前作
『ROCK ALBUM』から約1年。その間に、
砂原良徳と久しぶりに組んだ
「Deadly Lovely」も含む3枚のシングルをリリースし、多彩な創作欲求を誇示していた
iLL=中村弘二。そんな彼が、早くも最新フルアルバム
『Force』を発表。神秘的なカヴァー・アートに包まれた本作は、アンビエントの静謐さとポスト・パンクの切れ味、エレクトロニックなロックなどがクリアに収斂され、iLLでしか成しえないポップ・アルバムに仕上がっている。そんな“新境地”へと到った中村が、『Force』について語った。
――前作『ROCK ALBUM』は文字通りロックなスタイルに則ったバンド・サウンドのロック・アルバムだったわけですが、世間的な評価として「ナカコーのロックが帰って来た」という評され方もされていたアルバムでした。改めて振り返って、あのアルバムは中村さんにとってどのような意味を持ったアルバムだったのでしょうか?
iLL(以下、同) 「あのアルバムは、時間にすると1週間くらいしか時間をかけずに作ったアルバムだったんです。ドラムの
沼澤尚さんと、ベースの
ナスノミツルさんと一緒に、ロックみたいなことをやったらどうなるんだろう? ということで取り掛かって、一瞬で出来上がったようなアルバムで。だから、作品というより記録的な意味合いが強かった。実は、『ROCK ALBUM』の前に、発売していない別のアルバムを作っていて、そっちはなんというか、変なアルバムだったんですよ(苦笑)。『ROCK ALBUM』は、そこからポップになろうと思って作ったアルバムだったんです」
――今回の『Force』は、アンビエントもロックもテクノもエレクトロもポップに収まった、ニュートラルな性質の強いアルバムだと感じました。
「そうですね。イメージしていたのは“偏らない音楽”というもので、何の予備知識もなく聴けるような作品を作ろうと思ったんです。今回は、誰もが聴きやすいと思えるようなアルバムにしようと。今まで、僕の音楽にまったく触れたことがない人も、聴いてくれるような作品というか。聴き手は選ばずに作りたい、と思って制作に臨んだアルバムですね」
――逆に言うと、これまでの作品は“聴き手を選ぶような作品”だったと?
「今までは、“こういう作品もあって良いんじゃないか?”と提案していくような作品が多かったと思っています。たとえば、僕は歌がなくても成立している音楽であればそれでいいと思っているんですけど、一般的な意見としては、歌がないと不安らしい。そういう意見があっても、僕は今まで“自分が良いと思ったものを作る”というスタイルでやってきて、その時々に自分が感じたことの記録のように音楽が残っていれば良いと思っていたんです。ただ、歌がないと不安になる気持ちも、何となくわかるんですよ。だから今回は歌モノのアルバムを目指して、自己満足ではなくて、不特定多数の人が好きなように聴いて“良い”と思えるものを作る、ということが大前提にありました。だから『Force』は、僕が考えるポップさと、世間的なポップさ。両方が合わさった作品なのかな?って」
――それは中村さんの中に何か、決定的な意識の変化があったからなのでしょうか?
「前はもっと、聴いてくれる人が求めている音楽が見えやすくて、それに応えたり、裏切ったりしながら音楽を作っていたんですけど、やっぱり、時代が変わったんだと思うんですよ。ネットで情報の行き来が速くなって、誰でも世界の音楽をリアルタイムで聴けるようになった。固有の音楽のスタイルが流行を左右するようなことって、今はまだ残っているけど、今後はもう消滅すると思っていて。そう考えると、より多様性のある音楽の方が、意味があるんじゃないかな?って」
――ピンク・フロイドの『狂気』を想起させるカヴァー・アートにも、プリズムという多面的で多角的な視点を意識させるモチーフが使われていますよね。 「そうですね。ひとつの光が七色に変わるという、シンプルな美しさが好きで。そこに、フリーメーソンのシンボルのように、力強さの象徴として目が入っているという。そういった要素はアルバムのイメージと近いかもしれないですね」
――本作は無音の曲が後半に入り、ラスト・ナンバーに到るという構成を持っています。つまり最初から最後まで通して、音盤単位で聴くべき作品なのかな?とも思ったのですが。
「必ずしもそこを強制するつもりはないのですが、自然と“音盤の意味をもう一回見直そう”という作品になっていたんです。トラックを操作することで、聴き手に音盤を意識させることができるというのは、発見でした。こういうアプローチにも気付かせてくれた、僕にとっては意味深いアルバムになりましたね」
取材・文/冨田明宏(2009年7月)
〈iLL『Force』Live〉
●10月30日
●東京・代官山UNIT
●開場18:00/開演19:00
●前売り3,500円 当日4,000円(1drink別) オールスタンディング
●主催:HOT STUFF PROMOTION
●企画・制作:HEARTFAST/DOOBIE
●お問い合わせ:HOT STUFF【www.red-hot.ne.jp】 03-5720-9999
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