TANAKA ALICEがニュー・アルバム『東京女神』をリリースする。2013年、15歳のときにシングル「MAKE ME ALRIGHT」でデビュー。USヒップホップ・シーンとシームレスにつながる音楽性、センスと個性を併せ持ったラップ/ヴォーカル、そして、キュートなポップ性と凛としたカッコよさを同時に放つ存在感によって、“東京発のフィーメール・ラッパー”として高い支持を得てきた。GIORGIO 13 CANCEMIのプロデュースのもと、約5年の制作期間を経て届けられた本作『東京女神』は、トラック・メイク、リリック、アティチュードを含め、さらなる進化を遂げた彼女のスタイルが反映されている。2023年の日本のヒップホップにおける、最初の傑作だと言っていいだろう。
New Album
TANAKA ALICE 東京女神 (ATLASMUSIC ENTERTAINMENT/ Village Again Association・VATL-0008/通常盤) ※2023年2月1日発売
New Album
TANAKA ALICE
東京女神
(ATLASMUSIC ENTERTAINMENT/ Village Again Association・VATL-0007/限定盤) ※限定盤はAtlasmusic Official Shop のみで販売。 ※2023年2月1日発売
――ニュー・アルバム『東京女神』、めちゃくちゃカッコいいヒップホップ・アルバムですね!
「ありがとうございます。5年かけて作ってきて、キープしておいた楽曲だったり、新たに作った曲もあるんですけど、2023年にデビュー10年目を迎えるのもあり、とにかく最高傑作にしたかったんです。“これがTANAKA ALICEです”というアルバムになりました。配信シングルも入っているんですが、今回は敢えてこれまでのアルバムに入っていたPOPな歌楽曲は入れずに、ほぼ新曲で揃えました。アルバム全体の流れもすごく考えたんです。前半がラップの楽曲、真ん中にラップと歌が混ざった曲があって、後半は歌がメインの曲を入れています。たくさんの候補曲の中から厳選して、完璧なアルバムになったと思っていますし、今はストリーミングで曲単位で聴かれることが多いですけど、ぜひアルバムを最初から最後まで流れで楽しんでほしいですね」
――この5年間の創作活動の集大成だと。
「そうですね。数年前に制作したものをブラッシュアップした曲もあるし、作った当時のよさを活かした部分もあります。たとえば〈Atlas Beaz〉は7〜8年前に作った曲なんですけど、自分たちのなかで“完璧な曲だ”という思いがあって、だからこそいつ出そうか迷っていたんです。このタイミングでようやくリリースできて嬉しいです。ポップでキュートなところもありつつ、かっこよくて生意気な感じもあって、まさに“私”という感じの曲です。歌詞には学生だった頃に書いたフレーズも入っていて、以前から私の曲を聴いてくれている方は“懐かしい”と感じるかもしれないです」
――和のテイストを取り入れた「ハエタタキ」も強烈ですね。
「和のテイストは、アレンジを進める段階で加えたんです。3枚目のアルバムに入っている〈PARTY LIKE U〉のMVも和の世界観だったんですけど、毎回アルバムを作る際は、どこかしらに和のテイストを入れることを意識しています。トラックだったり、歌詞だったり、衣裳だったりMVだったり。今回も日本っぽさを取り入れた楽曲を収録したくて。歌詞の内容は“成敗ソング”ですね。そう言うと闇を感じるかもしれないけど(笑)、ビートがかっこいいし、サビのフレーズはマネしやすいと思うので、自由に楽しんでほしいです」
――“ああ明日がある。/どこか孤独なの。/あなたが今/いてくれたなら”という歌詞が印象的な「See You Again」など、アルバムの後半には切実なメッセージを込めた楽曲を収録しています。
「この2〜3年はコロナ禍でみんなきつかったと思うんですよ。音楽業界も本当に大変だったし、もちろん私も思うような活動が全然できなくて。でも動き始めたタイミングで、大変な時期を経験したからこそ作れるものがあると気づいたんです。アルバムの後半は、自分自身の体験や思いがもとになった曲が多くて。聴いている方にもきっと共感してもらえる部分があると思うし、じっくり向き合っていただけたらと思います」
――なるほど。それにしても今回のアルバムは、ビート、サウンドが多彩ですよね。
「これまでのアルバムもバラエティに富んでいたんですけど、このアルバムはとくに豊富かもしれないです。基本的にはヒップホップなんですけど、音感やビート感も本当に違っていて。ポップさを押し出した曲から強い曲まで、いろんなサウンドを楽しんでもらえると思います。たとえば、さきほど話に出た〈Atlas Beaz〉は、あるクラシックの曲の一部を使っていて。小さい頃にバレエをやっていて、クラシック音楽になじみがあったので、いつかヒップホップとミックスしたいと思っていたんです。トラックによって、歌い方やラップの仕方も少しずつ変わってきています」
――ラップ、歌の表現力もさらに向上していると思います。
「表現力という意味では確かに変わってきていると思います。ティーンの頃はまだ経験が少なかったけど、成長していくなかでいろんな感情を味わったし、それを曲の色として乗せられるようになってきました。ラップに関しては、プロデューサーのGIORGIOさんに鍛えられたところもあります(笑)。でもリリックと同じで、基本的には最近録っているんですけど、あえて以前のテイクをそのまま使ってるパートもあるんですよ。昔の声と今の声が混ざってるのも面白いかなと思って。それに、今回のアルバムは日本語のリリックを増やしているんですけど、英語のように聴こえつつ、しっかり日本語のラップで意味を伝えるように意識しました」
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――『東京女神』というアルバム・タイトルについては?
「アルバムの完成が見えてきたタイミングで決めました。これまでのアルバムのタイトルにも“TOKYO”が入っていたので、今回も入れたいなと思っていて。東京で生まれ育ってきて、いろんなことを経験して、それが歌詞にも影響していて、東京がTANAKA ALICEを作ったという気持ちもありますし、海外のリスナーの方に“東京のラッパーと言えば、ALICEだよね”と思ってもらえるようになりたい。むしろ勝手に“東京代表”だと思ってます(笑)」
――「Still Alice」も、まさに“これが自分だ”という楽曲です。生き方を自分で決める、自立した女性像がダイレクトに伝わってきます。
「かなり自分自身の感情を押し出してますね。10代でデビューして、いろんな人と出会って、いろんな経験をして、納得いかないこともあったし、悔しい思いをすることもあったんですけど、だからこそ今の自分があると思っています。そういうことを含め、今の自分を表現している曲。たぶんリスナーのみなさんのなかにも、同じような経験をしている方もいるはずで、それを代弁している感じもあります」
――リアルな経験に裏打ちされたアルバムなんですね。
「もちろんそういう部分もあると思いますが、私としては、まずはサウンドやビートを楽しんでほしい気持ちもあります。ポップな曲から激しい曲までいろんなテイストがあるし、体を揺らして聴ける曲もあります。MVもすごいですよ。〈Country Girl〉はウエスタン映画の一コマを観ているかのような作品ですし、〈Atlas Beaz〉は東京の有名スポットで色んな衣装を着て颯爽とウォーキングしているポップな作品で、どれもワクワクしてもらえるような仕上がりになっています。日本だけではなく、海外の方にも届けたいので、楽曲と合わせて映像はすごく大事なんです」
――『東京女神』を作り上げたことで、この先の活動ヴィジョンも広がったのでは?
「まずはこのアルバムをたくさんの方に届けたいです。もちろんライヴもやりたいし、フェスに出たり、海外での公演もやりたい。それが次のヒストリーにつながっていくだろうし、みなさんもこのジャーニーを一緒に楽しんでほしいです」
取材・文/森 朋之