数多のヒット曲を生んだ橋本淳・筒美京平の黄金コンビによる未発表曲「ホテル砂漠」でデビューする女性デュオ・ユニットの夏海姉妹。彼女たちは現役ストリッパーの夏海愛とお座敷芸者の夏海ジュンという謎めいたデュオで、昭和歌謡的なレトロで妖艶なムードをあわせもつ逸材だ。全6曲入りのデビュー作品について、表題曲の「ホテル砂漠」を中心に、2人に話を聞いた。
「ホテル砂漠」は、橋本と筒美がザ・スクーターズに書き下ろしたが、未発表となっていた曲で(ザ・スクーターズ版は歌詞を変え、「Hey girl」として2012年のアルバム『女は何度も勝負する』に収録されている)、彼女たちが掲げる“ビート演歌”というニュー・ワードそのものを表すような楽曲となっている。ヴォーカルを取るジュンの艶っぽくエモーショナルな歌声も吸引力がある。
「第一印象は“難しそうだな”というものでした。でも歌ってみたら、新たな自分のスタイルが発見できました。いまの時代にはあまりない世界じゃないですか。すごく新鮮ですよね」(ジュン)
「わたしも衝撃を受けました。でも、この形としては未発表だった橋本先生と筒美先生の曲なので、わたしたちがこのままでちゃんと形にしたかったんです」(愛)
デラックス限定版(CD+DVD)に収録されているミュージック・ビデオも秀逸。矢沢ようこ、赤西涼、豊田愛菜という浅草ロック座などで活躍する有名ダンサーが参加、「ホテル砂漠」の世界観をいっそう広げてみせている。しかも、ひとりずつソロで踊ったものを組み合わせているのだが、彼女たちのダンスはアドリブだそうだ。また、「ホテル砂漠」はDVDでしか見られないまったく別の音源と映像による“新宿ニューアートMIX”のミュージック・ビデオもあり、こちらはさらにキラキラした妖艶な世界観で魅了している(予告編をYouTubeで見ることができる)。
「ダンサーのみなさまに華を添えていただきました。本当にすごかったです。目が釘づけでした」(愛)
「ホテル砂漠」以外の収録曲も濃厚な曲が揃っている。現代の昭和歌謡的シンガー・ソングライターの筆頭、町あかりが手がけた「ハーブみたいな彼」は、歌謡曲のツボを押さえつつ町らしい開放感たっぷりなメロディと独自の言語センスが冴えまくった痛快曲。4人のキッズ・ダンサーが参加したミュージック・ビデオもおもしろい。
「この曲はクセになるというか、中毒性がありますよね。もともとは歌詞が違って一度は歌も入れてたんです。歌詞が変わって、ミュージック・ビデオの子どもたちとの交じりもすごくナチュラルになったと思います」(ジュン)
「子どもたちは待ち時間もずっとこの曲を歌っていたんです。なじみやすい曲なんだなと思いました。〈ホテル砂漠〉は大人の歌ですからね(笑)」(愛)
さらには2曲の昭和歌謡カヴァーも収録されている。「夏海の〈圭子の夢は夜ひらく〉」はザ・ファントムギフトのメンバーによる演奏、「愛して愛して愛しちゃったのよ〜お座敷小唄」ではプロデューサーの大久保ノブオ(ポカスカジャン)とデュエットしている。
「〈愛して愛して愛しちゃったのよ〉はいろいろな方のカヴァーを参考にさせていただきました。奥村チヨさんのヴァージョンがすごくかわいくて印象に残っていたので、チヨさんっぽさを少し意識しました」(ジュン)
昭和歌謡を“ビート演歌”という新機軸のスタイルで現代に示してみせた彼女たちのデビューは、令和という時代に新鮮なインパクトを与えそうだ。資料によると、すでにセカンド・シングルの制作もはじまっている。そちらも橋本淳・筒美京平のキラー・チューンだとか。新たな昭和歌謡の息吹を吹き込むユニークな存在である夏海姉妹の今後の展開に期待が高まる。
取材/高岡洋詞
構成・文/小山 守