BeatleDNA、ビートルズへの思いがあふれる人気シリーズが完結 制作担当者が語る実現までの笑いと涙

セス・スワースキー   2021/12/22掲載
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 有名無名を問わず、ビートルズっぽい曲は巷にあふれているが、それぞれCD2枚組のコンピレーション・アルバム『Power To The Pop』と『Power To The Pop 2』は、それらの曲を、熱意と愛情を込めて編纂した2作品だ。2019年11月に第1弾が発売されるや大きな話題を呼び、続編も2021年9月に発売された。“BeatleDNA”のシリーズとも連動し、今回、セス・スワ―スキーとヴィニール・キングスの日本独自ベスト盤も発売された。30年越しの企画だったという“BeatleDNA”の完結を祝し、制作に携わったソニー・ミュージックの白木哲也氏に話を訊いた。
――“BeatleDNA”が一段落した現在の心境からお願いします。
「『Power To The Pop』の第1弾が作れた時は充実感もありましたが、入れたい曲を入れられない悔しさがあったんです。第2弾ではそれがある程度取り戻せたので、2枚合わせて考えていたイメージのものは作れたと思います。セマンティックスとオレンジは残念ながらどちらにも入れられませんでしたが、これ以上やると内容が薄くなってしまうし、マイク・ヴァイオラやパグウォッシュやナインズなどのベスト盤も出せたので、シリーズとしてはここで終了かなと」
――白木さんが思うビートルズっぽさとはどんなイメージですか?
「サウンドですね。初期のリッケンバッカーのギターのようなキラキラした音がビートルズだと思う人が多いじゃないですか。それももちろんいいんですが、中期から後期にかけての、メロトロンを使ったマジカルな感じが大好きで、そういうタイプのビートリーな曲を自分で昔はテープにまとめていました。ちょっとひねくれたポップとかサイケデリックなテイストがあり、その中でメロディとハーモニーが合わさった曲が大好きでした」
――日本ではあまり知られていない人も紹介されていますね。
「ビートルズ的な遺伝子を持ったアーティストって、埋もれてしまってるものが多いんですよね。“こんなにいいのに、何で聴かないのかな?”と、レコード会社に入る前からずっと思っていました。それを紹介したいという思いは根本的にありましたね。それで、以前に制作で関わっていたマイク・ヴァイオラをまずは出したかったんです。そこから始まった感じです」
Album
VA
『Power To The Pop』

SICP-31336〜7
Album
VA
『Power To The Pop 2』

SICP-31472〜3
――『Power To The Pop』の2作は顔ぶれを見ただけで、CDとしてまとめる作業がどれほどたいへんだったかわかります。
「入れたいけど連絡先がわからないものはFacebookやサイトから辿って行き、本人や関係者を探し当て、そこから交渉という……けっこう地道で時間のかかる作業でしたね。ニック・ロウとXTCは、第1弾の時は本人に辿り着かなかったんです。ニックのマネージャーは、最初は“けんもほろろ”で、“我々はこういうものには興味ない”と(笑)。XTCは、その後アンディ・パートリッジのメール・アドレスがわかったんです。それで“もう大好きで昔から聴いていていた。30年越しの企画なので、どうしてもあなたの曲を入れたい”と情に訴えたら、マネージャーから連絡が来た。メールの“CC”にアンディも入っていました(笑)」
――いわば、ビートルズのトリビュート・コンサートをやるうえで、出演者や演奏曲をすべて仕切って決めていくのと同じ感覚ですね。
「そのとおりですね。でも、やりとりはたいへんでした。ELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)はソニーなので入っていないというのはあり得ないけど、第1弾に入れたかった〈ミスター・ブルー・スカイ〉はダメだったんです。たぶんCMで使われすぎちゃったんだと思います。だったらジェフ・リンの再録音の音源でもいいと言ってもダメで……。それで第1弾は〈夏の日(One Summer Dream)〉になりましたが、誰もこれは入れないでしょ(笑)。第2弾の時も〈ミスター・ブルー・スカイ〉は変わらずダメでしたが、第1弾の時にNGを食らった〈モーメント・イン・パラダイス〉はOKになったんです。前回は権利的な問題でソニー音源かどうかはっきりわからないということではねられたけど、ELOのデビュー50周年記念盤として紙ジャケのシリーズを日本だけで出すのがOKになり、だったら『ZOOM』に入っている〈モーメント〜〉も第2弾にも入れられるでしょ、ということで。もう、口八丁ですよ(笑)」
――ビリー・ジョエルの「ローラ」は、ビリーでは最適な選曲だと思いました。
「〈ローラ〉がコンピに入るのは、おそらく世界的にこの一枚だけかもしれませんね。『ナイロン・カーテン』を聴いた時の原体験もあって、最初からこの曲に決めていました。石丸電気で予約して買って、部屋に持ち帰って聴いて、“あれ? 今までと違うな”と。ジョン・レノンっぽいなあとか、ドラムの入り方もビートルズっぽいなあと。みなさんが考えるビートルズっぽいというのとすり合わせていくのは難しいところですが、僕が作るんだから僕のこれまでの体験が大きくその元にあってもいいんじゃないかと思いました。“マイ・テープ”を商品として出しちゃったという申し訳なさもあるんですけどね(笑)」
――バッドフィンガーとラトルズも入っていますね。
「バッドフィンガーは〈嵐の恋(No Matter What)〉のようなアップル時代のヒット曲を入れたかったので、ダメ元で申請してみましたが、ほんとに瞬殺でダメでした(笑)。それならバッドフィンガーをカヴァーしているアーティストの曲は……とか考えているうちに、ワーナー音源はどうかなと。日本語が入っているし、全体の流れでアップテンポの曲が欲しいと思って〈誰も知らない(Know One Knows)〉を申請し、OKをもらいました。ラトルズは第2弾に入れるのはやめようと思ったんです。第1弾に入れたアーティストはなるべく第2弾には入れないほうがいいかなと思っていましたが、デュークス・オブ・ストラトスフィア(XTCの変名バンド)が使えることになった時に、ディスク2は“サイケデリック・サイド”にしたほうが面白いかなと思い、じゃあラトルズももう1曲入れようと。第1弾の〈チーズ・アンド・オニオンズ〉も、やっぱり個人的な体験ですね。初めて聴いたのがその曲で、ジョン・レノンそっくりだったんです。まあ、ラトルズは何を入れてもいいんですが(笑)。それで第2弾の“サイケデリック・サイド”に〈ストロベリー・フィールズ・フォーエバー〉や〈アイ・アム・ザ・ウォルラス〉のような曲を入れようと思って探してみたら、意外にないんですよ。それで〈〜ウォルラス〉風の〈ピギー・イン・ザ・ミドル〉にしました。ユートピアも同じく第2弾に入れるつもりはなかったのですが、だったら〈ストロベリー〜〉風の〈エヴリバディ・フィールズ・フォーエヴァー〉を加えようと。第1弾はユートピア(〈抱きしめたいぜ〉)で始まり、オアシス(〈ドント・ルック・バック・イン・アンガー〉)で終わるので、理想郷で始まり、安息の地で終わる、と指摘してくれた方がいたんです。まったくの偶然なんですけどね。発売前に聞いていたら宣伝文句として使えたのに(笑)」
――曲順もかなり苦労されたと。
「第1弾も第2弾も、ディスクごとにテーマ性を持たせようと思っていたので、曲の並べ方には苦労しました。たとえばナックの〈マイ・シャローナ〉は、じつは最後まで入れるかどうか悩んでいたんです。“80年代の音”というのもありますが、あまりに曲が強すぎて、他との並びが悪いかなと思って。また、60年代の曲も、流れや音色が違うので、結果的にという感じではありましたが外しました。もうひとつ、ノイジーなギターの入ったパワー・ポップ曲も、それらを入れると流れが変わるので外しました。最終的に、第1弾のディスク1は誰もが知っていて、皆さんが思い浮かべる曲になりました。ディスク2を近年の曲にしたのは、ビートルズの影響はここまで浸透しているということを提示したかったからです。第2弾では、ポップ・サイドとサイケ・サイドでうまく振り分けられたと思っています」
――第2弾には、本物の“ビートルズ・チルドレン”も入っていますね。
「諸刃の剣なので、ビビりながらやりました(笑)。クレイプール・レノン・デリリウムは僕が担当したこともあり、まずマネージャーに訊いてみようと。『Power To The Pop』というタイトルでビートルズの影響を受けた人を入れたいと伝えたら、ほかに誰が入っているか聞かれたので、デュークス〜やオアシス、レニー・クラヴィッツのほかに、ショーンが好きそうなアップルズ・イン・ステレオやケミカル・ブラザーズなどを伝えたら、すぐにOKがきました。それからですね、“子どもたち”をもっと入れてしまおうと思ったのは。ジュリアン・レノンは〈ヴァロッテ〉のイメージが強いけど、〈ソルトウォーター〉を何年ぶりかに聴いたら、“あ、こんなにいい曲があったなあ”と。ジェイムズ・マッカートニーは、とにかく弁護士が強力で……(笑)。僕が制作担当した『ザ・ブラックベリー・トレイン』(2016年)から選んだほうが話は早いし、〈トゥー・ハード〉という曲はダニー・ハリスンも参加しているので一石二鳥だとも思いましたが、せっかく作るなら『Me』(2013年)に入っている〈シンキング・アバウト・ロックン・ロール〉のほうがいいなと思って、そっちにしました。でも契約にこぎつけるまでがかなり大変で、最後は弁護士に納得してもらいましたが、返事がもう1日遅かったらマスターから抜くというギリギリの状況でした」
――こういうやりとりを伺っていても思いますが、白木さんは、昭和の洋楽ディレクターの精神を受け継いでいますよね。
「邦題もそうですが、昔は、日本独自のヒットをいかに作るのかというのが命題でした。そういうDNAが僕にも受け継がれているんでしょうね。『Power To The Pop』の2作は、ほんとはLPでも出したかったんですけどね(笑)」
――ビートルズへの愛情と熱意があればこそ、でもありますよね。
「すべてビートルズのおかげなんですよ。ビートルズへの恩返し。手間がかかることはわかっていたし、実際、この30年間、挫折の繰り返しでした。でも、自分で言うのもなんですが、ビートルズに対する思い、それしかないです。ほかの人だったら、途中であきらめてしまうと思います」
――交渉が面倒だから、マイ・テープでいいと(笑)。
「会社がよく許してくれてるなあとは思いますが、とてつもなく好きじゃないとできないでしょうね。CDとして出せる良さは、音圧が違う曲を、マスタリングで整えて聴けるところです。曲間も、こだわってポンポンいけるように編集しました。配信では味わえないところです。とくに曲順と曲間はすごく考えました。たとえば第2弾のディスク2は、最初の2曲は決めていて、3曲目にはポール・ウェラーの〈チェンジングマン〉を考えていたんです。でも、ディスク1がちょっと薄いかなと思ってジャムの〈スタート!〉に変えました」
――そして、第2弾に1曲ずつ収録されたセス・スワ―スキーとヴィニール・キングスの、日本独自のベスト盤も発売されました。
「セスは、Apple Musicか何かを聴いている時に偶然知ったんです。セスの〈ファー・アウェイ〉とレッド・バトゥンの2曲が流れてきてビートリーだなと思い、調べてみたら、ビートルズの関係者への取材をまとめたドキュメンタリー映画『ビートルズと私』(2011年)の監督と同一人物だった! と。しかもテイラー・デインの〈テル・イット・トゥ・マイ・ハート〉(87年)や、アル・グリーン、セリーヌ・ディオンなどにも曲を書いているソングライターでもあるのに、本人の曲は、それらとは曲調がまるで違う。それで、第2弾の制作時に直接やリとりをしている間に日本独自のアルバムはどうかという話になり、曲が届いたら、そこにレッド・バトゥンの音源も入っていて“これも僕のだよ”と言われてさらにびっくり。聴いたら初期のビートルズっぽくてそっちもいいので、中でも僕が一番好きな曲を入れたいと言ったら、こう返されました――“それは僕は書いていないんだよ。ポールのソロにジョンが書いた曲は入れないよね?”と」
セス・スワースキー
セス・スワースキー
――ビートルズ的ユーモア!(笑)
「それでセスの意向も反映させ、曲順も考えながら、新曲も交ぜて流れを考えて作りました。ジャケットも日本で作りましたが、エア・サプライの〈アフター・オール〉(85年)という曲を書いてゴールドディスクを日本からもらったという話をセスから聞いたので、“エア・サプライなら気球もありか?”ということで(笑)、カラフルな気球のジャケットにしました」
――ヴィニール・キングスについては、どんな流れで?
「前に誰かに紹介してもらったのかもしれませんが、いいなと思って調べていったら、ラリー・リーがいたバンドだと。80年代前半に、大先輩でもあるソニーの当時の担当ディレクターがラリーのアルバム『Don't Talk』を『ロンリー・フリーウェイ』という邦題でヒットさせようと思い、LPのジャケットを鈴木英人さんのイラスト変え、ジャケットに描いてある赤いアメ車を借りて全国のFM局を行脚してオンエアを稼いだ、という伝説があるんですよ。それを聞いていたので、あのラリー・リーだ! と。しかもバンド・メンバーは、ジョシュ・レオ(g)、ジム・フォトグロ(g)、ハリー・スティンソン(ds)、マイケル・ローズ(b)という、70年代の音楽シーンを作っていったスタジオ・ミュージシャンの集まりだったんです。彼らもまた『エド・サリヴァン・ショー』に衝撃を受けてミュージシャンを志した人たちで、ヴィニール・キングスは、ビートルズへの愛情と敬意を込めて作ったバンドだと。今回のベスト盤は、彼らの『A LITTLE TRIP』(2002年)と『TIME MACHINE』(2005年)の2枚のアルバムの全曲を収めたものですが、各々、ほかの仕事をしながらビートリーなバンド活動を続けていた、ということもわかりました」
ヴィニール・キングス
ヴィニール・キングス
――白木さんと一緒ですね(笑)。
「あ、たしかに(笑)。まあ、大ヒットはしなくとも、日本で初めて出せるわけだし、好きな人に届けばいいなと思ってこのベスト盤2枚も作りました。こういう作業は、日本の洋楽ディレクターの醍醐味でもありますね。僕自身、『Power To The Pop』の2作を含め、10年後に振り返ったらやれてすごく良かったと思うはずだけど、今は宣伝を頑張らないといけないから、まだまだ振り返るには早いって感じですかね」
――『Power To The Pop』の2枚をはじめ、“BeatleDNA”シリーズを聴いて、“こういうのがほしかったんだよ!”と思う人は、私の周りにもたくさんいますよ。
「それがいちばんうれしいんです。わかる人にわかってもらえば十分ですし、同じような気持ちを共有したいと思っています。今後も結局は同じようなテイストのアーティストはやっていくんでしょうね。ジェリーフィッシュの3人がいるリカリッシュ・カルテット(『Power To The Pop 2』にも1曲収録)の新作なども、やれるといいなあ、なんて思ってます」
取材・文/藤本国彦
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