「変わってないのはメンバーで、変わったのはやっぱり環境かな」
結成10周年を迎えての思いについて、真戸原直人(vo)は、まず、そう話し始めた。筋の一本通った生真面目なバンドだという印象のある彼らの個性は、真戸原が手掛ける言葉数の多い歌詞とシャープで手堅い演奏に負うところが大きい。それは新作『この場所に生まれた僕達は いつも何が出来るかを考えている』でも変わらないように思えるが。
「前作までは、しっかりとしたメロディと歌を歌いながら、完成度の高い音楽を作って、これがアンダーグラフです、こういうこともできます、と、自分たちを周りの人たちに見せたいという思いで必死だったんですよ。でも、今回は、ようやく、ミュージシャンとして、ひとつのテーマを持ってシンプルにアルバムを作りたいという思いでやれるようになりました」
どこかふっきれた表情が垣間見られたのは、そうした変化があったからかもしれない。そして真戸谷がアルバムのテーマに選んだのは――。
「“命”とか“生きる歓び”ということ。一曲目の「Birth」を楽器なしの編成で仕上げたのは、そういうテーマは、直接言ってもなかなか伝わりにくいんじゃないかなとか思ったからです」
真戸原は
ジョン・レノン好きだというが、歌詞に“ジョン・レノン”が出てくる曲が新作には含まれている。いわく“レノンの夢の再来を/いつまで待てばいいの?”(「Sekai-no-Kibou」)と。
「いがみ合う、傷つけ合うことのない世の中のことですね。〈イマジン〉に通じる? まさしくそうです。そういうメッセージを伝えているミュージシャンがいると知ったのはジョン・レノンが最初でした。“一番伝えたいことは、ハチミツをかけて伝えるのがいい”とジョン・レノンは言っていましたが、その“ハチミツ”の部分をメンバーと話し合いますね。シンプルに伝わっていくものを作っていけたらなって」
一方、新作にはメンバーががっぷり四つに組んだインスト曲「puberty」も含まれ、アルバムの世界観を作るのに大きなアクセントとなっている。
「〈僕に何が出来るか、考えている。〉が出来たときに、この曲は弾き語りでもいいと思っていたので、その時メンバーに“楽器でできる最大限のことをやってほしい”と提案したんです。メンバーのことも知りたかったので、一番かっこいいと思うのはどんな音なのかな?と思ってね。そうしたら、10パターンも出てきたので、それを繋ぎ合わせて、1曲にしました。こんなに激しいのはアンダーグラフっぽくないからやめようって、これまでだったら言っていたんですけどね」
「puberty」は、まさに新作のアルバム・タイトルに表わされた思考がひとつの形として現れた曲といってもいいだろう。そして、一皮向けたアンダーグラフは、この新作を引っ提げ、“何が出来るのか”をさらに模索しながら、新たな道へと進んでいくのだ。
「“僕に何が出来るか”――生きながらその答えを見つけていくのが、僕の人生の中の一番の目的というか……。それが大事だということを音楽で伝えるのは難しいと思うけど、たとえば“大切な人を愛してあげてね”とかそういう身近な思いって素晴らしいことだから、そういうメッセージを伝えることが、僕らが今、ここで出来ることなんじゃないかなと。そういうふうに思えたのはこのアルバムからです。やっと理想のミュージシャンに自分が近づいていけるんじゃないかな。このアルバムは、満足度が高いですね。自分に子供ができても、こういうアルバムを作ったんだと言える一枚になったと思っています」
取材・文/藤本国彦(2009年5月)