いまや日本の音楽シーンの一角を担うジャンルとして確立された日本語ラップ。しかし、現在の流れに直結するであろう90年代中〜後半にリリースされた作品群は、残念ながら廃盤扱いとなっている作品が多く、温故知新が進化とも直結するヒップホップにおいてそれは大きな損失となり、世代間の断絶にも繋がってくる。しかし、“日本語ラップ黄金期セレクション”と銘打ち、まさしくその黄金期に第一線でシーンを構築した当事者である
BUDDHA BRANDのD.Lがセレクトしたコンピレーション『HARD TO THE CORE』を聴けば、あの時代に何が起こっていたのか、そして、なぜ日本語ラップは大きくなることができたのかという、事実の一端が垣間見れることだろう。
「日本にヒップホップが根付いて20年以上経って、これから聴くビギナーの人は何から聴けばいいか迷うと思うんですよ。そこでいろんな曲を掘り起こしつつ、俺っていうフィルターを通して、良い音楽、良い日本語ラップを提示したかったんです」と、日本語ラップへのガイダンスとして企画したという本CD。ただし、当然のことながらいわゆる売れ線の“J-RAP”を集めた作品になりようもなく、
YOU THE ROCK &
DJ BEN「Over The Border」や
MICROPHONE PAGER「Rapperz Are Danger」、そしてBUDDHA BRAND「Don't Test Da Master feat. LUNCH TIME SPEAX」といった、ハードコアかつ“日本語でヒップホップ/ラップを生み出すとは”というチャレンジの上で作り出された独自性溢れる作品ばかりである。その意味では“歪”であり、決して耳障りの良い作品ばかりではない。ただし、日本語ラップはこういった道程を経て、上記の作品がコアになって現在に辿り着いているのも事実。
「今回コンピを作ることになった理由は、ブッダの楽曲を、俺としては納得しがたいコンピに入れられてしまってたんです。それは権利関係の問題で俺には止められなかったんです。だったら、そういった安直なコンピに対抗できる、同じ土俵で勝負できるコンピを作らなきゃいけないと思ったんですよ。比べてどっちが格好良いのか、そのチョイスすら出来なかったことはリスナーにとっても不幸だと思ったので」
また、サンプリングが基調となった作品を中心として集められ、D.L流の美学がそこにも表われている。
「クリアランスの問題を始め、サンプリングでの楽曲作りはどんどん難しくなってきています。しかし昔はこんな良いものが日本にもあったってことを未来に残しておきたかった。そしてできるならば戻ってほしいとも思うんです」
今作の続編もすでに控えているという。
「続編は今回のトーンとは真逆で、
スチャダラパーの〈サマージャム'95〉や、
キエるマキュウの〈Do The Handsome〉、それからブッダの〈ブッダの休日〉みたいな、気持ちよく聴けて、食わず嫌いな人も一発で好きになるような優しい楽曲が中心。このシリーズでは必ず3枚は出したいと思ってるから、期待してほしいですね」
取材・文/高木晋一郎(2009年5月)
〈KOOL KEITH Japan Tour 2009〉
7/1@大阪 心斎橋 クアトロ
ゲスト:
・JUSWANNA
・ILLMATIC BUDDHA MC'S(D.L,CQ)&DJ HISA
7/6@東京 渋谷 O-WEST
ゲスト:
・JUSWANNA
・LUNCH TIME SPEAX
・ILLMATIC BUDDHA MC'S(D.L,CQ)&DJ HISA
※詳しくは“contrarede”オフィシャル・サイト(
http://www.contrarede.com/)へ。