インターネット上にトラックメイカーが提供するトラックを使って、ラッパーがオリジナル楽曲を制作。動画投稿サイトで発表するという手法で広まった“ネットラップ”。第2の音楽活動現場として注目を浴びるこのシーンより生まれた初のメジャー・アーティスト、
らっぷびとが1stアルバム
『RAP MUSIC』を発表。ともすればエンタメ性ばかりが取り上げられる環境の中から、純然たる“音楽”としての評価をリスナーから受け、見事デビューを果たした彼に話を訊いた。
パブリック・エネミーが2000年近くに「音楽の流通はネット活用がこれからの主流になる」といったニュアンスの発言をした時、多くの人間がそれにリアリティを感じることが難しかった。しかしネット・インフラの整備と高速化によって、その予言が正しかったことが証明され、音楽を取り巻く環境を一変させる要因となっている。そして、ネットから活動をスタートさせ、注目度を高め、メジャーに転身したのが、今回登場する現在21歳のラッパー“らっぷびと”である。
ここまではよくある話だが、現在(特に東京)のクラブはIDチェックが厳しく、未成年は深夜イベントには当然入ることはできない。そこで彼は情報源や活動フィールドとして、インターネットを選択した。
「あるヒップホップ・サイトに自作の音源をアップできるコンテンツがあって、そこで誰かがアップしたインストのトラックに、ラッパーはラップを乗せてアップし直して、批評し合うって場があったんですね。そこで僕もラップを発表しはじめたんです」
そして“YouTube”や“ニコニコ動画”といった動画投稿サイトが活性化するにつれ、彼の作品作りも本格化していった。
「特にニコニコ動画では、アニメ『さよなら絶望先生』のオープニング・テーマの〈人として軸がぶれている〉(大槻ケンヂと絶望少女達)にラップを乗せた作品をアップしたら爆発的な再生数やコメント数を叩きだして、そこで一気に注目された感がありますね」
ネットを中心に活動していた5〜6年の内に400曲近くの楽曲を制作し、その動きの中で出会った人間たちとアルバム
『RAP BEAT』を完成させ、昨年8月にインディでリリース。その勢いのまま、一年も経たずに今回のメジャー・アルバム『RAP MUSIC』を完成させた。そこには、さまざまなジャンルを横断しながら、それらをラップという表現で結着させる、彼の音楽的姿勢が表われている。
「ハウスやアニメの曲だったり、いろんなジャンルにラップを乗せて“RAP MUSIC”として昇華する。それが僕のやりたいことなんですよ。だから、軸をラップに置きながら、その方法論でどこまで行けるのかを試してみたいんですよね」
ネットというテクノロジーを使った“ネットラップ”という表現手段で新しい出口をこじ開けた彼だが、そのオリジネイターとしての自負を言葉にしてもらい、この稿を閉じよう。
「ネットラップっていう単語をみんなに知ってもらって、参加してくれる人が増えると嬉しいですね。ネット発ということで、オタクって部分に偏見を持ってる人は、そういう人でもすごく良い音楽を作ってるってことを知ってほしい。今まではほとんどネットだけだったけど、これからはクラブでも音源でも、自分の音楽を出せるようになりたいですね」
取材・文/高木晋一郎(2009年2月)