1980年にシネマの一員としてデビューして以来、
BOX、
ピカデリーサーカスなどでのバンド活動と並行し、ソロ・アーティスト/作曲家としてのキャリアを築き続けてきたポップ・マエストロ、
松尾清憲。
ビートルズ〜ブリティッシュ・ロックの伝統を継承しつつ繰り広げられるポップ・ワールド。松尾清憲にしか出せないそんな世界観を凝縮した最新作
『松尾清憲の肖像―ロマンの三原色』の発売を機に、話を聞いた。
(2回に分けて掲載します。前編は
こちら)
「同じような曲が並ばないように心がけています」
――6曲目の「A Song For Utopia」も新機軸ですね。「打ち込みを前面に押し出している曲がこれまでにほとんどなかったので、驚いた人もいたみたいです。“あれ? これ松尾くん?”って。
伊藤銀次さんには“これよかったなあ、
ライトニング・シーズみたいで”って真っ先に言われました。でもこの曲は、作ったときからそっちのアレンジを少しほしがっている曲じゃないかと思っていたんですよ。でも、まったく打ち込みだけでも……と思って、バンドの生とどうミックスさせようかと、いろいろやってみて、それがけっこう面白かったですね。あ、この路線も行けるなって。今まではむしろ、下手したら避けていたかもしれないから」
――次の「彷徨えるBeast」は荘厳な感じですが。「これは松尾っぽいですね(笑)。自分でもそう思います。1曲目に通じるヨーロッパ風の曲。始まりはオルガンでね。イメージとしてはちょっと『オペラ座の怪人』。シアターでパイプオルガンのような楽器を弾きながらストーリーが始まるという。歌詞の内容は怪奇映画っていうわけじゃないけど、狼男のように月の夜に人間の野性が目覚めるみたいな感じで。サウンド的にはビートルズ的でもあるような気もするんですけど、基本はね。でももっとプログレの雰囲気もありますし、途中演劇っぽくなるんですよ。そういう映像的な要素を少し入れて、それでできた曲です」
――「彼女はミステリアス」、これは……。「
杉(真理)くんとやった曲ですね。新作は全体的に曲もサウンドもビチッっと濃い――ま、いつも濃いんですけど(笑)、この曲は2人でジャガジャガやったみたいな感じです。そういうのがあってもいいかなと思って。ぼくが曲のモチーフをちょっと持ってて、杉くんと2人で曲を膨らませていって、で2人で生ギターを弾いて最初から最後まで一緒に歌っているんですよ。だから録音も実はすごく短くて、“せーの”に近い形で作りました。2人で作詞・作曲・歌・アレンジを――アレンジは小泉くんがインドっぽい打楽器を入れたり、生のヴァイオリンを武藤(祐生)さんが弾いたりしましたが、それ以外はほとんどぼくらがギターもエレキもパーカッションみたいなのも全部やりました。やってみたらこれが面白くてね。ドノヴァン的な感じっていうか」
――ちょっとゆるくだるいような感じ。「〈サンシャイン・スーパーマン〉や〈メロー・イエロー〉にちょっと通じるようなね。力を落とした感じですよね。だるくゆるい感じの微妙なところをセブンスっぽいコードでいってと」
――次の「Go Away From The Bad World」は、ピカデリーサーカスっぽいなあと思ったんですけど。「そうかもしれないですね。これはもう、ブリティッシュ・ロックの王道に最も近いロックかと。だからこの曲もどこにもってくるか悩んだんですけど、結局最後のほうがいいなあって。これは唯一ライヴでやったんですよ。去年に1回だけ人前で」
――最後の「カレイドスコープの王国」のようなバラード・タイプの曲も松尾さんには珍しいかと。「こういうのはなかったかな」
――ここまでシンプルなピアノの歌というのは。「バラード・タイプの曲でも、もうちょっと凝ったりしますもんね。
ローリング・ストーンズのバラード的な曲と言ってもいいかもしれませんね。タッチは違うけど、
ブライアン・ジョーンズがいたころのバラード・タイプの曲……わかりますよね(笑)」
――「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」とか。「そうそう、あのへんのイメージかなと。ぼくには珍しいです、これ。曲調としても。アルバムの最後の曲にふさわしいだろうと」
――全10曲、ここまで表情の異なるポップ・ソングが入っているアルバムもまた珍しいですね。「アルバムを作るとき、同じような曲が並ばないようにいつも心がけているので、どんどん変わっていきますよね。まさにカレイドスコープのように(笑)」
お披露目ライヴ、そして秋にはシネマの新作も
――これまでにシネマやBOXやピカデリーサーカスなどのバンドでも活動をしてこられたわけですが、それらの作品とソロ・アルバムとの作り手としての違いはどのへんにありますか。「BOXやピカデリーはビートルズをある程度意識して、それが共通語的なところがあります。ピカデリーは、ブリティッシュ・サウンドの縛りをある程度意識して作っているところもありますね。シネマもブリティッシュなんだけど、BOXともピカデリーともぜんぜん違う。みんなが聴いている音楽の年代も人も違うので、その違いが作品に面白く反映されるんじゃないかなと思ってます。自分のソロでももちろんビートルズも含めるんですけど、いろいろなタイプの曲をもっと自由に作っているところがあります。“なんでもあり”みたいなね。自分のソロの場合は、マイナーもメジャーも含めて、その揺れ幅が大きいほどいいという感じですかね。シュールなところからすごくポップなものまでの両端に自分の中で好きなのがあって……。マイナーとメジャー。古いのと新しいの。デジタルとアナログ。そういうのが同居しているのが好きなんですよね。どっちかだけっていうのじゃなくて」
――この3年半の間に、シネマのベスト盤やピカデリーサーカスの紙ジャケ再発もありましたが、シネマの新作は今どんな状況になっていますか。「今はレコーディングの真っ最中です。曲はもちろん全部できていて、これからヴォーカルとかコーラスとかいろいろ入れるところです。たぶん秋には出ますね」
――最近ではスタジオ・ジブリの『イバラード時間』にも関わっていらっしゃいますが、これも出るまでに時間がかかったんですよね。「環境音楽的なDVD画集のようなものを出そうということで始まったんですよ、
井上直久さんと。そのためにぼくと
小室(和幸)くんとで曲を作っていたんですけど、その企画自体が流れてしまって。でも
宮崎駿さんが井上さんの絵のファンで、井上さんは『耳をすませば』という映画の途中の夢のシーンを描いているんですよね。それで、ジブリとのコレボレーションが実現したんです。
『ゲド戦記』と同じ発売日なので、『ゲド戦記』の横にぼくらのも一緒に並べてあります」
――どんな曲が入っているんですか。「インストですけど8曲入っていて、そのうち小室くんとぼくが3曲ずつ書き、共作が1曲あります。音楽のサウンド・プロデュースも2人でやりました。ぼくの3曲は、1曲はアイリッシュとビートルズが一緒になったような感じの曲ですが、コーラスもけっこう入れてるので、聴けば松尾だとたぶんわかる(笑)。あとは
ティム・バートンの
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』みたいな感じのと、ヴァン・ダイク・パークス風の曲です。インストものを映像で前からやりたかったので、ソロやシネマの新作もそうですが、今年は面白いタイミングでぼくの作品がいろいろと重なっているんですよ。“今やれってことかな”と思ってますけどね(笑)」
――そして9月に渋谷DUOでライヴがありますね。「新作は、アレンジにいろいろ時間をかけたので、これをライヴでどんなふうにできるんだろうかというスリルがありますね。このアルバムの曲を中心にやって、あとは松尾の今までの、らしい曲をやることになるだろうと思います。やっぱり新曲が入るとライヴもぜんぜん違いますしね。ドキドキワクワクしてます。あとギターも岡崎さんに変わるので。新しい何かが生まれるような気がします」
取材・文 藤本国彦(2007年7月)
■松尾清憲 LIVE SCHEDULE■“New CD「松尾清憲の肖像」発売記念ライブ!!「ロマンの三原色」”
9月9日
Shibuya DUO -Music Exchange-OPEN 17:00/START 18:00
前売:\\5,500/当日:\\6,000(tax.in)
【出演】 松尾清憲&Velvet Tea Sets 【ゲスト】 堂島孝平
※メンバー:松尾清憲(vo,g)、小室和幸(b,cho)、朝倉真司(dr,cho)、西村純(key,cho)、小泉信彦(key,g)、岡崎敏之(g)
※問:
CLUB CITTA' / [Tel]044-246-8888