ISEKIがプロデュースを務める音楽フェスティバル〈HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL〉が、2022年5月28日(土)と29日(日)に長野県白馬村にある標高1,289メートルの白馬岩岳マウンテンリゾート山頂エリア特設ステージで開催される。コロナ禍の2020年10月に初開催された同フェス。今年はスキマスイッチ、矢井田瞳、家入レオ、藤巻亮太など多数のアーティストが参加し、ほかにはない圧倒的な絶景空間のステージで最高の音楽体験を生み出す。そんな同フェスについて、ISEKIと、株式会社岩岳リゾート代表取締役社長の和田寛にZoomで話を訊いた。
ISEKI
――ISEKIさんは海のイメージが強いですが、どうして白馬で開催される音楽フェスのプロデュースを手がけることになったんでしょう?
ISEKI 「スキマスイッチの常田(真太郎)から相談があったんです。もともと常田は子どもの頃から白馬に縁があって、現地の仲間からイベントをやりたいと相談を受けたみたいで。“ISEKI、ちょっと相談乗ってくれないかな”と連絡をもらい、和田社長とお会いすることになりました」
――実際に白馬に行ったとき、どんな印象を持たれましたか?
ISEKI 「一目惚れですよね。1,289メートルある山頂から見た景色と空気に惚れ込みました。あと、和田社長含めて現地のスタッフはキャラが濃くて熱量がすごいんですけど、大好きなこの場所を盛り上げていきたいって気持ちが強くて。それが、僕が音霊 OTODAMA SEA STUDIOを立ち上げたときの気持ちとリンクしたんですよ。なので、どんな形であれやってみなきゃわからないのでやろう! と、みんなを巻き込みまくって開催に至ったんです」
――山頂でフェスをやるとなると、機材の搬入だったり、ステージの設置で苦労もあったんじゃないかと思います。そのあたりはいかがだったんでしょう。
和田 「機材の搬入はもちろん大変なんですけど、山頂から山麓まで道が通じているので、けっして無理ではなくて。スキー場の強みで、もともと人為的な手も多少入っている山なので、こういうフェスができる素地があるんです。一方で、山の上なので、非日常的な眺めを作れるというのが僕らの強みなのかなと思っています」
――第1回が開催された2020年10月は、コロナ禍で音楽に対しての風当たりがまだ強かった時期だったと思います。ダイジェスト動画でGAKU-MCさんが感慨深く話をされていたシーンがありますが、ISEKIさん自身はステージに立たれてどんなことを感じましたか。
VIDEO
ISEKI 「僕はイベントの企画業もやっているので、コロナ禍でアーティストも裏方も両方大打撃を受けているのを身に染みて感じていて。そんな中で、フェスに出演したアーティストが喜んでいる姿を見て、やってよかったなって心の底から思いましたね。お客さんが喜んでいる姿と、アーティストさんが喜んでいる姿、それを袖で見るスタッフの姿、その光景をしっかり心に留めておこうと思いました」
――今年は5月に開催されるわけですが、10月と景観も変わったりするんでしょうか。
和田 「じつは5月って、白馬がものすごく綺麗な時期なんですよ。見える山がまだ真っ白で。同時に、新緑が徐々に上がっていって、こんな量で見たことないなってぐらいのボリューム感の緑が見える。一般的な白馬村のスキー場では、5月いっぱい休んで、6月途中くらいから夏山へ切り替わる。お客さんは5月の白馬をあまり知らないんです。でも地元の人に訊くと、一年でいちばんいい時期って多くの人が言うんです。知らなかった人に5月の白馬を見てもらえたらなと思います」
――映像を見ていると、音楽以外にもこのフェスならではの特色が多くありそうですね。
和田 「山頂には、いろいろなアクティビティを用意していて。たとえば、音楽をやっている会場から100メートルくらい歩いたところには通常のブランコの2倍ほどの大きさの巨大ブランコ(ヤッホー!スウィング presented by にゃんこ大戦争)があるんです。あと、木こりのワークショップをやったり、白馬の絶景が見える
パン屋さん(THE CITY BAKERY) で休憩時間を楽しんでまた音楽を聴きに戻ってと、いろいろ楽しめるようになっています。今年はさらにマウンテンバイクとか乗馬とか、山の上ならではの遊びと音楽が一緒に楽しめるような仕掛けをいくつか考えていて。あとはステージ開始前にヨガをやったり。せっかくなので山の雰囲気を楽しめるアクティビティを作ろうと思っています」
ヤッホー!スウィング presented by にゃんこ大戦争
THE CITY BAKERY
――出演者は歌心があるアーティストが多いですよね。みなさんアコースティックな形でのライヴになるんでしょうか。
ISEKI 「1日目は弾き語り、もしくはアコースティックでの編成が裏のテーマにあって、2日目はバンド・セットで編成を組んでいます。バンドだけど、リズム隊にパーカッションを入れたり、ミニ・ドラムを入れてもらったり、この日ならではの演奏になると思います」
5月28日(土)・29日(日)に開催される〈HAKUBA ヤッホー! FESTIVAL〉の出演者。(左上から下へ)家入レオ、wacci、森恵、GAKU-MC、ISEKI、矢井田瞳、藤巻亮太、スキマスイッチ、さくらしめじ、ロザリーナ、大石昌良、武本健一、K
――ISEKIさんが3月にリリースされた「TORCH」のMVで、白馬チームの仲間が作られているヴァージョンがあります。これもフェスとの繋がりから生まれたのでしょうか。
ISEKI 「クラウドファンディングを2018年にやったんですけど、〈TORCH〉はそこでリターンとしてプレゼントする曲として作ったんです。その後、プレゼントしたお客さんが、ぜひ多くの方にこの曲を聴いてほしいと言ってくださって。この曲のプロデューサーであるシライシ紗トリさんと話しているときに、だったら2種類のMVを作って、ひとつは白馬で撮るのはどう? という話になり、和田さんに訊いたら、いいですね! ってノッてくれて。株式会社アルペンさん(本フェスの特別協賛企業)からもいろいろご協力いただき、いい出会いがあったことが大きいんです」
VIDEO
――今回のようにフェスのプロデュースもしているわけですが、ソロ・アーティストとしてのISEKIさんは現在、どのようなスタンスで音楽制作を行なっているんでしょう。
ISEKI 「キマグレンのときは作曲が僕、作詞がKUREI、プロデューサーが森田昌典さんという形で、3人でアイディアを出し合いながら作っていたんですけど、ソロになってからは得意なことを得意な人に任せて作品を作っていこうと考えていて。僕が曲を作らなくてもいいし、作詞をしなくてもいい。僕の売りはなんだろうと思ったときに、周りからも声質なんじゃないかと言ってもらえて。最終的にはISEKIという声を使って作品を作っていけたらと思うんです。〈TORCH〉に関しては、僕が作曲をして、矢作綾加さんが作詞、プロデューサーにシライシさんという形で、楽曲によって編成が変わっていくというか。次は誰々とやろうみたいな感じで、今も次の仕込みを少しずつしようかなと思っています」
――ほかのインタビューで、客観的な視点を持ちながら活動しているとお話されていましたが、アーティスト、プロデューサー、経営者としてのバランスをどのように取っているのでしょうか。
ISEKI 「ありがたいことにキマグレンでいろいろな賞をいただいたり、1位になったりした流れでソロになったんですけど、音楽だけでご飯を食べるのって難しいと気づいて。それまではキマグレンで稼いで、イベント企画もやっていたおかげで、普通にご飯は食べられたんですけど、音源制作にお金を使うと生活できなくなってしまう。かといってライヴだけしていたら、音源を作れない。そのジレンマにハマってしまった時期があって」
――ソロ活動のはじめは苦労が多かったんですね。
ISEKI 「音楽をやることを一回頭の中で消して、イベント企画とか社長業を本格的にやらなきゃダメだと思ったことがあったんです。そこを経て、ある程度自分でお金を作れるようになり、自分が本当に好きなものや、やりたいことってなんだろうって思ったときに、趣味でもいいから音楽をやりたいなと思った。本当に好きなものをちゃんとやりたいという中で、縁あってアルペンさんや白馬岩岳さんと組ませていただけることになって、音源も最高の形で出したい、というところに気持ちが向くようになったんです」
――そうした苦労もありながら、自分を客観視できるのはなぜなんでしょう。
ISEKI 「矢沢永吉さんじゃないですけど、アーティストのISEKIがべつの人格でいるんですよ。同じように経営者のISEKIっていうまったくべつの人格もある。経営者のISEKIとして、アーティストのISEKIの稼ぎはどうなんだ? とずっと思っていたんですけど、それは経営者のISEKIのモチベーションを高めるために必要なんだよねって意味づけを明確に捉えられるようになって。いまは、アーティストのISEKIをやる意味があるってところに落ち着いたんです。だから、ミュージシャンとしてはこれからかなって思っているんですよね」
――気が早いですが、今後も継続的にフェスは続けていく考えはありますか?
ISEKI 「僕はやりたいです! 社長はどうでしょう?」
和田 「もちろんやりたいです。定着していくことが重要なので。ISEKIさんともいい関係が続くといいなと思っています」
ISEKI 「命続くかぎり頑張ります」
取材・文/西澤裕郎