音楽と自分が一体になったときの開放感!――ディスク1にはエピック時代の曲が収録されていますが、最近のライヴでも演奏されることの多いこれらの曲には瑞々しさがありますね。
「素直に書いてますね。自分のことなんだけど、もう他人事みたいになってる(笑)。他人事だから逆に客観的になれたというのと、でも自分以外の何者でもないという、主観と客観の2つの視点があって、そのギャップが面白いなと思うんですよね。年数が経つっていうのは、複数の視点で物を見るようになるっていうことなのかなって。でも昔はそれしかなかったんです。単一だったんですよ。でもそれがちょっと変わってきましたね」
――演奏者としての技術の向上という視点ではどんなふうに捉えていますか。
「ちゃんとやってるんですよね。ちゃんと歌っているなとか、ちゃんと演奏してるなとか、変わってないといったら何も変わってない。“自分の表現”にこだわってすごく煮詰まってた時期もあったんですけど、結局、自分は自分でしかないし、でもそれはいいことなんじゃないかって。それを受け入れて何ができるかなっていうふうに、これから先は考えていけばいいことで、うん。ライヴの技術はあがった気がするんですよ。弾き語りもそうだし、この5年間ぐらいいろんな人といろんな編成でやって、音楽と自分が一体になるときの解放感は以前よりすごく感じられるようになりました。前は必死にやってただけだったので……。“音”っていうものが自分にとって何かといったら、解放以外のなにものでもなかった。それを確認できたのが、ここ数年間なんですよね。こういう昔の曲がなかったらそういうこともわかんなかったでしょうし、だからすべてがつながっているというか、そのための布石というか。そういう流れってあるんじゃないかなって」
――周りに影響受けながらも、結局は自分で、無意識かもしれないけれど選んでるんじゃないですかね。直感も含めて。
「そうなんですよね」
――〈Swallow〉のライヴ・ヴァージョンのように、昔の曲を新たなアレンジで演奏することについてはいかがですか。
「変化させていくことがすごく好きなんです。だけど、どの歌にも命があって、歌ってる瞬間はその歌が生きてる。それは年数が経っても変わらないことだと思うんです。そういう音楽の命の長さ――使い捨てじゃなく、その歌は歌ってるかぎり忘れられずにそこにある。そういう存在の仕方を、この5年間、ライヴで歌っていてすごく感じました」
“恋愛モード”から“夢から覚めるまで”
――来年デビュー20周年を迎えるにあたって、エピック、ワーナー、ワンダーグラウンドと3つのレーベルをたどってきたこれまでの流れをあらためて振り返ってみると、どんな言葉が浮かびますか。
「うーん(しばし考える)」
――あんまり前向きな言葉が出てこないですか(笑)。
「(笑)そんなことはないですよ。やっぱり、恋愛モードですね。一言で言って“恋愛モード”から“夢から覚めるまで”の流れ。心情的に言ったらそういう感じですね。恋愛っていうものが自分の人生で最上級のプライオリティがあったんですよ(笑)。なんかもう、それがあって当然、じゃないですけど、ない自分は自分じゃないぐらいの勢いで、それをモチベーションにして、曲を作ってたんですよね。何をするにしても、音楽上でそれがもっとも大きいことだった。でも、このへん(ワーナー時代)になってくると、それがだんだんヤサグレてきて、最後、〈道〉でひとりになって終わる(笑)」
――なるほど(笑)。
「人生最上級のプライオリティをおいていたぐらいの価値観がゆらぐっていうのは、ある種大きな事件だと思うんですよ。自分内事変みたいな。京都に行ったことも大きかったんですけど、そういうことにプライオリティをおかない自分っていうのが、じゃあこれから何を歌っていくのかなとか、何をしていくのかなとか、何がしたいのかなとか、そういうことがこれからテーマになってくると思うんですよ、音楽上でも。だからそういう意味では、恋愛とか愛されることとか、そういうものを闇雲に求めてたひとりの女がいて、その女がいろいろ考えて、恋して旅をしてきたけど、たどりついたら結局ひとりだった、みたいな(笑)。でもそれは悲観的なことじゃないですね。さびしいとか、ネガティヴなことじゃなくて、“ひとり”ということの意味が40代になってやっとわかったということ。“ひとり”の強さの部分っていうんですかね、孤独なだけじゃなくて、自分の力を試すとか、限界までやってみようとか、ここから何をすればいいのか考えようとか、そういうふうに、ひとりしかいないからこそ出てくる力とかパワーとかって、昔はまったくわからなかった。ひとりなんかいやだと思ってたんですよ。いつもだれか居てくれないと、とか、誰か守ってくれないと、とか、誰かに愛されてないと、とか、やっぱりそれがすごく重要だったんです。でも、必ずしもそうではないんだっていうのがわかるまでの旅、みたいな(笑)。だから〈道〉で終わるのは、自分のなかではすごく帳尻が合ってるんですよ」
ひとりになって、ここからまた道が続いていく
――今回のベスト盤を通して聴いてると、“鈴木祥子”というひとりのミュージシャンの存在が、聴いていくにつれ、どんどん強く、鮮明になってくるという感じがしますね。
「最初は明るくサワヤカなところから、だんだん人生のキビしさを知って、ヤサグレてきて、最後はひとりになって終わる、と……。でもそこにちょっと希望がある気がするんですね。いろいろあるけど、ひとりになって、ここからまた道が続いていくっていうような、私としてはそういう思いを込めたつもりなんです」
――最後に、11月のライヴはどんな感じにしようと考えてますか。
「自分を正直に見せる方向でここ何年かずっとライヴをやってきたんですが、11月は、それとはまた違ったものを――エンタテインメントを――やりたいなと思います。自分、を極力排除して、見てもらい、聴いてもらうことで、すごく楽しくなったり、それこそ旅をするような気分になったり、そこにあたしっていう人間は介在せず、音楽だけしかないというような……。ちょっと漠然としているんですけど、自分を見せないというふうにしたいんですよ。たとえば
ROVOのサウンドって、“自分”はあんまり見せないですよね。でも歌うとどうしても自我が出てきちゃう。良くも悪くも自分の声だし、自分になっちゃうんですけど、その自分、というフレームから出て外に開いてゆくような感じ――それが歌ものでできたらどんな感じなのかなって、最近ちょっと思いますね。開いていって、そして自我が極力見えないもの。そういう歌ものってないかなって思っています」
――それは面白そうですね。誰とやるかはまだ決まっていないんですか?
「これから考えてみます。ROVOにやってもらっちゃったりして(笑)」
取材・文/藤本国彦(2007年5月)
鈴木祥子 LIVE SCHEDULE6月10日 京都磔磔
鈴木祥子×山本精一
6月17日 京都磔磔
鈴木祥子×豊田道倫
お問い合わせ : 磔磔(075)351-1321
7月14日 京都拾得
鈴木祥子×JB (渕上純子(ふちがみとふなと& bikke(ラブジョイ))
7月21日 京都拾得
鈴木祥子×勝井祐二@浴衣de♪デュオ
(問:拾得[Tel]075-841-1691)
8月16日 南青山MANDA-LA
“SHO-CO-JOURNEYへの道@A,B面でたしかめて”
(問:[Tel]03-5474-0411)
11月11日 東京・品川ステラボール
鈴木祥子ライヴシリーズ2007 EX "SHO-CO-JOURNEY" 〜20周年への道〜
(問:ディスクガレージ[Tel]03-5436-9600)