2008年に6枚目のアルバム
『Path Of Independence』をリリースし、その後は23都市、25公演のツアーを無事に終了させた
平原綾香。彼女の次のステージは「以前から作りたかった」というクラシック・アルバムの制作に決まり、その第1弾としてシングル
「新世界」が5月27日にリリースされた。そんな彼女に新曲について話を訊いた。
デビュー曲でもある
「Jupiter」から、昨年リリースされた
「ノクターン」までのキャリアを振り返ってみても、平原綾香にとって“クラシック”という音楽は切っても切れない存在だ。そして、「ノクターン」のリリース後には“自立への道”を意味するアルバム『Path Of Independence』を発表し、新たな指針を高らかに謳った彼女は、昔から構想していたクラシック・アルバムの制作に満を持して取り掛かった。その第1弾が、
ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」にポップス・アレンジを施した「新世界」だ。
「〈新世界より〉を選んだのは、心にジーンとくる感動的なメロディだったからというのと、大きな理由は“新世界”という言葉ですね。アルバム『Path of Independence』のリリースを起点として考えて、いま自分の心はどこに行きたいんだろう、どこに行けばいいんだろうという迷いがあるなかだったので、新世界というタイトルがピッタリとはまって」
ドヴォルザークの「新世界より」は、日本でもポピュラーな曲。それだけに歌詞は何度も書き直し、難産だったという。作り手の意図をどのように受け取り、どのように自分のメッセージが込められるか、今回の制作はそこが大きなポイントでもあった。
「私は夕暮れ時の下校放送のような寂しいイメージよりも、“夜明け”をテーマに歌いたかったんです。この曲は、ドヴォルザークさんがアメリカ新大陸に渡って、そこから故郷のボヘミアを想って作られた曲なんですよね。だから“From the New World”ってタイトルになっていて。でも、曲を聴いていたら、“夜明け”を感じさせる動物たちの鳴き声や大地の目覚めも表現されているということも解って。だから、“From”ではなく“To the New World”というテーマで書いてみようと思ったんです。今回の制作は、いかにシンプルなメロディに言葉を当てはめるか、そして自分でアレンジしてシンコペーションを入れて作ったリズムにどうやって当てはめるか、そこに苦労しましたね。今回、特に感じたんですけど、詞を書くときは、真実が一番強いような気がしました。それに勝るものはないかなと」
そして、今回、作曲者の意図を掘り下げることによって、平原自身もクラシックの面白さを改めて実感したと言う。それが特に表われたのは「新世界」の一番の聴きどころでもあるサビで、複数の彼女の声がシンクロする部分だ。
「ハモリも自分の声を重ねて、ドヴォルザークさんの譜面を使って録りました。1ヵ所、メロディが変わるところがあってそこが一番聴いてほしいところですね。たぶん、彼が一番伝えたかった、何かの“答え”が見つかった瞬間なんです。作者の魂というか、何が一番したかったのかが、そこにあると思うんです。聴けば聴くほどクラシックって深くて、楽しめるものですよね」
そして、カップリングには、「アヴェマリア」が収録。この「アヴェマリア」は一味違うアレンジで、詞は彼女の音楽への情熱がストレートに表現された楽曲となった。
「〈アヴェマリア〉は、コントラバス奏者の
池松宏さんのCDを聴いてて、歌いたいなと思ったんです。クラシックなんだけど、ジャズっぽいアレンジでやってみたいなって。実際に池松さんにコントラバスもお願いしました。歌詞は、短い文章だから、逆に難しかったですね。“真実”を反映させるという意味では、音楽に対する気持ちを正直に歌詞に込めたところにありますね」
夢に向かって着々と歩を進めている彼女は、今回の制作ではとくに“伝えること”に専念している。その制作のなかで、今後の音楽性にも反映されるであろう3つのキーワードが浮かんだと言う。
「これからは“真・善・美”を外さずに作っていきたいですね」
取材・文/清水 隆(2009年5月)