ヴォーカルのYOKK-Oi率いるパンク・バンドのPETが、じつに約18年ぶりとなるニュー・アルバム『DANCE! DANCE! DANCE!』をリリースする。彼らは1998年に結成され、2009年にいったん解散するものの2015年から新たな顔ぶれで再始動しており、今回はその新体制での初のアルバムということになる。分厚くストロングなバンド・サウンドと開放感あふれるメロディのダンサブルな曲が並び、彼らの真骨頂といえるパーティ・ムードが貫かれた痛快作だ。メンバーのYOKK-Oi、FANTa-xxxx(g)、TATSUMI(g)、TORU(b)に話を聞いた。
――今回は約18年ぶりのセカンド・アルバムでありつつ、2015年に再始動してから約7年経っているので、“満を持して”という印象が強いんですが、それだけの時間が必要だったということでしょうか。
YOKK-Oi 「PETがひさびさに活動を再開したら、世の中サブスク一色になってきていたんで、発売の戦略も見えなかったというのがあったんです。新たに一からやろうという気持ちだったし。でも、もっとバンドに脂が乗ってきたら、絶対にアルバムを制作したいというのはありました。けっこう時間がかかりましたけどね」
――YOKK-Oiさん以外は全員再始動後に加入したメンバーで、とくにギターのFANTa-xxxxさんはまだ加入したばかりですね。
FANTa-xxxx 「そうです。PETは前から好きで、よく観に行ったりしていました」
TATSUMI 「彼はもともと別のバンドでベーシストでリーダーやってて。対バンでもよく会ったり」
YOKK-Oi 「前のギターが辞めてFANTa-xxxxが入るまでの期間、4人でやっていたんですよ。それもめちゃめちゃ脂が乗ってたんですけど、PETは5人で行きたいっていう謎のルールもあって。かっこええやつ入れたいって思って、FANTa-xxxxおったらええなって声をかけました」
――PETは初期からツイン・ギターの5人編成が続いていたので、そこにこだわったというのがあるのでしょうか。
YOKK-Oi 「こだわりっていうか、たんにギター2本のアンサンブルが好きってだけなんですけど、欲しいんですよね。PET独自のパンクを表現したいっていうか。5人っていう見栄えも好きですし」
FANTa-xxxx 「最初はめちゃくちゃとまどいましたけど(笑)、正解かどうかわからないまま自分なりに弾いて、ちょっとずつ楽しくなってきて。今は楽しいバンドだなって思うようになりましたね」
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――今回は『DANCE! DANCE! DANCE!』というタイトルどおり、パーティっぽいということとダンサブルということがコンセプトだったのでしょうか。
YOKK-Oi 「“踊れるもの”というのはすごく意識しました。パーティ・バンドって言っているんで、そこを出すということを、つねに考え続けてますね。そもそも自分が中学生の時に、パンク・バンドばかり集めたミックス・テープをずっと聴いてたんですけど、70年代のパンク、ニュー・ウェイヴ、ハードコアって踊れる曲ばっかりなんですよ。そのテープを擦り切れるほど聴いて、“こんなバンドをやりたい”って思ったのが、そもそもの始まりです。それでどんどんのめり込んでいって、人を踊らせるにはどうしたらいいかっていうのを研究しました。ただ、パーティしようぜってことは言っていますけど、それ以上の言葉でバンドを縛ろうとは思ってないんです。“パンクだからこうしなきゃ”じゃなくて“パンクだからもっと簡単やろ、踊ろうぜ”ってことを伝えたいですね」
――そういうYOKK-Oiさんのパンク観にほかのメンバーも共感しているということなのでしょうか。
FANTa-xxxx 「共感できますね。僕も音楽を始めたきっかけがパンクだったんですよ。80'sのジャパニーズ・アンダーグラウンドやニューウェーブの、たとえばザ・スターリンとかが好きで。そのへんはダンスにはつながらないんですけど、元来ベーシストというのもあって、ファンクなんかも好きなんです。だからダンスということに関しての抵抗はない。そういうところで共感はできますね」
TATSUMI 「僕はメタル系が好きで、パンクを通っていなかったんですけど、やっぱりパンクって覚えやすいので、メロディも耳に残るものがあって。それに、ライヴをやっていると、見ている人も巻き込めて、会場の雰囲気もすごく楽しくなる。年を重ねて、そういういい雰囲気になるのがパンクっていう認識に変わってきました。お客さんもみんなええ顔してて楽しいんですよ。昔よりもパンクが好きなぐらい」
TORU 「PETは周りからパンク・バンドって言われるんですけど、僕自身はパンク・バンドってあまり思ってないんです。パンクっていうより、パーティ・バンドっていうのがすごくしっくりくる。僕は音楽をやり始めたのが、高校生の時にオフスプリングとかバッド・レリジョンとかのコピー・バンドをやっていたのが最初だったんですけど、そこからメタル行ったりジャズ行ったりファンク行ったりして、たぶん自分の中で一番強いルーツってブラック・ミュージックなんです。それでPETの昔の曲を聴いてて、すごくいいなって思って、それを弾いているうちに“PETっぽい曲を作らないと、パンクっぽいベースを弾かないと”って思って、自由にできない時もあって。その時に“そんなん気にせんでええよ”って言われて。それでだんだん楽になっていきました」
YOKK-Oi 「昔からパンク・バンドを組むときはパンクスとは組まんとこっていうのがあったんですよ。そうなると、自分の中ではパンクから遠のいていく気がしたんです。“いやパンク知らなくてええよ、めっちゃかっこええやん、お前のベース”とか。メタル好きなやつのギターって、自然と音を追求する人多いでしょ。だから歪みのサウンドとか信用できるんです。全然パンクな音を出さんでもいいから、この曲弾いてくれっていったら、すごい化学反応が起きたり、予想もしていない曲になったりする。それがパンクやなって思うんですよね。そうやって作ってます」
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――アルバムは1曲目「KISS! KISS! KISS!」から6曲目の「SUNSHINE BABY」まで、ずっとテンションの高いアッパーな曲がどんどん続いていきます。その迫力がすごいですね。
YOKK-Oi 「(メンバーの)みんなが同じところを見だした気がするんです。もしかしたら俺のやりたいことが伝わって、みんなが表現方法を作ってきてくれて、同じところを見だしてくれたのかなって思ってます。それが音に出て、ライヴでも空気が変わってきているのもすごくわかりました。熱気も出てきたし。これは行動しなきゃってなって、アルバムを出したいと思ったんです。それが形にできたのがこの前半の流れなのかなと思いますね」
――メロディもすごく冴えていると思うんですけど、開放感にあふれたメロディが多いし、歌謡曲っぽい哀愁のメロディの曲もあるし、メロディの力をすごく感じるんですよね。そこに力を入れているように思えます。
YOKK-Oi 「昔から力は入れていたんですけど、今回とくに自分のしたかったことの軸が、自分でもすごくわかっていて、それが見えていました。メロディに迷いがないんですよね。だって俺これが好きだもん、みたいな。いらないことはまったく考えていない。だから、メロディ・ラインを考える時も全然力入れていないです。メンバーの演奏が始まって、まず適当に歌ってみて、その最初のやつでもう決まりっていうか。あとは細かいところを詰めるくらい。メロディは逆に簡単でした。もともと本来、自分の中にあるものが単純に出せたんです」
――ラストの「SING A SONG IN MY WORDS」はバラードですけど、泣きの入ったセンチメンタルなメロディで、こういう曲は今までのPETになくて、すごく新鮮だったんですよね。これはどうやってできたのでしょうか。
YOKK-Oi 「これはね、俺では作れなかった曲です。TATSUMIが最初に“メロコアっぽい曲やりたい”って言って持ってきた曲で、“バラードやってみない?”って言ってやり始めた曲。PETでどれだけのことがみんなに伝えられるかなって、それがこの曲で歌えるなと思って」
TATSUMI 「もともと速い曲やるつもりで書いたので、こんなふうになるとは思っていなかったんです(笑)。今までのPETになかったメロディなので、却下されるかなあと思いつつ、自分でもメロディが気に入っていたのでとりあえず聴いてもらったら、速いのじゃないなあってなって、今の感じになりました。バラードになった時に歌詞は日本語で歌ってほしいと思って、結果ばっちりハマったと思います」
YOKK-Oi 「しかも、最後ミックスする時にTORUがギリギリでピアノとストリングスをかましてきて。それもばっちりハマって、ほんと鳥肌立った」
――この「SING A SONG IN MY WORDS」の歌詞で“また世界のどこか、争いが始まる”という言葉が出てきたり、「DANCE AGAINST THE WAR」などはストレートに反戦の曲だと思いますし、今回はあちこちでメッセージ的な部分が出ていますね。そこは言わずにはいられない、みたいな感じだったのでしょうか。
YOKK-Oi 「そもそも言葉じゃないところでパンクに出会って、そこから始まった自分の音楽人生なんですけど、メッセージ性を強くするなってルールもないんです。素直に自分の中にあったものが、その時作品にできるチャンスがあるならば、それは入れる努力はしています。今回、戦争に関しては、絶対に歌いたかったんですね。最後の曲もどこかしこで戦争が起きていて、つらい現実があって、それを歌にしてみようと思って」
TORU 「たぶんライヴであんなにわちゃわちゃしてアホみたいに踊り狂っているのに、CD買って歌詞カード読んだら、意外とマジメなこと歌っているんやって思ってくれたら、それでいいかなと。ライヴのMCとかで熱く言うバンドではないんですけど」
YOKK-Oi 「戦争は本当にやめてほしいんですけどね。自分の大好きなエンタテインメントがそもそもできなくなるし」
――全体としては楽しんでほしいというのが一番だし、ライヴでも馬鹿騒ぎしてほしいけど、でも言いたいことはちゃんと言う、みたいなことでしょうか。
YOKK-Oi 「それがバックグラウンドっていうか、伝えたいことはアルバムにちりばめているということです。だから、パーティ・バンドだと思って聴いたら、想像していたのとはちょっと違うと思うんですよね。ちゃんとパンクなんですよ(笑)」
――そういう、楽しいだけじゃないという部分が今後は増えていくような気がします。
YOKK-Oi 「これからも素直にその時の気持ちを表現をしていきたいと思っているので、自分の変化とともに、言葉もまた変わってくると思います」
――個人的には、サウンドもメロディもすごくパワフルで、今までで一番いいアルバムだと思うんですけど、達成感や満足感はありますか。
YOKK-Oi 「自分でも過去一番の傑作だと思います。自分でもめちゃめちゃ聴いているんですよ。毎日聴いてる。よくぞこんなのできたなあと思います。今後の大きなエンジンになりますね。動かなくなってしまうまでやりたいので。それを今、このメンバーで作れたのが誇りに思います。最初、これができた時は、カスカスで、出し切ったみたいな感じだったんですけど、でももう次の構想が頭の中にどんどんめぐってきていて、次も早くやりたいですね」
――12月10日には先行リリース・パーティがありますけど、意気込みはどうですか。
YOKK-Oi 「今回、アルバム・リリースと、これからツアーをやっていくことにおいて、PETはまた成長して変わっていくと思うんです。そこを見てもらいたいし、まずはこの音源を聴いて、一緒に踊ってほしいです」
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取材・文/小山 守
PET【DANCE! DANCE! DANCE! TOUR】 2022年12月10日(土)東京 下北沢ReG(先行発売イベント)
2023年1月14日(土)東京 柴崎RATHOLE
2023年2月11日(土)神奈川 小田原 姿麗人
2023年2月12日(日)愛知 名古屋HUCK FINN
2023年2月26日(日)東京 渋谷CHELSEA HOTEL
2023年3月11日(土)大阪 心斎橋BRONZE
2023年3月12日(日)京都 音まかす
2023年4月21日(金)東京 新宿LOFT
2023年6月23日(金)東京 新宿LOFT(TOUR FINALワンマンパーティ)
※他日程も調整中。追加日程は
PETオフィシャルホームページ にて随時告知。