EGO-WRAPPIN’が結成12年目にして初のベスト・アルバム
『ベストラッピン 1996-2008』を発表。[くちばしにチェリー」「GO ACTION」といったアップ・チューンを収めた“ヤルキ盤”と、「あしながのサルヴァドール」「色彩のブルース」といったメロウな楽曲を収めた“セツナ盤”の2枚からなる今作は、明快かつ力強い作品タイトルそのままに、EGO-WRAPPIN’というバンドが魅力を、まさに最上の形で詰め込んだ(ベストラッピンした)充実の内容に仕上がっている。
「仲のいい友達に『誰かギター弾ける人、知らん?』」って紹介してもらったのが森くんだったんです。そんでバーみたいな所に観に行ったら、男性二人組でソウルっぽい曲を演奏していて。趣味も合いそうやし、なんか面白いことになりそう、みたいな。ホンマに、それぐらい軽い始まりだったんですよ(笑)」(中納良恵)
1996年に結成されたEGO-WRAPPIN’。中納にとっては本格的に組んだ初めてのバンドだった。彼らは地元・大阪を拠点に活動を展開。音楽好きの間で噂が噂を呼び、やがて
「色彩のブルース」(2000年)の大ヒットで、その名を一躍、全国レベルにまで広げていった。
「最初は友達がやってる洋服屋さんのイヴェントに出たりして、口コミで名前を広げてもらっていた感じでしたね。次のライヴに友達が新しい友達を連れてきてくれたり。確実な手応えを感じたのは(3rdアルバム
『SWING FOR JOY』(1999年)を出した頃。急にライヴの動員が増えて、そのあたりから一気に輪が広がっていった感じです」
(中納) 「自分らの中では活動を始めた頃から“これはイケるやろ!”みたいな気持ちはあったんです。聴いてもらえさえすれば、イイ曲だって分かってもらえるだろうって」
(森 雅樹) ジャンルの枠にとらわれることのない柔軟なミクスチャー感覚と、ストイックなまでの音楽的探究心で、「色彩のブルース」でのブレイク後も理想のサウンドを常に模索してきた彼ら。その進化と深化の過程を凝縮してパッケージングしたのがEGO-WRAPPIN’初のベスト・アルバム、その名も『ベストラッピン 1996-2008』だ。
「実は、これまでベスト・アルバムというものにピンときてなかったんですよ。『聴きたかったらオリジナル・アルバムを聴いてください』みたいな、軽く突き放してるようなところもあって(笑)。でも、長いこと活動を続けてきたなかで、ここ最近、やっと自分の中に余裕みたいなものが生まれてきて。“EGO-WRAPPIN’って名前は知ってるんだけど、今まで聴いたことがない”っていう人たちに向けた入り口として、ベスト・アルバムっていうのもアリなんちゃうかなと思えてきたんです」(中納)
さる7月には『ミュージック・ステーション』に出演、初の地上波放送登場を果たすなど、彼らの中に芽生えた“余裕”はバンドとしてのスタンスにも大きな影響を及ぼしたようだ。
「対バンがTUBEってなかったと思うんですよ(笑)。そうやって、今まで接点がなかった人たちと共演できるって状況も新鮮でおもしろいなと思って。今は、どんな場所に出ても芯の部分にある軸みたいなものはブレないと思うから」(中納)
「いろんな状況を積極的に楽しもうと思っているところはありますね。浮いてる方が気持ちよかったりするし(笑)」(森)
心持ちも新たに13年目の活動に突入したEGO-WRAPPIN’。現在は待望のニュー・アルバムの制作中だ。気になる、その内容はというと……。
「いろんなタイプの曲があるんだけど、どこか一貫した雰囲気があって。一緒にライヴをやってるメンバーと全曲演奏してるんで、すごくバンド感のある音になっていると思います」
(中納) 「前のアルバム(
『ON THE ROCKS!』)とは全然、違う感じになってますね。全体的に “太さ”が出てるかな。聴いててガッチリくる感じというか。ボトムは
ツェッペリン的な雰囲気もあります。さらにいえば
『レッド・ツェッペリンII』ですね(笑)」
(森) 聴き手の想像を軽やかに凌駕する斬新なサウンドを作品発表ごとに提示してきたEGO-WRAPPIN’。“バンド感”“『レッド・ツェッペリンII』”というキーワードから、あらゆる期待と想像を膨らませつつ、今は彼らの次なる一手を楽しみに待つとしよう。
取材・文/望月哲(2008年9月)