原田郁子がソロ3部作の最終作となるアルバム
『銀河』を発表。
『気配と余韻』、
『ケモノと魔法』という2枚の作品を通じ、約1年という時間をかけて、アーティストとしての自らと徹底的に向き合った末に生まれたという今作について彼女に話を訊いた。
『気配と余韻』『ケモノと魔法』という2枚の作品に続けて、原田郁子がソロ3部作の最終作となるアルバム『銀河』を発表した。最小限の音数のみで構成されているにも関わらず、莫大な奥行きと広がりを感じさせるサウンド。シンプルながらも聴き手のイマジネーションをぐんぐんと広げてくれる言葉たち。今作に端的なキャッチ・ワードを付けるとするならば、さしずめこんな感じだろうか。
“顕微鏡から覗いた大宇宙”。
何万光年もの時を超え、キラキラと瞬く星たちを、まるで顕微鏡のレンズごしに、まんじりともせずに眺めているような──今作にはそんな不思議な緊張感と高揚感が満ち溢れている。
「徹底的に自分を掘り下げていったら、空の向こうまで突き抜けちゃったっていうか(笑)。自分の中にはそういう感覚があるかな。音楽を聴いて頭の中で旅をするような感覚を(エンジニア&共同プロデューサーの)ZAKさんと一緒にアルバム3枚通じて自分なりに形にできたように思う。ガイドブックを買ってパスポートを持って出掛ける旅とは、また違う旅というのが、音楽にはあると思うんだよね」
アルバムの冒頭を飾るのは、
忌野清志郎を作曲/フィーチャリング・ヴォーカリストに、そして
リトル・クリーチャーズを演奏に迎えた13分超のタイトル曲「銀河」。夢と現(うつつ)の間にある大気圏にゆっくりと突入してくような感覚をヴァーチャルで体感させてくれる、穏やかなサイケデリアをたたえた楽曲だ。
「清志郎さんにいただいたデモ音源があまりにも良すぎて、わたしもZAKさんもクリーチャーズのみんなも完全にヤラれちゃったの。それで、一度リハーサルをした時はもっとバンドっぽいサウンドだったんだけど、持ち帰って聴いてみて、もっと歌の持ってる世界を音にしなくっちゃと思って。それでもう一回まっさらから、“みんなで銀河を作ってみよう“ってアレンジしていきました。原曲に対する愛情を私たちなりに表現したいという思いも込めて」
「自分のソロ・アルバムの中で、クラムボンの2人が演奏してくれたらうれしいなぁと思って、最後の最後に〈ある かたち〉という曲で、ミトくんと大ちゃん(伊藤大助)に参加してもらったんです。ソロで活動していても、どこかで、わたしバンドで活動をしているような感覚があって。違いを探したかったら探してもらって構わないんですけど(笑)、大きく見れば、自分の中では一緒だなって」
そういえば2006年に、久々となるシングル
「THE NEW SONG」をクラムボンで発表したとき、彼女が筆者に、こんな話をしてくれたことがあった。
「今は“キャッ!”とか、“ビョン!”とか、瞬間的なものを捕らえたいって思ってる。それって、生命力みたいなものかもしれないけど。一瞬の強い力みたいなものを曲に込められたらなと思ってる。それが瞬間的であればあるほど、その奥にあるものとか、それを取り巻くものも見えてくる気がしてるのね」
3枚のソロ作品を通じて、彼女が追求していたものも、突き詰めていけば、上記の発言にシンクロしていくものなのだと思う。全体的に静謐なムードが漂うソロ3部作ではあるけれど、耳を澄ませば、そこからはアーティスト・原田郁子の根底に流れる本質=言語化不能のゾクゾクするような衝動や声にならない歓喜の雄叫びのようなものが、しっかりと感じ取れるはずだ。
「“これこれこういうコンセプトで作りました”みたいな、説明書きを添えなくていい、有無を言わせないような音を出したいってずっと思っていて。もっとね、シンプルなことなんです。(取材用のアルバム資料を指して)ここにも自分で書いてるけど、要するに、愛が爆発してるんです(笑)。関わってくれた、ミュージシャンやスタッフ、デザイナーさん、聴いてくれる人、みんなに対して。“好きだぁ!”って言い続けるような(笑)、そんな1年だったですね」
表現者としての自分と徹底的に向き合った末に彼女の中で巻き起こったビッグバン。そこから生まれたのは、かくも壮大なサウンド・スケープだったのだ。
覗いてごらん、銀河だよ!
取材・文/望月哲(2008年10月)