずからの存在意義を強く示してみせた。野村太一(vo,key)、植田大輔(b,cho)、高野 玲(ds)に本作の制作とバンドの現況について聞いた。
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DRAFT(Yellow Studs・TOTS-0013)――2020年から現在に至るまで、ライヴが思うようにできない状況が続いています。バンドマンにとっては厳しい時期が続きますね。
野村太一「ここまでライヴをやらなかったのは、18年バンドをやってて初めてでしたね。ただ、そこまで影響があったわけでもなくて」
植田大輔「大打撃を受けたかと言われたら、ウチのバンドの場合、そうでもなかったんですよね。太一の家からアコースティック・ライヴを配信したり」
高野玲「僕もバイオリンを持ち出してきたり、試行錯誤を繰り返して。ある意味、可能性が広がった時期でもありました」
植田「太一は逆境に強いし、いろんなアイディアを出してくれて。なのでピンチだと思わなかったのかも」
――2月にリリースされた初のカヴァー・アルバム『brand new old days』も、“アイディア”の一つだった?
野村「カヴァー・アルバムは、YouTubeの配信ライヴがきっかけなんですよ。アコースティックで何曲かカヴァーしたら、“CDを出しましょう”と言ってくれた人がいて」
――「メロディー」(玉置浩二)、「レット・イット・ビー」(ビートルズ)、「いいひ旅立ち」(山口百恵)など幅広い楽曲が収録されてましたが、野村さんのルーツに根差した選曲だったんですか?
野村「まあ、そうでしょうね。“ソラ”で歌える曲ばかりなので。みんなが知っている曲で、またリヴァイヴァルしてほしい曲というテーマもありました」
――そして3月17日には、3年10ヵ月ぶりとなるニュー・アルバム『DRAFT』がリリースされます。先行配信された「汚れたピースサイン」「直感のすすめ」も収録されていますが、作り始めたときはアルバムの全体像はどんなふうに考えていましたか?
野村「とくにないですね。コンセプトを持ってアルバムを作ったことは1回もないんですよ。いい曲ができたら録るだけなので。ただ、いままでいちばん手ごたえがありますね、自分のなかで。それはつまり、いままででいちばん売れないかもしれない、ということなんですが(笑)」
――(笑)。“いちばん手ごたえがある”と感じるのは、どうしてでしょう?
野村「なんだろう……?アルバムを作るたびに“いままでいちばん”と思うので、いちばん新しい作品だからじゃないですか(笑)。植田くんはどう?」
植田「僕も作るごとに“最高傑作だ”と思うんですけど、太一と同じで、いままでいちばん自信がありますね。たくさんの人に聴いてもらいたいと心から思えるアルバムです」
野村「うん。“聴いてほしい”というレベルがどんどん上がってるよね」
高野「ドラム、ギター、ベース、ヴォーカル・ラインがしっかりリンクしてるんです。僕はバンドに加入して3年目ですけど、“太一くんはこういうフレーズが好きなのか”“植田くんはこういうベース・ラインが好み”ということがようやくわかってきて。それを掬い上げたうえで、ドラムを叩けるようになったというのかな。楽曲のクオリティも上がったと思うし、作ってて楽しかったです」
野村「ロックをやってる人たちのなかでは、相当うまいよね。僕のピアノ以外は。僕は直感で弾いてるから」
高野「ピアノ、いいじゃない(笑)。歌詞もがんばってくれましたね。よくぞ、これだけいい歌詞を揃えてくれました」
野村「いま振り返ってみると、よく出てきたよね」
――曲作りにおいて、歌詞を書くタイミングはいつなんですか?
野村「最後ですね。みんなが作り上げてくれたメロディやサウンドを聴いたうえで、“どんな歌が似合うだろう?”と考えて。バンドで曲を作ると、想像していたものとは全然違うものになったりするんですよ。最初に歌詞を書くと、(アレンジするなかで)合わないなということもあるので、ここ5年くらいはいちばん最後に書くようにしてます」
植田「太一らしい歌詞だなと思いますね、どの曲も。生々しくて、すごくいいと思います」
――1曲目の「テレキャスター」は、バンドマンの姿がリアルに刻まれた楽曲です。“アンプはハウってた 白目をむいて歌ってた”もそうですが、めちゃくちゃ生々しいですね。
野村「これもサウンドができてから書いた歌詞なんですけど、ずっと“万人にわかりやすい歌詞を書こう”と思っていたんですが、この曲の歌詞はわかりづらくてもいいかなと(笑)。“この音には自分の経験を歌った歌が似合うだろう”と思ったんです」
――“阿保らしくて最高にイカシているロックンロールをここに残す”というフレーズも強烈で。当然、ロックンロールへのこだわりは強いですよね?
野村「うーん。2人はどうですか?」
植田「“Yellow Studsはロックンロール・バンドだ”というこだわりがあるかと言えば、難しいところですね」
野村「“ロックンロールって何?”って言われたら、わからないからね。“神様って何?”という話と同じで、結局は人間が作り出すものなので。自分にとっては“前を向いて生きる”とか“戦ってる”とか“人に優しくできる心の強さがある”とかみたいなことなのかな。自分たちで作った曲に対しては、“よくわからないけど、カッコいいでしょう”って言えますけど」
――なるほど。たしかにYellow Studsの音楽にはロックンロール、ブルース、ジャズなどが混ざり合ってるし、ジャンルで括るのは無理があるかもしれないですね。
高野「(曲作りの段階で)いろいろと試してますからね。太一くんがコード進行を持ってきて、“ロックでやってみようか”“16分のリズムでやってみよう”とかレゲエっぽくしたり、ジャズの要素を入れたり。そのなかで太一くんがピンときたものが曲になっていくので」
――その場のヘッド・アレンジが重要というか。完全にセッションなんですね。
野村「そうです。高野さんが叩いたフレーズに対して、“今のいいね”という感じで、音を捕まえて、形にしていくんですよ。〈直感のすすめ〉もそう。ギタリストが遊びで弾いてたリフを聴いて、“それを曲にしよう”というところから始まったので」
――「不気味な世界」のアレンジも印象的でした。ロック、レゲエを軸に、変拍子を取り入れたり、メンバーそれぞれのフレーズが絡み合って、めちゃくちゃ独創的なサウンドですよね。
野村「そういう曲に反応してもらえてうれしいです。いちばん売れなそうな曲ですけど(笑)。これがヒットしたら最高な世界なんだけど」
高野「ははは。楽しいけどね、演奏するのは。〈不気味な世界〉も、太一くんが持ってきたコード進行をもとにしてアレンジしたんですよ。最初から3拍子と4拍子が混ざっていて、“ドラムのフィルをもっと派手にしてみようか”から始まって、植田くんがベース・ラインを乗せて」
――頭で考えて組み立てたら、こういうアンサンブルにはならない気がします。
野村「そうですね、本能でやってるので。“お客さんが喜ぶ曲ってどういうものだろう?”“人がパッと聴いたときに好きって思える曲を作ろう”と思ってたけど、18年やってきて、俺にはそれができないことがわかって。吹っ切れました(笑)」
――“文明はマッハで進化して その分だけぶっ壊れた奴ら”という歌詞もありますが、野村さんから見て、いまの世界はやっぱり不気味ですか?
野村「とっても不気味ですね。外でコンプライアンスとやらを遵守してるわりには、SNSでは見ず知らずの人を傷つけまくって。YouTuberの動画も“こんなクオリティの低いものをみんな喜んでるの?”というものが目について。モノ作りって、こんなもんでいいの?って思いますね」
――真っ当なバンドの在り方を貫いている人が言うと、説得力がありますね。
野村「嬉しいです。これだけバンドをやってて、こんなに知名度が低いのはすげえなって思いますけどね(笑)。“何で売れないんだろう?”ってずっと考えてるし、俺らがカッコ悪いから?と思うこともあるんだけど、こうやって音楽をちゃんと聴いてもれて、歌詞の要点を掴んでもらえることもあるから、間違ってないんだと思います」
高野「さっき太一くんも言ってたけど、頭で作ってる音楽ではないですからね。その場で出てくる感性が大事だし、ずっと同じフレーズを繰り返すなかで生まれる閃きを捕まえて。自然と“その人”の感じが出てくるし、今どきの音楽とはちょっと違うかもしれないです」
植田「メンバーのクセもすごく出てますからね」
――「Club Doctor」はスカとロックロールとジャズが混ざっていて。2000年前後くらいの東京のライヴハウス・シーンを想起させる歌詞もいいですね。
野村「この曲は本当に何を歌ってるのかわからないと思います」
高野「バンドマンのウケはいいだろうけど(笑)」
植田「僕らも“Club Doctor”(東京・荻窪のライヴハウス、2012年に西新宿から移転)でやってたので」
野村「行方知レズ、DOBERMAN、勝手にしやがれなどが盛り上がって時代ですね。……流行んないですかね、また。僕は今の音楽もつとめて聴くようにしているし、Tik Tokを観ることもあるんだけど、何度も聴きたくなる音楽はぜんぜんなくて。それは俺が古い人間だからかもしれないけど」
高野「それでいいんだよ、野村太一は」
――アルバムの最後に収められた「20」には、“苦しんで 笑って 歌ってきたけれど”という歌詞があって。アコーディオンの音色のせいか、ポーグスの雰囲気を感じました。
野村「たしかにポーグスは入ってますね。あとトム・ウェイツも入ってる。この曲、一人で宅録で作ったんですよ。もう1曲入れたかったんだけど、時間もなかったし、“一人でやるわ”って」
高野「アルバムのなかで、この曲だけでメジャー・キーなんだよね」
野村「真剣な曲が多かったかから、明るく終わりたかったんだ。映画でもそうだけど、ハッピーエンドが好きなんです」
――最高傑作と胸を張るアルバムができて、次はこの作品を伝えていく時期ですよね?
野村「そうなんですけど、この状況だし、“なすがまま”ですよね。見えない先のことを考えるから不安になるのであって、たとえば“老後はどうなるんだろう?”なんて、誰にもわからないじゃないですか。だったら、今あることを一つひとつやっていくしかないなと」
植田「もちろん“聴いてほしい”という気持ちはありますけど、先を見据えて動くのが難しいので。やるべきことをやるだけです」
高野「どのミュージシャンもそうだと思いますけど、どう動いていいかわからないところもありますよね、正直」
野村「“答えは風の中にある”と歌ったボブ・ディランの気持ちがやっとわかりました(笑)。バンドを長くやってれば、いろんなことがあるのは当たり前。そもそもバンドって、先のことなんて考えない人がやるもんですからね!」
取材・文/森 朋之