3ピース・ガールズ・バンド、THE LET'S GO's。2006年の結成以来、パンク、ロックンロール、ガレージ、オールディーズなどをルーツにした音楽性、精力的なライヴ活動によってライヴハウス・シーンにおける強い支持を獲得してきた。現在は、オリジナル・メンバーのCOCO(vo,g)、2018年に加入したマリコ・マリコ(vo,ds)、そして2022年に新たに加わったMANAMI(vo,b)のラインナップで活動中。「今がいちばん、やりたいことができています」(COCO)という言葉通り、バンド結成17年目にしてもっとも充実した時期を迎えている。
この春には7インチ・シングル「チャック・ベリーでおやすみなさい/フロンティア」、そして、シングル「Let's A Go-Go!」とライヴDVD『KILL BY POP Tour Final“イキル・バイ・ポップ”』をコンパイルしたアイテムをリリース。「ガールズ・バンドのシーンを引っ張っていきたい」(マリコ・マリコ)という彼女たちにバンドの“今”について話を聞いた。
New EP
THE LET'S GO's
『チャック・ベリーでおやすみなさい/フロンティア』
(SGRA-001)
※7inch
――THE LET'S GO'sの音楽には、オーセンティックなパンク、ロックンロール、ガレージが強く反映されていて。まずはみなさんの音楽的なルーツを教えてもらえますか?
COCO「パンクの入り口は千秋さんだったと思います。千秋さんが編み物の本(『千秋の手作り教科書―家庭科 』(祥伝社ムック)を出して、そこにセックス・ピストルズみたいなセーターの編み方が載っていて、お母さんに作ってもらったんです。そこからセックス・ピストルズに興味を持って、たまたまクラスメイトの男の子がCDを持ってたから貸してもらって。椎名林檎さんも好きだったんですけど、(〈ここでキスして。〉の)歌詞に“シド・ヴィシャス”が出てきて、自分の興味が点と点でつながったというか。そのあたりからパンク、ガレージ系、ネオロカビリーを聴き始めました。あと、父親がオールディーズ好きで、小さい頃から車で聴いてたんですよね」
――COCOさんのルーツ、すべて楽曲に出てますね!マリコ・マリコさん、MANAMIさんは?
マリコ・マリコ「私は歌謡曲とかウルフルズが最初です。トータス松本さんはサム・クックが好きだって知って、70年代のソウル、ブラック・ミュージックを聴くようになって。それと並行して、軽音楽部のイケてる女の子が聴いてたザ50回転ズをすごい好きになったんですよ。〈Thank You For RAMONES〉という曲でラモーンズを知って、パンクやロックンロールにハマって。19歳のときに“ロッケンロー・サミット”っていうロック・フェスでSAを観たのも大きかったです。“自分でバンドをやるなら、こういう熱いパンクをやりたい”と思いました」
MANAMI「洗濯洗剤のCMでMONGOL800の曲を聴いたのが、バンドに興味を持ったきっかけです。そのあと、STANCE PUNKSやSAのライヴを観て、自分もバンドをやろうと決めました。マリちゃんと同じように、好きなバンドの人たちが好きなバンドを調べたり、メンバーのみなさんが着ているTシャツのバンドも聴くようになって、ラモーンズやクラッシュも知って」
――なるほど。THE LET'S GO'sは結成当初、どんなバンドを目指してたんですか?
COCO「ガレージバンド界隈に入りたかったんですけど、自分がそのなかに入ってる感じはまったくなくて。ずっと憧れているような状態でした。もともと社交的でもないし、人見知りなので、友達ができるスピードがすごく遅いですし(笑)。あと、自分が作る曲もポップになりすぎるところがあって。どうしたらいいんだろうなっていうのは、ずっと考えていました」
――ポップな曲を作れるというのは、まちがいなく才能だと思いますけどね。2018年にマリコ・マリコさん、昨年にMANAMIさんが加入。現在のラインナップになって1年経ちますが、ここまでの手ごたえはどうですか?
COCO「今はいちばんやりたいことができていると思います。その理由はやっぱりメンバーです。これまでのメンバーがよくなかったわけじゃないけど、私が作る音楽をとにかく気に入ってくれるし、私のセンスを信じて、“一緒に良くしていこう”って盛り上げてくれるので」
マリコ・マリコ「私もMANAMIちゃんもTHE LET'S GO'sが好きでバンドに入ったんですよ。いろんなガールズ・バンドがいるけど、お客さんとしてライヴを観ていたころから“パンクで尖ってて、イケてるのはTHE LET'S GO'sだよね”という感じだったので」
MANAMI「THE LET'S GO'sを最初に知ったのは、前にやってたバンドで一緒にツアーを回ったときなんです。メロディも歌詞も演奏もすごくいいなと思っていたし、加入することになったときはすごくうれしくて。まだ1年ちょっとですけど、もっとなじみたいです(笑)」
COCO「“最初からメンバーみたい”って自分たちも思ったし、周りの人からも言われたんですよ」
MANAMI「すごく伸び伸びやってます(笑)。今までいくつもバンドをやってきたなかで、私自身が好きな音楽にいちばん近いというか。もともと好きなバンドなので、これまでの曲も楽しく演奏できてます」
COCO「MANAMIちゃんの8ビートのダウンピッキングがめちゃくちゃかっこよくて。それさえやってくれたらいい!って感じです(笑)」
マリコ・マリコ「もっといろんなベースを弾いてくれてるじゃん」
MANAMI「(笑)」
――2022年9月には、現在の体制になって初のアルバム『KILL BY POP』をリリース。タイトル通り、ポップな側面が打ち出された作品ですね。
COCO「最初から意識していたわけではなくて、曲が集まってみたら全部ポップだったというほうが近いですね。今思うと、私の気持ちがポップだったのかもしれないです。MANAMIちゃんが入る前の1年くらいは、(COCO、マリコ・マリコの)2人だけでベースなしで活動していたので、やれることが限られていて。その前のベーシストは初心者で入ったので、あまり複雑なラインは弾けなかったんです。ポップな曲はベースが肝になってくるから、その頃もあまりやれなくて」
――数年間、ポップな曲がやりづらい状況だったと。
COCO「そうなんです。なのでこの3人になって、ポップな曲がどんどんできたのかなと思います」
マリコ・マリコ「レコーディン中からすごく手ごたえがありました。アルバムはパンクロック専門誌『Bollocks』が作ったレーベル(SNIFFIN' GLUE RECORDS)から出たんですけど、こういう曲をパンクのレーベルから出せるのもすごいなって。“これが私たちのパンクです”って言えるのがめちゃくちゃうれしかったんですよね」
MANAMI「パンクってけっこう型にハメられやすい気がしていて。型にハマらないのがパンクだし、それがしっかり出せたアルバムだと思います」
COCO「ラモーンズの『ロックンロール・ハイスクール』という映画が好きなですけど、“主人公のリフ・ランデル(P・J・ソールズ)がもしバンドをやったら”というイメージもあって。そういう気持ちやイメージはずっと大事にしていきたいです」
――そしてこの春はリリースが続きます。まずは7インチ・シングル「チャック・ベリーでおやすみなさい/フロンティア」。
COCO「〈チャック・ベリーでおやすみなさい〉は、レコードで聴きたくなるのはもちろんですけど、DJの方にもクラブとかで流してほしくて。キラー・チューンになる曲を意識してました。あと、シンプルなスリー・コードのロックンロールをしばらくやってなかったから、久々にやりたいなというのもありましたね。“チャック・ベリー”については、その頃によく聴いていた英語の曲に“ダサいバンドがチャック・ベリーを演奏してるから家に一人でいた方がマシだわ”というようなことを歌ってて。そこからイメージが湧きました」
――失恋をテーマにしたせつない歌詞ですよね。
COCO「これは友達の実話をベースにしていて……」
マリコ・マリコ「私のことです」
COCO・MANAMI「ハハハハ!」
マリコ・マリコ「スタジオに行く直前に彼氏と別れて、メンバーに話したんですよ。で、この曲のデモと歌詞が送られてきたとに、“これ、私の話じゃん!”って」
COCO・MANAMI「ハハハハハ!」
マリコ・マリコ「“私は歌えない”って言ったんですけど、COCOが“大丈夫、私が歌うから”って。まあ、だったらいいかなって(笑)。そもそも(失恋は)完全に忘れてたから、レコーディングはテンションぶち上げで演奏しました。この曲に限らず、私の恋愛、歌詞になりがちなんですよ」
COCO「つるし上げてるわけじゃないよ(笑)。バンドマンたるもの、自分を切り売りするのが大事です」
マリコ・マリコ「切り売り(笑)」
COCO「(笑)。もちろん自分のことも歌詞にしてますよ。『KILL BY POP』の歌詞はほぼ自分のことです」
――「フロンティア」はアルバム『KILL BY POP』にも収録されていました。
COCO「〈フロンティア〉はもともと、自分とマリコの2人で活動しているときに作った曲なんです。そのときもリリースしたので、今回で音源にするのは3回目ですね」
マリコ・マリコ「すごく反響があった曲なんですよ」
COCO「前のベーシストが辞めることになった時期で、次のライヴが決まっていて。すぐ“2人で出よう”と決めたんですけど、ただベーシストがいないってだけになるのがイヤで、2人でやるための曲を作ろうと思ったんです。MANAMIちゃんが入ってから3人で録り直して、さらにグルーヴが出ました」
マリコ・マリコ「やっと完成したって感じがしてうれしかったです」
MANAMI「2人でやったライヴも観ていたし、その時点で完成していると思ってたんですよ。“ベース、いるのかな?”って思ってたんですけど、マッチするベース・ラインを付けられてよかったです」
COCO「自分でベース・ライン考えてみたこともあるんだけど、まったく思いつかなくて。MANAMIちゃんがすごくいいラインを作ってくれたので、さすがだなと」
――さらに、CDシングル「Let's A Go-Go!」とライヴDVD『KILL BY POP Tour Final“イキル・バイ・ポップ”』をコンパイルしたアイテムもリリースされます。ライヴDVDは、2023年1月に新宿LOFTで行なわれたツアー“KILL BY POP”のファイナル公演を収録。みなさんにとってはどんなライヴになりましたか?
COCO「すごい幸せでした」
マリコ・マリコ・MANAMI「ハハハ(笑)」
COCO「お客さん、ゲスト・ミュージシャン、スタッフを含めて、そこにいる全員がTHE LET'S GO'sのために集まってくれて。ステージの飾りつけもそうだし、普段のライヴではできないようなことができたし、私たちのワールドをすべて見せることができたのかなって。みんながそれを楽しんでくれているのが本当にうれしくて、幸せでした」
マリコ・マリコ「今まででいちばんたくさんの人たちが動いてくださって、本当に恵まれた環境でライヴをやらせてもらいました。こんな環境で自分たちの大事な日を迎えることができたことが本当にうれしかったです。ステージを風船で飾ったんですけど3日前くらいにCOCOちゃんが言い出したんですよ」
COCO「最初は風船を上から降らせたかったんですけど、設備上、難しいって言われたんです。しょうがないかなって思ってたんだけど、やっぱり諦めきれなくて(笑)」
マリコ・マリコ「レーベルの社長も飾りつけを手伝ってくれました(笑)」
MANAMI「本当にたくさんの方に協力していただきました。バンドマンの仲間がたくさんお祝いに駆けつけてくれたのもすごくうれしくて。ファンの女の子が“COCOさんがイメージしていることがそのまま見れた”って言ってたんですよ」
COCO「見た目も大事ですからね」
――ライヴ後半のマリコさんのMCも印象的でした。「バンドを続けていきたい」という思いがまっすぐ伝わってきて。
マリコ・マリコ「映像を観返すのは恥ずかしかったです(笑)。THE LET'S GO'sは2006年にはじまって、私が入ってから丸5年経ったんですけど、もっともっと長く続けていきたいんです。まだ“あとから入った”みたいな気持ちがあるので」
COCO「マリちゃんが加入するとき、私も“心機一転、新たにはじめたい”という気持ちがあったんです。バンド名を変えようかなと思ったんだけど、マリちゃんが“私が好きなTHE LET'S GO'sに私がなりたい”って言ってくれて。そういう目線は私にはなかったですね」
MANAMI「私はTHE LET'S GO'sにずっと憧れているんですよね。メンバーが変わっても、そのときのカッコよさがあるので」
――ライヴのサポート・ミュージシャンも女性でした。女性だけで演奏したいという気持ちもあったんですか?
COCO「あったかもしれないです。千秋さん、椎名林檎さんもそうだし、PUFFYもそうなんですけど、10代の頃から女の人が表現していることに憧れを持っていました」
マリコ・マリコ「音楽に興味を持ちはじめた頃は男臭いパンクが好きだったから、ガールズ・バンドはあまり聴く気がしなかったんです。そのあと、ロリータ18号を観て“かわいいとカッコいいを両立できるバンドがいるんだ!”と思って、ガールズ・バンドに対する印象が変わって。THE LET'S GO'sは自分にとっていちばんカッコいいガールズ・バンドだったし、今も女の子がロックとかパンクをがんばってやってる姿を見ると、すごく元気をもらえますね」
MANAMI「私もマリちゃんと同じで、ロリータ18号をきっかけに、“かっこいいガールズ・バンドもいるんだ”と思いました。何度か女性だけでバンドを組んだことがあるんですけど、そのたびに“ガールズ・バンドなんて二度を組むか!”って思ってたんですよ」
COCO・マリコ・マリコ「ハハハハハ!」
MANAMI「それでもやっぱりガールズ・バンドがいいんですよ。今のTHE LET'S GO'sはいい感じに関係がドライですごく楽しいです」
COCO「ジメジメしてない、サラッとしてるね(笑)」
マリコ・マリコ「ちょっとずつ年齢が離れているのもいいのかも」
――シングル「Let‘s A Go-Go!」についても聞かせてください。タイトル曲「Let's A Go-Go!」はどんなイメージで制作されたんですか?
COCO「ライヴで一緒に盛り上がれるような、ノリノリで“ワーッ!”ってなる曲を作ろうと思って。ライヴDVDとセットになるので、ライヴ映像のエンドロールで流れる曲というイメージもありました」
マリコ・マリコ「THE LET'S GO'sのテーマソングっぽい曲ってないよね、っていう話もしていて。“ガマンできない、はみ出したい、ギュッと抑え込まれた世界から飛び出したい”みたいなことをテーマにして、彼女が書いてきたのが〈Let's A Go-Go!〉ですね」
MANAMI「まさにTHE LET'S GO'sだなっていう曲ですね。失敗とかも気にしないで突き進む感じだったり、“もっと挑戦してみたら?”って肯定してくれるような」
COCO「曲のなかにコール&レスポンスを入れるのも、ほとんどやったことなかったんですよ。自分はお客さんを煽ったり、“歌って”みたいなことは言えない人間だと思ってたんですけど(笑)、〈フロンティア〉でみんなと一緒に合唱することにも成功したし、コール&レスポンスもできるんじゃないかなって。ライヴの大定番曲にしたいですね」
――カップリング曲は、ザ・ストゥージスの 名曲「I FEEL ALRIGHT(1970)」のカヴァーです。
マリコ・マリコ「私たちはむしろ、ダムドのカヴァーのほうがなじみがあるんですよ」
COCO「レーベルの方が“この曲合うんじゃない?”って勧めてくれて。普段、自分が作る曲ではあまりないようなダークさ、激しさがあるし、みんなで一緒に歌えそうなのもいいなと」
――最後に今後の活動ヴィジョンについて教えてもらえますか?
COCO「フェスに出たいですね!海外でツアーもやりたいです」
MANAMI「フェスや大きい会場でやりたいし、“ガールズ・バンドだから聴く気しない”という人にも“カッコいいな”と思ってもらえるバンドになりたいです」
マリコ・マリコ「うん。あとはガールズ・バンドのシーンを先頭で引っ張っていけるバンドになりたいですね。古いロックをルーツに持つガールズ・バンドとして、もっとシーンを盛り上げていけたら」
――女の子にバンドをやってほしいという気持ちも?
マリコ・マリコ「そうですね。バンドでも何でもいいから、好きなことを思いきりやってほしいなって。そういう勇気を与えられる存在になりたいです」
取材・文/森 朋之
■THE LET'S GO's Tour "Let's A Go-Go!"〜CD+DVD, and 7"EP release〜5月15日(月)下北沢 SHELTER "Release 2MAN SHOW!!!"(w / STANCE PUNKS)
5月26日(金)難波 Mele(w / THE BLACK DOLPHINS, ここで生きてるず, 50/50's, THE ジャキーンズ, サントワマミーズ)(
5月27日(土)愛知 名古屋 HUCK FINN "STILL BASEMENT"(w / THE DISASTER POINTS, RADIOTS, AGGROKNUCKLE, SPREAD, THRASHOUT and DJs)
5月28日(日)浜松 G-SIDE(w / THE CHINA WIFE MOTORS, ZONE, DILDOS, BEYOND HATE and more)
■出演イベント4月24日(月)新宿 レッドクロス
4月30日(日)柴崎 RATHOLE
6月2日(金)下北沢 Daisybar "Never Stop Girl's Rock!!!"(w / Akabane Vulgurs On Strong Bypass, ℃-want you!, fishingirls(from 韓国))
6月4日(日)高円寺 Showboat
6月16日(金)幡ヶ谷 Heavysick
6月22日(木)渋谷 Spotify O-nest
7月1日(土)青森・八戸 ROXX
7月2日(日)盛岡the five morioka
8月11日(金・祝)CLUB CITTA' 川崎 "PUNK LIVES! 2023"
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