「夢見がちな感じは残しつつ、
現実的な部分もしっかり伝えていきたい」
──そこで大きな“気付き”を与えられたわけですね。
土岐 「そうですね。思い切って、言い切っちゃえばいいんだなって」
――たしかに今回、歌詞がめちゃめちゃ強いなと思ったんですよ。すごくキラキラした感触がありつつも、その反面、クールな視点もしっかり同居してる感じというか。
土岐 「夢見がちな感じは残しつつ(笑)、現実的な部分も、しっかり伝えていきたいなと思ったんです。私、音楽って、マッチ売りの少女が火を灯した瞬間みたいなものだと思っているんですね。その音楽がかかっている間だけは、ヒーローになれたり、一気に若返ったりできるというか。自分が作る音楽も、そういうものにしたいなと常々思っているんですけど、そこで描かれていることが、あまりにも非現実的で自分に重ね合わせられないものだったら、聴いてくれる人を別の世界に連れていけないですよね。やっぱり、どこかに現実的な視点がないと」
――それって土岐さんが敬愛している、
山下達郎さんや
大貫妙子さんが描く世界観とも、どこか相通じるところがありますよね。
土岐 「達郎さんや大貫さんが作る曲って、単にキラキラしてお洒落なだけじゃなくて、その裏側にすごくクールな眼差しみたいなものを感じるんですよ。ある意味、どこか醒めてるというか。聴きながら、“もしかして、すごく孤独な青春時代を送られてきたのかな?”とか(笑)、そういうことを考えたりもするんです」
――以前、山下達郎さんに、お話をお伺いしたとき、「僕の歌の根底には“都会に生きる若者の孤独感”みたいなものが流れている」と、おっしゃってました。
土岐 「ああ、やっぱり。60年代って、あんまり景気も良くなかったでしょうし、まだ戦後の灰色っぽいイメージがうっすら残っていたような時代だったと思うんですね。達郎さんたちの音楽からは“音楽で夢を見ないで、一体どこで夢を見るの?”っていう潔さや力強さを感じるんです」
――ある種、60年代って今と似ているのかもしれませんね。とにかく夢が見づらい時代だし。
土岐 「現実をしっかり受け止めた上で、楽しさを提供するというか。特に今みたいな時代って、そういう意識で作られた音楽じゃないと、聴き手に届かないんじゃないかと思うんです」
――表向きだけ小奇麗にコーティングされているような、いわゆる雰囲気モノっぽい音楽って、今後どんどん淘汰されていくだろうし。でも、土岐さんが作ってる音楽は、大きな影響を受けた70〜80年代のシティ・ポップをベースにしつつも、“今”という時代にしっかり向き合っているからこそ、巷間に溢れている80'sフォロワーみたいな人たちが作った音楽とは作品としての強度が全然違うと思うんですよ。
土岐 「ありがとうございます。たしかにシティ・ポップは好きだけど、それをオマージュするだけじゃ単なる懐メロになっちゃうと思うんです。あくまでも私が憧れているのはサウンドのスタイルじゃなくて、当時のミュージシャンの方々の姿勢や精神なので。これまで影響を受けてきた音楽を、自分なりに昇華して、いかに今という時代にマッチさせられるか、ということが重要だと思うんですね」
「勇気を出して一歩踏み出すことの大切さって
絶対にあると思うんです」
――今回、『TOUCH』って作品タイトルも言い得て妙ですよね。今まで以上に聴き手との距離が近づいている感じがするし。
土岐 「(1stアルバムの)
『Debut』のときは一人ぼっちの時間みたいなものに焦点を当てている曲が多くて、次の
『TALKIN'』で、誰かに話しかけるような感じになって。で、
『TOUCH』では、話しかけた相手とさらに深くコミュニケーションが取れるようになったというか。収録された、ほとんどの楽曲が実はラブ・ソングだったりするのも、そういう感覚が反映されているんだと思うんです。たとえば〈BIRTHDAY CAKE〉って曲とか、別にラブ・ソングのつもりで書いたわけじゃないのに、結果的には、そういうふうに受け取れるような感じになっていたり」
――「きみ」だったり「あなた」だったり、自分以外の登場人物が、ほとんどの曲に登場していますね。
土岐 「そうなんですよ。前は一人称ばかりだったんですけど(笑)。あと、『TOUCH』ってタイトルには、自分の心にも触れるというか、そういう意味も込められているんです。誰かに話しかけたりとか、誰かの心に触れようとしたときって、相手からどういう反応が返ってくるかわかんないから、ちょっと怖かったりするじゃないですか。でも、自分の心に問いかけて、勇気を出して一歩踏み出すことの大切さって絶対にあると思うんですよ」
――そうしないと、楽しいことにも出会えないし。
土岐 「そうそう! ホントそうなんですよね。だから、このアルバムを聴くことによって、みんなが外に出かけたくなったり、誰かと話したくなったりしたら本当に嬉しいなと思って」
―― “まだ見ぬリスナー=お茶の間”に届けたいっていう、作り手の思いがアルバム1枚を貫いていて。ある意味、今回のアルバムって、すごくコンセプチュアルですよね。
土岐 「今思えば、レコーディングのスケジュールが、すごくタイトだったのが逆に良かったのかも(笑)。半年ぐらい、びっちりスタジオに入れたりしてたら、余裕がありすぎて作品の方向性がブレていたかもしれないし。たぶん追い詰められた状況だったからこそ、変に格好つけず、自分が思ってることを素直に表現できたんでしょうね。結果的に自分でも、ピシっと筋の通った作品が出来たんじゃないかなと思っています」
取材・文/望月 哲
土岐麻子 ワンマン・ライヴ 『TOUCH Me』 開催!
【会場】 恵比寿リキッドルーム
【日時】 2009年2月19日(木)18:30 OPEN / 19:30 START
【料金】 自由 \4,500(tax in. ドリンク代別)
【Member】
土岐麻子 Vocal
奥田健介 Guitar
鹿島達也 Bass
渡辺シュンスケ Keyboard
坂田 学 Drums
※終演後に「TOUCH」発売記念特別サイン会を開催!!
※チケット発売中
PIA:0570-02-9999(Pコード:311-417)
LAWSON:0570-084-003(Lコード:79912)
e+:
http://eplus.jp※info: HOT STUFF PROMOTION / 03-5720-9999 (月〜金16:00-19:00)