今年の1月にリリースしたアルバム
『Fantastic OT9』以来となるニュー・シングル
「SUNのSON」を発表した
奥田民生。今作は移籍第1弾であり、そして映画『コドモのコドモ』の主題歌として書き下ろされた。すでに夏フェスでも今年の民生の代表曲にもなりつつある、明るく突き抜けるメロディが爽快なロック・ナンバーだ。
――全国ツアー“FANTASTIC TOUR 08”、かなり絶好調モードでしたね。
「そう、電球が切れる前というかね(笑)、いいですよ。ずっとやり続けてるので、演奏とかもより良くなるもんだと思ってやってますから。問題ない感じです、不安要素は極力なくしたいわけですから」
――いろんなことがクリアになってきた今がある、と。
「そうそう、そういうことです」
――そして今回はシングル「SUNのSON」がリリースされましたが、移籍もされて心機一転ですか?
「えーっとね、これを作ってる最中はまだどうなるかはっきりしてなくてね(笑)。映画のタイミングもあってシングルを切ることになった感じのものなので、移籍してどうのっていうのはあんまり実感してないんですよね。先月もインタビューで“まだ歓迎会もしてもらってない”という話をしたんですけど、なおかつ今だにしてもらってないという。そこからかな、このレコード会社に忠誠を誓うかどうかを決めるのは(笑)」
――まあ、バンド時代から同じソニー系列ですし、あらためて“初めまして奥田民生です”なんてことでもないでしょうけど(笑)。
「そうなんですよ。心機一転のつもりが知ってるスタッフが何人もいますしね(笑)」
「(映画の主題歌は)ずっとやってみたいと思ってたんですよ」
――でも映画の主題歌として書き下ろされるのは、今回が初めてなんですよね。
「今までそういうお話をいただいてもスケジュールの都合とかで実現しなかったりしたんですけど、ずっとやってみたいとは思ってたんですよ。今回やっとこういう風にやることができまして。最初に監督さんと話をして、映像を観てからイメージを膨らませて曲を作るという段取りだったんで、やりやすかったですね」
――子供たちが無邪気に外で走り回ってるような映像も浮かんでくるような曲だと思いました。
「そう、やっぱり映画の内容はともあれ、要は地球で暮らしてるっていうだけのことなのかなと僕は解釈しまして。そりゃあ、生きてればいろんなことがありますよ、と」
――歌詞も“何にも心配ないようにして”“愛の国にしないとね”なんて、語り口調が柔らかいのはやはり聴き手を意識して?
「そうですね。歌詞の細かいところにも、やっぱりどこかに“子供が聴く”という意識が働いてるでしょうね。普段はあんまりそこまで考えてないんですけど」
――コードもわかりやすい進行で。
「それはもう、最近の傾向ですけどね(笑)。最近はいろいろと複雑にする人が多いんで、そういうのはもう僕は卒業しました。僕は簡単なほうに行こうと。そのほうが楽だということに気付きまして」
――サウンド面においてもキーボード以外のパート(ドラム、ベース、ギター)をご自身が演奏されていて。独自のグルーヴと温もりが伝わってくるポップな仕上がりですね。
「自分で演奏もやると、最初に映画から受けたイメージのまんまで行けるんで。その点はよかったと思うんですよ。他のミュージシャンに映画の説明をする手間も省けたし(笑)。まあ正直、バンドのメンバーのスケジュールの都合もあってこうなったのもあるんですけど、でも置かれた状況の中で、いいようにやればいいわけですから。そういう意味では最近の活動においてはひとりならひとりでもできるし、みんながいたらいたでできる。いろんな形がわりと出来上がってきてる部分があるので、スケジュールが合わないからどうしようじゃなくて、考え方を変えてやれるわけですよ」
――それはソロ・アーティストとして最強の状態じゃないですか。
「どういう状況であろうと楽しくやりたいですから。いろんな経験をすると、あんまり考えなくてもいろいろやれるようになるもんだなって感じですよ」
――民生さんが目指してきた状態に今はなれてるっていうことですか?
「というよりですね、目指してきたものっていうのがそんなにないので(笑)。やりながらいろいろと考えるタイプなんでね、そういう対応力みたいなものもついたのかもしれないし。いろんなことを試しにやってみながら続いてるだけなので、まだよくわからないことも多いし。要するに、音楽をやれればいいわけで。楽器があって、ジャーンと音が出て、人前でライヴができればいいわけですから、そこのところはどんどん経験を積んで上がっていくわけですよ」
「お題があって作るのは楽しいので、今後も機会があればやりたいです」
――では今回のレコーディングもスムーズに進みましたか。
「ひとりでやってると“OKテイクは誰が決めるんだ!?”ってことになりますよね。レコーディングも今回はほとんどひとりでやってるぶん、俺の中にはイメージがあって、順番に1個ずつ入れていくだけなので、それを録ってるエンジニアとかはよくわからんわけですよ。だから僕に任せるしかないでしょ、だから一切、みんなで“イエーイ!”みたいな瞬間がまったくない現場でしたけどね(笑)。だからマネジャーたちも横で“できたの? まだ途中なの?”みたいな状況なんですよ。でもサクサク進むみたいな」
――なるほど(笑)。では今回書き下ろしで映画の主題歌を作ってみて、今後もやりたいなと思いましたか?
「そうですね、普段曲を作っていても何かテーマがあったほうがいいし。曲を作って演奏してという生活をしている以上、曲作りを止めるわけにはいかないので、作る理由があってくれたほうがいいわけですよ。だから自分で見つけてくるよりは映画の主題歌としてだったり、何かお題を出されて曲を作るのは楽しいので、今後も機会があればやりたいですね」
――ちなみに『FANTASTIC OT9』は3年半のスパンあってのリリースだったわけですが。次のアルバムというのは……そこまで時間が開かずに期待できそうですか。
「何言ってるんですか、まだアルバム出たばっかりですよ(笑)? 初めてですよ、今年そんなこと言われたの!」
――そうですか、すみません(笑)。
「みんな1年に1回くらい出すの? でも新人はね、そのぐらいやる必要があるわけですよ、やりたいだろうし。だからあまり必要じゃないですね、僕はね」
――その辺はキューンレコードさんの方で歓迎会をしてもらってから(笑)。
「そうそう、そっからですね。そういうのはわりと大きいですよ。会社のプレッシャーとか、励みになる部分でもあるしね、“出せと言われたぜ”みたいなのは。移籍したからには、キューンの発展の手助けになるような働きを……するよ(笑)? 演奏さえしていれば、5年ぐらいアルバムを出さなくても僕は平気なんですけど。でも新しい曲を演奏して、みんなの反応を見るのは楽しいので。だから曲を作るんですよね」
取材・文/上野三樹(2008年9月)
Column
ニュー・シングル「SUNのSON」
ディスク・レビュー
小学校5年生の女の子が出産を経験する、というストーリー設定がさまざまな議論を呼んでいる映画『コドモのコドモ』の主題歌として書き下ろされたニュー・シングル。民生が映画の主題歌を歌うのはこれが初めてということだが、そんなことは関係なく(?)、民生は民生のロックンロールをスコーンと打ち鳴らしている。スッキリと風通しが良いのにダイナミック、エレクトリック・ギターという楽器の魅力をストレートに伝えるサウンドメイクがまず、とんでもなく気持ちいい。そして特筆すべきは、ドラム、ベースも彼自身が演奏していること。つまりこの曲は、奥田民生が体感しているロック・ミュージックがそのまま映し出されているのだ。大らかでポップなメロディ、さりげなく大切なメッセージを織り込むリリックとのバランスも抜群。自ら最高傑作と評した最新アルバム『Fantastic OT9』から8ヵ月、彼はすでに、僕らの想像を超えたフィールドへと進みつつあるようだ。盟友・スティーブ・ジョーダンが参加した「Sun's Market」は乾いたイメージのブルース・ロック。ニール・ヤングへの愛がたっぷりと溢れているのに完璧にオリジナル、これもまた、彼にしか体現できない技だと思う。(森 朋之)