ハウス・ミュージックがここ数年、日本の音楽シーンにおいて大きな流れ生み出していることは間違いない。その流行はダンス・ミュージックだけにとどまらず、いわゆるJ-POPシーンにも浸透。4つ打ちのトラックを用いることは、ある意味、当たり前の手法となった。そこには当然、質の差が存在していて、なかには“単に流行を取り入れているだけ”という印象を持ってしまうものもある。つまり2009年以降は、そのクオリティがさらにシビアにジャッジされることになると思うのだ。
そんな状況において、note native――クラブDJ/プロデューサーとして活動する田尻知之のソロ・プロジェクト――のクリエイティビティには、とても興味を惹かれる。iTunesアルバム・チャートで6週連続ヒットを記録した1stアルバム『Reflect』からわずか8ヵ月というインターバルで届けられた『Silence & Motion』では、彼自身の音楽的志向が強く、よりエモーショナルに表現されいるという。その中心にあるのは、抑制の効いたセンチメンタリズムを内包したメロディ・ラインだろう。
「“現場(クラブ)を盛り上げてナンボ”というDJの感覚、それから、ダンス・ミュージック以前に聴いていたポップスからの影響。自分の中にある両方の部分を表現したのが『Silence & Motion』なんです。1stのときはリスナーの反応を少し気にしてたところがあったんですが、アルバムの内容をある程度評価してもらえたという手ごたえもあったし、今回はさらに自分のあるがままをぶつけた感じですね」
収録曲のほとんどが、シンガーを起用した歌モノで占められている本作。そこには“J-POPとしても機能させたい”という意図が込められている。
「僕の曲はほとんど、Aメロ、Bメロ、サビという構成なんです。とくに“サビをドーンと聴かせたい”という気持ちは強いですね。いくらハウスが流行ってるとはいっても、クラブに行ったことのない人はたくさんいるし、そういう人たちにも響いてほしいので」
ダンス・ミュージックとポップスを自由に結び付けるnote native。その活動の範囲はさらに広がっている。まず、クリエイター・ユニット“Leisure Central”のプロデュースによるコンピ盤『LEGACY-Classical Masterpieces × House Music-』には、平原綾香の最新シングル「ノクターン」のリミックスで参加、豊かな情感をたたえたヴォーカルをしっかりと活かしつつ、クラブ・ミュージックとしての高い機能を備えたトラックを提供している。さらに『Silence & Motion』にともなうツアーでは、“DJプレイ+女性シンガーをフィーチャーしたパフォーマンス”というスタイルを採用、その独自の音楽性を体現している。
「note nativeとしての活動はまだ始まったばかりだし、これから徐々に浸透させていきたいですね。今はすべて英詩ですが日本語の曲にも興味がるので来年は是非トライしてみたいです。もっと多くのリスナー層を取り込んでいけたらいいなと思ってます」
取材・文/森 朋之(2008年12月)