NHKドラマ『べっぴんさん』やミュージカル『黒執事』に出演するなど俳優としても活躍する松下優也が、2020年から新たなアーティスト名義“YOUYA”として活動。10月から「21世紀少年-21st Century Boy-」を皮切りに連続リリースをスタートさせ、11月16日に「スーサイド:) feat.向井太一」、11月30日に「スーサイド:) feat.向井太一 acoustic ver.」をリリース。世界標準のR&Bを目指し、グローバルに活躍するクリエイターと制作を行なうYOUYAにこの連続リリース作品について聞いた。
――YOUYA名義は、2020年にスタートしたアーティスト・プロジェクトということですが、どんなコンセプトで立ち上げたのでしょうか?
「世界基準の音楽とパフォーマンスを目指すことをコンセプトに、世界で通用するアーティストを目指して立ち上げました。もともと僕がやってきた音楽はR&Bが多く、自分のやりたい音楽もそれだったので、そこは変わらず、しかしより濃くやっていこうというプロジェクトです」
――英語表記でYOUYAなのは、海外マーケットも視野に入れてのことですか?
「それもありますけど、もう一つは俳優としての松下優也と、アーティストとしてのYOUYAを分けることで、自分の意識も切り替わるし、観てくださる人にも俳優とは別の活動であることをわかりやすくしようと思いました」
――役者としてミュージカルやドラマなどで活躍している今こそ、そのままの名前でやろうとは思わなかったのでしょうか?
「たしかに“YOUYAって誰?”となることもあるので、最近はもっと2つの名前をリンクさせて活動してもいいのかなとも思っています。でも始めた当初は名義を変えることは必要だったと思います。俳優が芸能活動をやる上でのツールとして音楽を使っているとは思われたくなかったし、そのスタンスでやるつもりもまったくなかったので。音楽は音楽で本気で勝負したかったんです。そこであえて松下優也とは別のYOUYAという名義を作りました。名義を分けたことで損をしている部分もあるかもしれないですけど、“YOUYA”という名義には、音楽を本気でやっていくという覚悟が込められているんです」
――10月から連続リリースを行なっています。まず10月26日にリリースされた「21世紀少年-21st Century Boy-」は、韓国ヒップホップ界の人気プロデューサー、GRAYのプロデュースによる楽曲です。どういったつながりだったのしょうか?
「僕のクリエイティヴは、作詞・作曲は基本的に僕ですけど、プロデュースやトラックなどサウンド面は韓国のアーティストから力を借りていることが多くて。昨年リリースした1st EP『OVERTURE』も、全曲AVINという韓国のプロデューサーにサウンド・プロデュースしていただきました。今回もレーベルの繋がりでGRAYとも知り合ったんです。ただコロナ禍での制作だったので、じつはGRAYとはまだ直接会ったことがなくて。データのやりとりで、GRAYが持っている曲をたくさん聴かせてもらって、その中から曲を選ばせていただきました」
――「21世紀少年-21st Century Boy-」は非常に浮遊感があってベースが効いた、チル感もあるトラックです。どのへんが気に入ったのですか?
「フィーリングです(笑)。単純にトラックを聴かせてもらった時に、メロディがすぐ浮かんだり、歌詞で自分が書きたいことに合っていたり、その時の感覚です」
――作詞はYOUYAさん自身ですが、どんなことをテーマに作詞を?
「僕は1990年生まれで、18歳でデビューしたので芸歴は15年ほどになりますが、とりあえず一周して、いろんなことを経験して“今”に至った感じなんです。その中で自分が書きたいこと、思うことを、素直に書きました。自分の曲ではあるけど、自分と同世代の人たちが共感してくれる曲になったんじゃないかと思います。若さだけの勢いでもなく、だからといって言って炎はまだ消えていない、みたいな」
――タイトルを「21世紀少年 -21st Century Boy-」にしたのは?
「リリックの中に“俺はまだ夢見てる大人気ない少年”というフレーズがあるんですけど、夢を抱いた時の自分が大人になった今もまだ心の内に存在していてもいいんじゃないか?という問いかけでもあります。ただ、僕が生まれたのは1990年なので20世紀なんですけど、音楽という夢を志して音楽を始めたのが2000年代初頭、つまり21世紀になってからだったので、こういうタイトルを付けました」
――ジャケットのイラストが昭和のアニメのようなテイストで、この雰囲気も相まって、エモさが高まりますね。
「ありがとうございます。まさに“エモさ”みたいなものは目指したところで、GRAYのトラックもエモかったし、歌い方もリリックもメロディ・ラインもエモくしたいというのがありました」
――ラップっぽいメロディはどんなふうに生まれたのですか?
「メロラップですよね。GRAYのトラックを聴きながら、鼻歌でどんどんできていきました。日本語でも英語でもない、宇宙語みたいな感じで(笑)。まずは流れを作って、そこに意味のある言葉をハメていきました」
――語感や聴き心地を大事にされているということでしょうか。
「そこはすごく大事にしています。いくら歌詞でいいことを言っていても、聴き心地がよくないと音楽として成立しづらいと思うので、ラップのフロウとか歌詞で韻を踏むとか、聴こえ方はとても意識しています」
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――11月16日には、「スーサイド:) feat.向井太一」がリリースされました。まずタイトルのインパクトが大きいです。
「これも韓国のプロデューサーのAVINに作ってもらったトラックがベースにあります。〈スーサイド:)〉は、鼻歌で歌っていたらフックの歌詞がすぐに出てきたんです。“いらへんわ”という関西弁のフックが。自分は関西出身というアイデンティティもあるし、関西弁のほうが語感もいいなと思って。そのフックの最後に“てかお前がいなきゃスーサイド”と歌っていたので、そこからタイトルを〈スーサイド:)〉と付けました。めっちゃシンプルで、どストレートなところがいいなと思ってます。それに〈スーサイド〉と単体で聞いた時のギャップも含めて、いい塩梅じゃないかと」
――「スーサイド:)」は自殺という意味なので、パッと見るとネガティヴなものを想像させますが、歌詞を読むとそれくらいお前のことが好きなんだよという、純粋さや一途さが感じられます。それにカタカナにして、絵文字の笑顔マーク「:)」を付けることで、緩和させていて。
「まさしく、そういうことです!全部狙いました」
――最初にトラックを聴いた時の印象は?
「〈21世紀少年〉と同じようにエモさを感じたので、この曲もエモい歌詞にしたいと思いました。最近は何かを作る時、エモさはかならずある感情です」
――YOUYAさんが思う、“エモい”とはどういうことですか?
「明確な意味はなくて、使う人それぞれの中にあるものだと思います。90年代のことを知らない世代でも、90年代の何かを見た時に“エモい”って言う感じ。自分が10代の頃に流行ったファッションや音楽は未だに好きで、それを振り返った時、それもそれでエモいと思うし。何かフワッとしたカテゴライズというか、きっと香りみたいな目には見えないものなのかなと思います。ノスタルジックなものに対して、懐かしいと同時に感傷的な気持ちになるエモさもありますし、単純にパフォーマンスとしてのエモーショナルなものに対してのエモさもあります。後者のエモさは、〈スーサイド:)〉も〈21世紀少年〉も、レコーディングの時にすごく意識しました」
――この曲では、向井太一さんがゲストで参加しています。向井さんとはどういったつながりですか?
「2月に横浜、3月に大阪で、〈Billboard Live Tour 2022〉を行なったのですが、サウンド・ディレクターとして関わってくれたルンヒャンという女性アーティストが、もともと向井太一くんと仲が良くて、そのつながりで向井君がライヴを観に来てくれたのが初対面です。向井君のことはもちろん以前から知っていたし、向井君も松下優也の時から僕のことを知ってくれていて。そんなこんなで交流が始まり、向井君のラジオ番組にゲストで呼んでもらった時に、“いつか一緒に曲をやりたいね”って話で盛り上がって、そこから動き始めました。それで〈スーサイド:)〉ができた時、向井君とやったらよさそうだなと思って声をかけさせていただきました」
――同世代の同業者と制作をすると、すごく刺激を受けそうですね。
「刺激も受けますし、うれしかったです。ソロ・アーティストって孤独だし、日本のR&B男性シンガーは少なくて、しかも同世代で戦ってきた者同士ということで、そこでシンパシーを感じ合えることが、うれしかったです」
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――また11月30日には、「スーサイド:) feat.向井太一 acoustic ver.」をリリース。ピアノ一本をバックに歌っていて、ソウルフルなヴォーカルがより引き立つ音源になりましたね。
「そうですね。“歌力”みたいなものがあるんですけど、それが音楽として成立しているのか、歌として成立しているのか、共存させるバランスが難しいんです。歌に寄りすぎると今やりたい音楽とは違う。でも歌としてのよさは残したい。そういう葛藤が常にあって。僕はエモい部分だったり歌に対するリズムのアプローチだったりも、歌力の一つだと思っていて。僕も向井君もソロR&Bシンガーだからこそ、それぞれの持つ歌力をアコースティックで聴かせたいと思いました」
――アコースティック・ヴァージョンは、歌も録り直したのですか?
「このために録りました。アコースティック・ヴァージョンではトップラインを少し変えてリフも付け加えて、オリジナルとは違った作りになっています。そういうのってR&Bの醍醐味。日本の歌って音源どおりに歌うことが正しいとされるけど、R&Bのトラックは基本ループだから、アドリブを加えたり、そこでどう遊ぶかという文化があるんです。だからそういう部分にはこだわって、その場のエモさを意識しました」
――YOUYAさんが一緒に制作をされているアーティストは、BTSとかTWICEなど世界的に人気のK-POPとはちょっと違うものですよね。
「K-POPとは別に、K-ヒップホップとかK-R&Bと呼ばれるような、コアなシーンがあるんです。AOMGとかH1GHR MUSIC RECORDのラッパーとか。日本だとどうしてもメジャーかアンダーグラウンドかに分かれてしまうけど、その両方を上手く行き来できるアーティストがもっと増えたらいいなって思っています」
――YOUYAさんは、日本のメジャー・シーンで活動してきた経験があるからこそ、そういう韓国のシーンやメジャーとアンダーグラウンドを行き来するアーティストのよさがわかるんでしょうね。
「自分は日本人であることに誇りを持っているから、その部分は出していきたいけど、サウンド面ではJ-POPに止まりたくはないと思っています。どこかの国の人が僕の音楽を聴いて、言語がわからなくてもノレる音楽を作っていきたいんです」
――12月12日からは、ライヴ&ファン・ミーティング・ツアー〈YOUYA 21世紀少年TOUR 2022-LIVE & FAN MEETING-〉を開催します。どんな内容になりそうですか?
「そもそもYOUYAとしてのワンマン・ライヴは、1st EP『OVERTURE』を出した時と、舞浜でやった1回、そして今年Billboardでの2回だけなんです。福岡に行くのもYOUYAとしては初めてですし、大阪もYOUYAとしてワンマンをやるのはBillboard以来です。曲数も増えたし、以前よりもワンマンらしいワンマンができるんじゃないかと思います。あと、新たな試みとして、全会場2デイズで1日目にライヴ、2日目にファンミをやらせていただきます。僕のMC、めっちゃ長いんです(笑)。昔はアンコールのMCだけで、ライヴの尺が延びてしまったことがしょっちゅうあって。だったら、ライヴとしゃべることを分けて、それぞれの内容を濃くしたほうがより楽しんでもらえるんじゃないかと。それにコロナになってからYOUYAの活動が始動したので、制作ばかりでファンに向けた活動はほとんどできていなかったので、ライヴはライヴでがんばりますし、ファンミも楽しみたいです」
――ちなみに俳優業との両輪で忙しい中で、オフの日は何を?
「何もせずのんびり過ごしますね。でも結局、仕事のことを考えちゃうんですけど。自分の場合は少し忙しいくらいのほうがちょうどいいんです。動いているほうが、頭が冴えているから、忙しい時ほどアイディアが沸くんです」
――俳優業とアーティスト業は、お互いの気分転換になったりするんですか?
「それはめちゃくちゃあります。今の自分は、俳優の松下優也とアーティストのYOUYAという、2つの側面があるからこそ成り立っていて、今がすごくちょうどいいバランスです。どっちかに集中したほうがいいと言う人もいますけど、自分としてはそれぞれが影響を与え合って、その相乗効果でどんどんよくなっていっている感じがあるんです」
――では最後に、今後のビジョンを教えてください。
「今は韓国の方とたくさん曲作りさせていただいていますが、自分はまだ韓国に行ったことがないので、いつか直接顔を合わせて曲作りをしたいです。それに向井太一君とのコラボもすごく楽しく実りが多かったので、国内外問わずフィーチャリングももっとやっていきたいです。フェスやイベントにも出たいし、韓国でのライヴもやってみたいです。何なら韓国語の歌詞も歌ってみたいです」
――韓国語を話せるんですか?
「今はまだサランヘヨしかわかりません(笑)。勉強します(笑)」
取材•文/榑林史章
〈OTRN -OSAKA-〉(イベント出演) 2022年10月31日(月)大阪 Zepp Osaka Bayside 出演:ASH ISLAND、BE’O、ちゃんみな、向井太一、YOUYA、RIEHATA with Rht.、HIYADAM、Kvi Baba 〈YOUYA 21世紀少年TOUR 2022-LIVE & FAN MEETING-〉 大阪 Umeda TRAD -LIVE- 2022年12月12日(月) 開場 18:00 / 開演 18:30 -FAN MEETING(OFFICIAL “UCHIAGE”)- 2022年12月13日(火) 開場 18:30 / 開演 19:00 福岡 Drum Be-1 -LIVE- 2022年12月14日(水) 開場 18:00 / 開演 18:30 -FAN MEETING(OFFICIAL “UCHIAGE”)- 2022年12月15日(木)開場 18:30 / 開演 19:00 東京 WWWX -LIVE- 2022年12月21日(水) 開場 18:00 / 開演 18:30 -FAN MEETING(OFFICIAL “UCHIAGE”)- 2022年12月22日(木)開場 18:30 / 開演 19:00