30万枚のセールスを記録した
『つるのうた』から5ヵ月。
つるの剛士から早くも2枚目のカヴァー・アルバム
『つるのおと』が届けられた。選曲、アレンジ、ヴォーカル・スタイルのすべてにおいて“自分らしさ”を色濃く反映させたという本作からは、歌い手としての彼の存在意義がしっかりと感じられる。
――1stアルバム『つるのうた』は、つるのさんのお子さん(長女)の名前でもあって。リリース前から「次のアルバムは(次女の名前である)“つるのおと”にしたい」って言ってましたよね。
つるの剛士(以下同)「あ、言ってました? じゃあ、有言実行だ(笑)」
――そうですね。こんなに早くリリースされるとは思いませんでしたが。
「僕としては1枚目と2枚目で2枚組の感覚なんですよ。『つるのうた』を作ってるときから“次はこれを入れたい”“この曲も歌ってみたい”っていう曲がいくつもあって」
――なるほど。『つるのうた』はたくさんのリスナーに届いたわけですが、つるのさん自身の手ごたえはどうですか? 「嬉しいですよね、ホントに。最初は正直言って、不安もあったんですよ。歌をちゃんとやったことのない自分がカヴァー・アルバムなんて、ホントにいいのかなって。その不安が解消されたのは、実際に僕のCDを買ってくれた人を見たときなんですよね。奥さんの実家に行ってるときに近所のCDショップに行ったら、中年の男性の方がレジに『つるのうた』を持っていって。それはやっぱり、ちゃんと歌が届いてるからだと思うんですよね」
――羞恥心のブームとは違うところで、つるのさんの歌を聴いてる。 「そうそう。そのときに思ったんですよ。次はもっと自信を持って、自分から発するものを届けようって。だから今回は、さらに“つるの色”が出てると思いますね」
――それは具体的に言うと……。
「まず、選曲ですよね。〈愛をくれよ〉(
福山憲三/1994年)っていう曲、ご存じでした?」
――いや、なんとなく聴いたことがあるな、っていう……。
「この曲、僕は初めて出演したドラマ(『青春の影』)の主題歌なんですよ。隠れた名曲っていう感じなんですけど、僕のなかではすごく思い出のある曲で。自分自身のルーツだったり、思いが入ってるっていうのが、今回の裏テーマなんです」
――なるほど。以前、“ルーツは洋楽。歌謡曲はほとんど知らない”って言ってましたが、今回歌ってるなかにも、知らなかった曲はありました?
「ありましたね。〈翳りゆく部屋〉(
荒井由実/1976年)なんて、まだ原曲を聴いたことないんですよ。
エレカシさんのヴァージョンは聴いたんですけど(笑)。あと、〈ラヴ・イズ・オーヴァー〉(
欧陽菲菲/1979年)も原曲を聴いたのはレコーディング・ブースの中だったし……この曲を初めて聴いたのは、スナックのカラオケなんですよ。知らないおじさんが歌ってて、“うわあ、いい曲だなあ”って思って」
――(笑)原曲を知らないで、歌えるんですか?
「その曲に対して、自分自身をぶつけていく感じですよね。だから、アレンジもあえて原曲に近い雰囲気のままにしてるんです。そこで思い切り歌って、“僕が歌ったらこうなりました。どうでしょう?”って提示するというか」
――小細工なし、ですね。
「小手先でやっても意味ないし、そもそも技術がないから出来ないんですよ。歌に関してはもう、“丸出し”って感じですよね。僕、ハスキーな声がコンプレックスだったんです。“こういう声、女の人は気持ち悪いだろうな”って思ってた。でも、そうじゃないんですよね。しゃがれた声がいい、って言ってくれる人も多いし、ふだんの僕を知ってる人のなかには“ちょっとキレイに歌いすぎてるんじゃない?”っていう意見もあって。そういう部分でも、“らしさ”が出てると思います」
――10月からは全国ツアーもスタート。歌手としての活動も忙しくなりそうですね。
「念願でしたからね、ツアーは。やっぱり歌はナマで届けるものだと思うし、そこでどんなことが出来るのか、自分自身も楽しみで。NHKホールや代々木体育館で歌わせていただいたときの経験が忘れられないんですよ」
――気持ちいいもんですか、やっぱり。
「気持ちいいというより、何千人、何万人が一つになったときの空気ですよね。いま、これだけの人が一つの時を過ごしてるんだって実感できる……あの感動は何度もでも味わってみたいです」
取材・文/森 朋之(2008年8月)