2007年発表の2ndアルバム
『MELODIES MELODIES』がクラブ・ミュージックとしては異例となるオリコン総合アルバム・チャート13位を記録、また昨夏にはスタジオジブリの名曲をハウス・アレンジでカヴァーしたアルバム
『the ジブリ set』が30万枚超の大ヒットを記録するなどダンス・ミュージック・ファンのみならず幅広いリスナーから支持を集めているハウスDJ、
DAISHI DANCE。待望のニュー・アルバム
『Spectacle.』は彼の持ち味であるドラマティックでメロディアスな楽曲展開はそのままに、「これまであえて封印してきた」というシンセサイザーを多用し、また
吉田兄弟の三味線を大胆にフィーチャーした楽曲が収録されるなど、サウンド・クリエイターとしての新たなフェイズを感じさせる一枚に仕上がった。
──前作から2年ぶりの新作アルバムは冒頭のフィールド・レコーディングされた自然音にネイチャー感とハウス・ミュージックの関係性を意識させられます。
DAISHI DANCE(以下同) 「特に意識して、そういうアルバムを作ろうと思っていたわけではないんですけど、僕の生活は札幌を拠点に、毎週末、飛行機や電車で移動しながら、全国各地をDJで飛び回っている日々なんですね。で、ここ数年はその移動時間に作品の構想を練ったり、曲のアイディアを思い浮かべたりしているんですけど、その車窓って、都市部じゃなく、田舎であることが多いので、そういう影響が作品に反映されているんじゃないかと思いますね。曲でいうと11曲目の〈Travel in Nature〉なんかは、まさにそうやって生まれた曲で、長野に向けて特急で移動しているときにタイトルや構成を思いついたんです」
──今回の作品ではシンセサイザーを多用していたり、テック・ハウスの要素を盛り込んだ「Renovation」に象徴されるダンス・フロア・フレンドリーな要素が増していますね。
「いいところを突きますね(笑)。2006年のデビューから前作までの3年間は自分が出したい色だったり、世界観を反映させるべく、オリジナルとリミックスの作業を分けて考えたうえでDJ的な要素を排除して、かけるエフェクトをナチュラルにしたり、ピアノやストリングスと同じくらい説得力のあるシンセサイザーもアコースティックでまとめるために封印して、メロディ重視のトラックを作ってきたんですけど、それが前作で納得いく形で表現できたんですね。だから、今回のアルバムではここ数年で結構な数をやらせてもらったリミックスの手法だったり、毎週やってるDJで即戦力になりそうなビート・トラックを優先させて、そこに自分らしい上モノを足していったんです。長らくやりたいと思っていた吉田兄弟の三味線をフィーチャーした〈Renovation〉なんかも以前だったらもっとメロウな感じで作っていたと思うんですけど、今回はもっとアッパーだったり、ハードめなトラックで攻める感じの三味線を弾いてもらったり、今回は封印していたシンセサイザーも制限なく使っていますね。もちろん、それは自分らしさがあっての話なんですけど、そういった要素を足していったのが今回の3rdアルバムですね」
「そうですね。生ピアノに近い音源ではなく、90年代からあるKORGのちょっと歪んだピアノの音源を使っているんです。僕は90年代のピアノ・ハウス全盛期にDJを始めて、今でもその辺の音が一番好きかもっていうくらいなんですね。90年代のハウスって、長く聴けるし、1曲の寿命というか、ヒットのスパンが長かったんですね。そういう長く聴ける要素は1stアルバムの頃から人に見えないところで入れてきたつもりですし、リミックスにしても90年代ハウスを自分のフィルター越しに表現してきたので、〈FOREVER FRIENDS〉では自分のルーツとなる90年代的なテイストをモロに出したつもりです」
──ヴォーカリストやコーラス・グループ、三味線奏者にヴァイオリニストといったゲストに関してはいかがですか?
「ゲストの方々はいいと思っているからお願いしているわけで、今回のCOLDFEETやarvin homa ayaちゃん、
麻衣さん、
金原千恵子さんなんかがそうなんですけど、基本的に一回お願いしたら、レギュラーでお願いするようになっていて。あと、
中島美嘉さんは彼女のシングル
〈SAKURA 〜花霞〜〉でリミックスをやらせてもらって、僕のトラックと透明感がある歌声の相性がいいなと思ってましたし、三味線の吉田兄弟や
姫神さんは音楽制作を始める前から作品を聴かせていただいていて、いつか頼めたらいいなって思っていたんです。そうした新たなコラボレーションはこれまで作ってきた2枚のアルバムが名刺代わりになったからこそ長年の夢が実現できたと思います」
──これだけ盛りだくさんな要素がうまく1枚にまとめられていますね。
「今回のアルバムは聴きながら頭の中や実際に旅をしてほしいと思っているんですけど、曲によって、スピード感のイメージが違うので、意外性ってことも考えながら、緩急を付けたり、できた曲を並び替えました。アルバム1枚、トータル80分弱で表現した旅を楽しんでもらいたいですね。DJ的な要素を増やしたとはいえ、DAISHI DANCE名義だとメロディアスなものを期待するリスナーは多いだろうし、自分もそういうものがやりたくて作品を作っているので、ここから先、もっとダンス・フロアに特化したものは来年以降、別名義でやりたいなと思っています」
取材・文/小野田雄(2009年9月)