岡山県出身のシンガー・ソングライターおーたけ@じぇーむずを中心とした4人組、一寸先闇バンドが3曲入りEP『ルーズ』をリリースした。
2019年11月、おーたけのワンマン・ライヴ「一寸先、闇」でバックを務めた大山拓哉(ドラムス)、かくれみの(ピアノ)、山口竜生(シンセサイザー)という面々がそのままバンドとして活動することになったという。僕は恥ずかしながら初めて聴いたのだが、繊細かつ親しみやすい詞曲も、ファンクからフォークまで自由自在な音作りもとてもチャーミングで、一発で聴き惚れてしまった。ついでに言うとおーたけの弾き語りもバンドとはまた違う味があってすばらしいのだが、そちらはまた別の機会に。
というわけで楽しみにしていた初対面。おーたけと大山の2人に、『ルーズ』に収録した3曲を中心に話を聞いた。
――触れないほうが失礼なんじゃないかと思うぐらいインパクトのあるバンド名ですが、もともとはおーたけさんが2019年11月にやったワンマン・ライヴのタイトルだったんですね。
おーたけ「そうなんです。めちゃくちゃ準備の段階から楽しかったんで、そのあとの新年会で“毎週集まってたのに、急になくなるのやだな”って言って」
大山「そうだったっけ?」
おーたけ「大山くんはバンドが始まる前からサポートしてくれてて。2018年ぐらいから?」
大山「そうかな?そもそも彼女が岡山から東京に遠征してきたときに知り合ったんです」
おーたけ「“めっちゃ見た目好き!いいドラム叩いてるし!”と思って声をかけたんですけど、 “変なやつがいるな”と思われたらしくて(笑)。勢いでLINEを交換して、わたしが東京に来るタイミングでスタジオに入ったりしてたら、“こんなに東京来るんだったら上京してきたら?”みたいな」
大山「引っ張り出した張本人は僕だと思います(笑)。自分では背中を押したぐらいだと思ってるんですけど」
――2人にかくれみのさんと山口さんが加わった恰好ですね。
おーたけ「はい。2020年からバンドでガンガン活動していこう、って言ってたらコロナ禍になっちゃったんです。完全に出鼻をくじかれた形になったので、とりあえず制作をがんばって、ライヴは配信の機会をいただけたらそのときにやろう、みたいな。当初はあんまり有観客のライヴにポジティヴになれなくて、けっこうお断りしてたんですけど、みんな感染拡大しないように頑張ってるので、少しずつ引き受けるようになっていきました」
――このメンツでバンドをやろうと思ったのはなぜ?
おーたけ「ここの2人は前から一緒にやってましたし、鍵盤の2人も、かくれみのとはソロ同士で対バンしたことがあって前から仲がよかったし、竜生さんも友達の紹介で、もともと近しいところから集まったんで。話し始めたら止まらないし、練習じゃないときもずっと楽しかったんですよね」
大山「うん。そうだね」
おーたけ「そうです、そうです。正式にバンド名を決める前に、ワンマンの告知用に“一寸先闇バンド”って言葉を使ってたこともあって、その時点からバンドという意識があったのかなって思います」
――それまでバンドを組んだことは?
おーたけ「大学のとき本当に一瞬だけパンク・バンドをやったんですけど、絶対にわたしのギターの音が決まらないバンドで(笑)。そのときのメンバーにはいまだに申し訳ない思いでいっぱいなんですけど、バンドは一回やったし、本当に気の合う仲間と出会うまではソロでいいかなってずっと思ってました」
――大山さんは?
大山「僕はもともとバンドやってたんですけど、解散したんです。メンバーはみんな音楽やめちゃったんですけど、僕はどうしてもやめたくなくて、横のつながりでサポートの仕事をもらってやってました」
おーたけ「出会ったとき、“サポートでやってるんだ”って言うけど全然サポート感がなくて……」
大山「(笑)。付き合いの長いやつらと一緒にやってたことが多かったこともあるし、職業ミュージシャンみたいなことはできないんで」
おーたけ「メンバーっぽいというか、すごく親身に叩いてる印象がありました」
大山「つまんなそうに叩いてたら誘われなかったかもしれないですね」
おーたけ「もしつまんなそうにしてたら“顔かっこいいな”で終わってたかもしれない(笑)」
大山「そこまで言われたことないんだけど……気遣ってる?」
おーたけ「大山くんをインタビューに連れてきたことなかったんで、今日は緊張をほぐすために“かっこいい”って言ってるんです(笑)」
大山「僕、そんなにしゃべれないんですよ。曲も書いてないし」
おーたけ「でも、わたしが書いた曲を最初に聴いてもらってるのが大山くんなんですよ。ノリを決めてもらいたくて」
――作詞・作曲クレジットは應武可奈子になっていますが、ほかの3人はどんな役割を?
おーたけ「編曲ですね。あとは的確な意見を言ってくれる。今回は3曲ともわりと苦戦したんですけど、1曲めの〈ルーズ〉がとくに難産でした。OKが出るまで何時間スタジオ入っただろうっていうぐらい。泣き出しちゃったりして」
大山「よく泣くんですよ(笑)」
――ジャケットのは絵もおーたけさんが描いたそうですが、それで泣き顔なんですか?
おーたけ「ちょっと悔しい時期に書いた曲で、書きながら高まりすぎて泣き出しちゃったりしてたんです。曲がなかなか降りてこなくてつらかったのもあるし。全国流通だから気合い入れたほうがいいんじゃないかと思って描いてみました。詞曲以外にもできることがあればやりたいなって」
大山「パッと見、人間の顔だとわかんないんですよね。モチーフ絵みたいに見える。何が描いてあるのかわからんのも惹きつける要素になるかなって」
――「ルーズ」はどこに苦戦したんですか?
おーたけ「歌詞の元になるメモと鼻歌みたいなメロディは別々にいっぱいストックしてるんですけど、コード感がまず決まらないとそこがマッチングできないんですよ。今回はおしゃれにしたかったんですけど、おしゃれとは何ぞや、ってところまで立ち返ってしまって(笑)。ずっと悩んで、最終的にもうやだって思って書いたのが〈ルーズ〉です」
大山「僕はラフの音源を上げてきた直後から聴いて、どんなビートが合うか考えてました。自分はそれしかできないんで、理論的なことは音楽的な下地がしっかりしてるキーボードの2人に任せて」
おーたけ「ちょっとだけ訛ったようなドラムを叩きたい、っていう希望が以前からあったので、それに沿うようなメロが降ってこないかな?と思っていろいろ考えたりしました。Aメロから順番通りに作っていって、Bメロで終わりたいと思ってたんですけど、“もう一個盛り上げようよ”って言われてサビをつけました」
――Aメロから歌う順に作っていくんですね。
おーたけ「Aメロがキラーになってくれたほうが先まで聴き続けてくれるかなと思って。サビ始まりの曲はすごく多いですけど、それはわたしはあんまりやりたくないっていうか、自分のなかでちょっと違う気がしてて。サビだけ3分間ずっと歌ってるような曲よりも、ちゃんとしたドラマが作りたいって言ったら大げさですけど、段階をちゃんと踏みたいんです。急に“イェーイ!”ってサビが来たら、曲が終わっちゃうような気がして(笑)」
――歌詞も面白いです。
おーたけ「ありがとうございます!まわりに2種類の意見があるんですよ。“ミュージシャンはだらしないもの。やりたくなったらやればいいよ、って寄り添ってあげる気持ちで”って言う人と、“いや、仕事にしたいんだったらちゃんとしろよ”って言う人がいて、わたしはどっちかというと後者なんです。その立場から“堅いこと言わないで楽しくやろうぜ!”っていうミュージシャンのノリを眺めて解釈した感じです。あんまり強く言いすぎるとまた仲間に嫌われちゃうのかな、と思いながら、“とりあえず言いたいことだけ言わせてください!”って気持ちで書きました(笑)」
――歌詞にするぐらいでちょうどいいのかもしれませんね。
おーたけ「面と向かって言ったらライヴのオファーが激減しそうで(笑)。友達ノリのイベントもすごくグルーヴがあって、“みんな最高だぜ!”ってなれる瞬間はあるんです。ピリッとした仕事の現場も見てると“みんな最高だぜ!”のほうにどんどん寄りたくなっちゃうんですけど、それは幻として心に秘めておくぐらいが、わたしの場合はちょうどいいのかなって」
――根がまじめなんですね。
大山「まじめだと思います」
おーたけ「突然ぶっ壊れたりするらしいです。レコーディング前に歌詞を読み返して、わりと厳しいこと書いちゃったな、言いすぎてごめんね、みたいな気持ちになったりもしました。けっこう辛辣なんで、どうやって優しく受け止めるか工夫して、たとえばサビの“言うなよ”の2回目はちょっと優しめに歌ってるんですよ」
大山「らしい曲を持ってきたなと思いましたね。ポップなんですけど、ちょっと精神を病んでるのかな?って思うぐらい振り切ってる印象です(笑)」
――2曲めは「意外と静かな街」。僕はじつはこの3曲ではこれがいちばん好きです。
大山「うれしいです。いちばんドラムが難しかったので……」
おーたけ「鍵盤をちょっと歪ませてほしいって言ってて、いざ鳴らしてもらったらゲーム音楽みたいな音色で、いい感じになりました。これはあるイベントで“〈東京〉というタイトルで曲を書き下ろしてください”って言われて書き始めた曲なんです。“東京?はッ!(吐き捨てるように)”みたいな、来てはみたけどあんまり面白くなかったなっていう皮肉っぽい気分を込めていたので、ちょっとバカにしてるような音色が入ってくれて本当にありがとうって思いました」
――あのシンセは東京を小バカにした音色だったんですね(笑)。
おーたけ「最初は竜生さんのアイディアなので、“バカにしてる”は後付けですが……(笑)、怒られますかね?」
大山「そうだったんだ……」
おーたけ「少し前に渋谷の街頭ヴィジョンでMVが流れたんです。それで知ってくださる方が増えてうれしかったんですけど、爆音を鳴らして走ってる宣伝カーなんかがいると街の喧騒の一部になっちゃうなって思ったり、そもそも忙しそうに歩いてて目もくれない人も多かったりして」
――その光景が歌い出しの“流れている/音の方に/振り向いてる/人はいない”というフレーズになっているんですね。
おーたけ「そうです。憧れてたものとはちょっと違うな、っていう気持ちを書いた曲ですね。自分の作りたい感じにそのまま音が乗っかってくれてうれしかったです。メンバーにはちょっと難しい思いをさせてしまいましたけど」
――“意外と静かな街の/灯りの正体かもしれない”というフレーズがすてきです。
おーたけ「ありがとうございます……!これは匿名性のある不特定多数のことを言ってるんだと思います。じつはこの2行はiPhoneのメモ帳のうんと奥のほうに書いてあって、“なんてかっこいいこと書いてるんだ、わたし”って思って(笑)、すごくときめいたんです」
大山「自分の言葉にときめいたんだ」
おーたけ「書き溜めた歌詞のアイディアって、秘伝のタレみたいに見つけては編集して……っていうのを繰り返すから、いつのものかわかんなくなっちゃうんですけど、とにかく昔から“誰かはわからないけどそこに人がいる”みたいなイメージが頭にあったんだなと思いました」
――この曲に関しては大山さんはどういう印象がありますか?
大山「“切り裂いたろか”っていうぐらいの曲だと思います。ギターの音にも出てると思うんですけど」
おーたけ「実際、切り裂いたろかって思いました(笑)。弦が切れるぐらい強く弾いたんですよ」
――「ここがどこかになっていく」は、前の2曲とまた違って、つぶやきのような歌ですね。
おーたけ「〈意外と静かな街〉以上にひとりごとですね。〈ここがどこかになっていく〉というタイトルで何本もイベント制作をしてる方がいらして、そのうちのひとつとして一寸先闇バンドのワンマン・ライヴを2021年12月にやらせてもらったんですけど、その日のために書いた曲です。パンデミックはいつか終わる日が来るっていう、完全にコロナ禍の歌ですけど、何かを決意するときに背中を押すというか、普遍的に聴いてもらえる曲にしたいなと思って。けっこう思い出もからめてますね」
――コンビニに寄ってコーヒーを飲む1番なんて、思い出っぽいですね。
おーたけ「岡山にいたときに、ライヴが終わって歌い足りなくて朝まで路上ライヴして、なぜかわざわざ30分40分かけて遠回りしてコンビニに寄って歩いて帰るみたいなことをよくしてたんです。そういうときの気持ちが報われてほしいなと思って(笑)。“今日ノルマだけすげえ取られたし、飲み代もかかって大赤字なんですけど、どうしたらいいすかね?”みたいな。“ちょっと酔い醒ましたいんでコンビニ行きます”って入っていって、出てきてまた“どうしたらいいんすか!”(笑)って」
――田舎のコンビニって、闇の中でそこだけ異様に明るいですよね。
おーたけ「あ、そうか。〈意外と静かな街〉の“灯りの正体”ってたぶんコンビニだったのかも。急にパッと明るくなった瞬間、助かった!って思うんですよ」
大山「えー、そういう感覚なんだ」
おーたけ「目の前にオアシスが現れたみたいな。岡山の、とくにわたしの地元の方は街灯も少ないから完全に真っ暗だし、用水路やドブ川に柵がないところがいっぱいあって、普通に危険なところなんで、灯りがあると本当にホッとするんですよ」
――田舎の暗さって都会育ちの人にはわからないですよね。
おーたけ「自分の部屋で灯りを消すよりも暗いですからね(笑)」
大山「僕は東京なんでそれはわからんですね、たしかに」
――僕の田舎でも、酔っ払ったおっさんが千鳥足で帰宅中に用水路に転落して亡くなったりしていました。
おーたけ「そうですよね。マジで一寸先、闇なんですよ(笑)」
――この曲に関しては大山さんはどんな感慨がありますか?
大山「そもそも出会ったころの彼女はこういうフォークっぽい曲をやってたんですよ。ひさしぶりにこういう曲が出てきて、音数が少ないから正直(演奏が)苦手な曲ではあるんですけど、だんだんとやり慣れて得意になってきました。普通の8ビートなんですけど、フィルでシャッフルしてるんですよ。“これ、どっちなんだろ?”っていうリズムを叩いてみたかったんです。まだ完璧にできてるとは全然思いませんけど、やりがいがありますね」
――3曲ともそうかもしれませんが、ライヴで披露するほどに育っていきそうな曲ですね。
おーたけ「初期衝動のまんまレコーディングしたようなもので、伝えたい気持ちがそのまま乗っかってるんですけど、いまって聴いた方のコメントが見れるじゃないですか。そこでいろんな解釈を見て“たしかにそうかもしれない”ってその意見にどんどん寄っていくかもしれないし、ライヴのときのお客さんの表情とかでもアウトプットのし方が変わっていくような気はしますね」
――おーたけさんの曲って聴く人によっていろんな解釈ができそうなので、ライヴで育っていったり意味が変わっていったりする余地がすごくありますね。
大山「それはうれしいですね」
おーたけ「“絶対にこうだ”っていう100%の詞は乗っけないってなんとなく決めてるんです。全然違う受け止め方をされてもいいかなって思うし。たとえば〈ルーズ〉はミュージシャン界隈のことを歌ってるけど、もしかしたら恋愛の歌だと思われるかもしれないし。〈意外と静かな街〉にしても、都会の人が聴くか田舎の人が聴くかによっても全然違うだろうな、とは思います」
――ストーリーのすべてを語るんじゃなく、間をつまんでいくことで解釈の余地を用意するような感じですかね。
おーたけ「そうそう。桃が川を流れてきて鬼退治に行く、ぐらいしか書いてなくて、仲間はなんでもいいみたいな(笑)」
大山「僕は映画でも考える余地を与えてくれるラストが好きなんですよ。音楽もそうあってほしいです」
――このバンド名で得をしたことと損をしたことを教えてください。
おーたけ「面白がってくれる人は多いですね。それとはまったく逆に、聴かず嫌いじゃないですけど、名前からおどろおどろしいイメージを抱いちゃう人もいるみたいです(笑)」
――漢字ってバンド名に使うと印象が強いですからね。カタカナやアルファベットより画数が多いし。
おーたけ「得なのは、いろんなバンドがいるなかでめっちゃ目立つところです。ライヴ・イベントのフライヤーでも、サブスクのプレイリストでも見つけやすいみたいです。知り合いに“読み方がわかるバンドだから、って理由で聴いてみたらおーたけだった”って言われたことがあります(笑)」
大山「名前を間違える人、いまだにいるんですよ。“一寸先は闇バンド”とか」
おーたけ「この前は“一寸バンド”になってて面白かったです。そういう昔話があったなって(笑)。でも画数はめっちゃいいらしいです」
――画数(笑)。さっきサラッと桃太郎の喩えが出てきたのは、さすが岡山だなと思いました。
おーたけ「つい出ちゃいますね(笑)。駅のまわり桃太郎だらけですから、しっかり洗脳されてるんだと思います。もっと歴史的なモニュメントがいっぱいあるのに、桃太郎しかアピールしないんですよ、岡山県は。ゆるキャラも桃太郎と鬼の女の子だし。ももっち・うらっちっていって」
大山「でも、それは原典に忠実だね。鬼を退治した後、桃太郎は鬼の娘を連れ帰るんです。一族の仇な訳ですけど共に過ごすうちに好意が芽生える。最終的に鬼の娘は板挟みになって自決するんじゃなかったかな?」
――なんて切ないお話……。
おーたけ「岡山県民はまったく知らない話なんですよ(笑)。めっちゃ調べたらしくて、急に“桃太郎の話の続きなんだけどさ”って言い出してびっくりしました」
――おーたけさんは小学生のときにミュージカルをやっていらしたそうですね。同郷のさとうもかさんからも聞いたことがあって、もしかしたら岡山は子どもの芸事が盛んな土地柄なんじゃないかと。
おーたけ「市民ミュージカルとかが盛んで、わたしも何回か子役で出てたりしました。倉敷にチボリ公園っていうアンデルセンの童話をモチーフにした公園があったんですけど(2008年閉園)、そこが子役を公募してて、わたしは落ちたんですけど、妹がずっとそこで出演してたり」
――どうしてそういう土地柄なんですかね?
おーたけ「たぶん本当に何もないから(笑)。子どもの教育に熱心な親も多いんじゃないかな。うちの親も全然音楽とかかじってなかった人ですけど、ダンスを習わせてくれたり、いろんな習い事をやらせてくれました」
――Rose Oneさんも中学時代からフォーク喫茶みたいなところに出入りしておじいさんたちと歌っていたそうですし。
おーたけ「そういう子もけっこういます。わたしもおじいさんたちに混じってブルース・バーに入り浸ってたし。“チューニングちゃんとしろ”とか、叩かれまくってましたけど(笑)。愛ゆえの……といまは思えますけど、当時は悔しくて“絶対このじじいたちに勝つ!”みたいな気持ちで通い詰めてました。小学生からライヴハウスに出入りしてた子もザラで、音楽コミュニティ的なものがあったんですよ。小中高生バンドフェスティバルとかもありましたし」
――おーたけさんの曲を全部聴いたわけではありませんが、ジャズ・ファンクっぽいアーバンな曲調が多い気がします。
おーたけ「それは嵐かも……。ずっと下地にあったものが出てきたというか。ごめんなさい、嵐の話になるとずっとニコニコしちゃうんですけど(笑)」
大山「ヲタって呼ばれるぐらいの嵐好きなんですよ」
おーたけ「『花より男子』がきっかけで中学のときに好きになったんですけど、いつしか気がついたら、曲のヲタクみたいになってたんです。ほかのいろんな曲を聴くときにも比較対象になったりしますね。あとはUAとかEGO-WRAPPIN'とかT字路sとか、渋くてかっこいい音楽性で女性が強い主題を歌ってるのが好きでした」
――嵐もファンキーな曲が多いですもんね。
おーたけ「ファースト・アルバム(『ARASHI No. 1 (ICHIGOU) 〜嵐は嵐を呼ぶ〜』)とか聴くと、すごくロックなんですよね。世相を風刺したような曲があったりして」
――嵐スピリットがこの3曲にも生きている?
おーたけ「〈意外と静かな街〉は、『ARASHI No. 1』を聴いてコードを拾ってたときに“あ、見つけたかも”って」
大山「この人、いつも“本当にこれつながってるの?”みたいなところからインスピレーション受けて作ってるんですよ。聴き比べてもわからないぐらい」
おーたけ「初期の曲の多くがマイナー調で始まってることに気づいて、暗いコードを使ってるのにちゃんとポップにまとめてあることに感心したんです。コードを拾おうとしたときに、たぶん間違えて弾いたと思うんですけど、響きが気に入ってスタジオで披露したら“いいと思う”って言われたんで、そこから完成させました」
――とても聴き応えのある3曲だと思います。最後に2人からぜひ話しておきたいことはありますか?
おーたけ「いろいろ話しましたけど、このインタビューで言ったことを無視して(笑)、自分の頭のなかに浮かぶイメージに忠実に聴いてほしいですね、3曲とも。〈意外と静かな街〉を失恋の歌と思ってくれてもいいし、地方の人が聴いてキラキラした街を思い浮かべてくれてもいいし。〈ルーズ〉はわたしは怠け者の歌だって言いましたけど、負けたって意味かもしれないし。そのためにカタカナにしてるんです」
――あぁ、なるほど。looseとlose。
おーたけ「作者としての思いはもちろんありますけど、それに引っ張られないで独自に解釈してほしいです。勝手にパラパラ漫画みたいな動画を作ってくれてもいいですしね。〈知らんがな〉のときは“この曲をBGMに絵を描きました”って方がいらっしゃったりしたんで、二次創作もウェルカムです」
取材・文/高岡洋詞