デビュー20年目を迎えてもなお、結成時からの衝動をなんら失うことなく国内外でエネルギッシュな活動を展開し続ける
東京スカパラダイスオーケストラ。そんな彼らが前作から1年足らずでニュー・アルバム
『PARADISE BLUE』を完成させた。今作の多くを占めているのは、ある種、原点回帰のようにも思える直球かつオーセンティックなスカ・ナンバー。そこに込められたメンバーの思いとは?
川上つよし(b)と
谷中 敦(b.sax)に話を訊いた。
「流行りでコロコロ音楽性を変えてくるなら解りやすいんでしょうけど……僕らは老舗の煎餅屋みたいなもんですかね? “まだ煎餅作ってるよ”みたいな(笑)」(川上)
「でも、無くなったりすると寂しがる人いるよね(笑)」(谷中)
そう笑いながら話してくれたが、東京スカパラダイスオーケストラは今年でなんとデビュー20年を迎える。続けることはもちろん重要だが、リスナーと一緒に歳を重ねるだけでなく常に新しい何かを生み出し続け、それこそ3世代にまたがるオーディエンスをおもいっきり笑顔で、汗かかせて、踊らせてしまうバンドって他にはいないのではないだろうか。老舗の煎餅屋が時代の変化に合わせて微妙に味を変えているように、彼らもまた敏感に時代の空気を感じ取っているからだろう。
そんなスカパラが前作
『Perfect Future』からわずか1年足らずで畳み掛けるようにリリースする通算14枚目のアルバムは、硬質でメタリックな印象だった前作から一転、直球でオーセンティックなスタイルのスカが中心。この心境の変化は一体? しかも、タイトル曲「Paradise Blue」は川上氏が20年前に書いた曲だそうで……。
「曲もすごいシンプルで、3コードのブルース進行。それをスカでンッチャッ、ンッチャッって演奏するのは今の僕らとしては逆に勇気がいるんですよ。でも、20代のスタッフが“これ、スゲェかっこ良くないですか?”って言ってくれて。だったら、20周年だし自分達の出自を再確認するっていうか……。20年前の曲を今やっても、20年前のようには逆にできない。だから、何が変わったのか自分達で確かめたいっていう」(川上)
「“単純すぎて面白くないかな?”って思いが一瞬、頭をよぎったりしたんですけど、全然、面白いなって。僕らの成長の仕方は間違ってなかったなっていうのを確認できましたね。トランペットのNARGOが“根っこは一緒だけど、どんどん新しい花を咲かせる感じです”って言ってたけど、まさに今回こんな感じですね」(谷中)
単に“原点回帰”したというのではなく、雑食的に、さまざまスタイルを取り入れ、ダンス・ミュージックの本質を掴もうと格闘してきた彼らだからこそ描けた現代のリアルなスカ、というのが正しい表現かも知れない。“あの時はよかった”的な空気が微塵も感じられないのだ。
だが、長きを共にした冷牟田竜之(a.sax)が抜けた影響もバンドには大きかったのではないだろうか?
「全然違いますね。何か、サッカーで1人退場するとゲームの仕方が変わるっていう感じなのかな」
(谷中) 「でも頑張る。1人減って逆に俺がやらなきゃって気持ちがそれぞれ強くなったはず」
(川上) 「ドラムの欣ちゃん(
茂木欣一)とかギターの加藤(隆志)は1人抜けたことに、すごくこだわってて、“ちゃんとやらなきゃ”っていうことを言っていましたね。冷牟田さんはパンクの部分を担っていた人だったんで、今回パンク色が少ないですけど、その部分で本来のスカパラのヴァリエーションも出せていけたのかなって。あとはライヴをやって思ったんですけど、真ん中にいた冷牟田さんがいなくなったんで、逆に言うと真ん中に立つシーンをつくることで、“ああ、今この人主役なのね?”っていうのがわかりやすかったりするので、そういった見せ方でお客さんを楽しませようかなって」
(谷中) もう目線はこれから始まるツアーに向かっている。このバンド、湿った空気が一切ないのだ。あるがままを受け入れ、その時々の状況をメンバーが楽しんでいるからこそ常に魅力的に輝いて見えるのかも知れない。
“今後の展開は?”という問いには口を濁していたが、記念すべきアニヴァーサリー・イヤー。まだまだ何が飛び出してくるやら……本当に楽しみで仕方ない。
取材・文/斉藤ジョゼ(2009年1月)