“STRUGGLE FOR PRIDE、やべえ”と口にしていれば、ちょっとカッコイイ。……そんなキモチ悪い風潮もあった。もうちょっと素直な人は「興味があるけどライヴ、ちょっと怖くていけない」なんていう場合もあった。そんな言葉を耳にするたびに、悲しくなったり、腹が立ったり、あんなにハッピーな存在を怖がってしまうことに驚いたりも、した。アルバム
『YOU BARK,WE BITE』(2006年)発表後、しばしのバカンスを経て、活動を再開した
STRUGGLE FOR PRIDE (以下、SFP)。
カヒミ・カリィ、
NIPPS、そしてSTARRBURSTが参加した
『CUT YOUR THROAT』をfelicityよりリリースしたばかりの今里氏に話を訊いた。
――SFPの結成の経緯を教えてください。「周囲の友達みんながSFPのメンバーであり自分たちは音楽担当」とおっしゃっていることもありますが……。
「きっかけは……うーん……俺らはそれ(音楽)ができるからやったほうがいいんじゃないかなっていう、ただそれだけなのかな。なんかこう……音楽に興味がない人たちもみんな遊びに来てくれて。各自みんなやること、音楽だけではなくそれぞれの役割? できることをやっているような感じで。“バンドをやっていこう”ってのはいまだに思ってないんですけど(笑)。ヒマだったんですよね。なんか……想像を絶するヒマさだったから、なんかやろうかな、っていう」
――メンバー同士、それぞれ一緒にやっていける人たちの出会いがあって自然に進んだイメージなんでしょうか?
「そうですね。自分はすごくいい環境にいると(当時も今も)思っているから。ライヴするにしても、音源を作るにしても、一緒にやろうよって誘ってくれる、言ってくれる人たちがいてくれて。河南さん(元
U.G MAN)とか、谷口くん(
GOD'S GUTSほか、less than TV主宰)が、一緒にやろうって名前を加えてくれるような状況があったから。特に具体的なきっかけや動機があったわけではないんです」
――〈RAW LIFE〉、avexからのアルバム・リリースと続いたことで特に注目を集めたこともあって、トラブルもあったと聞いていますが。
「基本的には俺、なにも考えてなくて。音楽担当だって言ってたけど、実はそこまではっきり自覚はしていなくて。けど音楽をやっていたことで、いろんな夢が叶って、カヒミさんと会えたり、好きな人と、会いたかった人と会えて話が出来たりしたから、すごく幸せだなと思っています。でもその反面、不自由になったことも事実で。いまだに時々すごくめんどくさいな、と思っちゃう部分はありますね」
――メジャー・レーベルからの作品だと、好きな人に声をかけて、ちゃんと参加してくださったお礼もできて、“正しく好き勝手ができる”ということなんですね。付随してどうでもいいことをいろいろと……特にインターネット上で言われていること、誤解されているような部分もあると思いますが。
「あれは……誤解じゃないですからね(爆笑)。批判は別にどうでもいいし。音楽で入ってくるお金よりも、自分たちが生活していくために身に付けている方法で、ちゃんと稼げるし。音楽で入ってくるお金に対して執着はないので、わずらわしいことを考えないですむっていうことはあると思う。俺たちは、別に音楽活動と金銭的なものを結び付けないでもいい環境にいるから……。石田さん(
ECD)とかもそうですよね? だからフツーにやっていけるっていうか」
――今回のアルバムについて教えてください。日本でレコーディングしたんですか?
「そうですね。今回は日本です」
――レコーディングの工程から楽しいですか? 追い詰められる作業も多いと思いますが。
「レーベルとかから話がきて……じゃ、どうしよっか!ってみんなで話をするところから、楽しいですね」
――他の参加ミュージシャンに関して教えていただけますか?
「すごく近い人ばっかりですね。STARRBURSTはもともとDJが好きで。MIX-CDもたくさん出していて、それも大好きで。今回の音源では最初からイントロとアウトロをお願いするって決めていて。曲を作ってるっていう話は聞いていたから“ちょっと聴かせて”って話を持っていったら、“好きに使ってください”ってCD-Rにいきなり40曲もらって。それが全部ものすっごい良くって。俺、選べなくて。あのCDは出すべきだと思うんだけど、ほんとに全曲良くて。その中から無理矢理選んで、2曲頂きました」
――残りの38曲が気になりますね。
「それはもうヤバいです。あれは絶対世に出るべきです。まぁ普通に何かできたら外に出すっていうのはみんながやってることだし、埋もれるのはもったいないと思うし、きっと外に出ると思います。選ぶ作業は最初、家でラジカセで聴いて。早送りなんてやっぱできないから、とにかく聴いて。バス乗るときにも聴いたり、時間帯とか何をしているかいろんな状況で変わるから」
――「SILVER MACHINE」は面白いですね。“カヒミ・カリィ feat.SFP”と言ってもおかしくない出来なのに、カヒミの声は今里さん並に音が小さい(笑)
「〈SILVER MACHINE〉で俺は、鉄琴をたたいてます(笑)。こんな風になった経緯としては
GUITAR WOLFとの
スプリットに、カヒミさんが俺らとやった
ナンシー・シナトラのカヴァー曲があって、カヒミの声が聞こえないってファンに言われたらしいんですよ。それなのに
『special others』(カヒミ・カリィのコンピレーション・アルバム)ではその曲を一曲目に収録してくれて“うわ、この人超熱い!”と思って。レコーディングが終わって、今回どうしましょうか、って言ったら全部お任せしますって言ってくれて。変にこっちが気を使おうとしちゃってたから、その言葉で“あ、好きにやればいいんだ!”って、はっきりして。好きにやらせていただきました。 カヒミさんはすごいっす。あの人、話してるだけでもすごいと思うし、許容範囲が広すぎます。俺が東京に戻ってきた時も、お帰りなさいって(カヒミの)事務所の方々と一緒に会を開いてくれて。……レコーディングとかの約束、途中で実現出来なくなっちゃったから、すげえ怒ってるんだろうなと思ってたのに」
――SFPの音源って、自分で聴きますか?
「あんまり聴かない。みんなと聴かないよねって話、この間もした。今はできたばっかっていうのもあると思うけど、完成しちゃってるからそんなに聴かないですね。……音源ってやっぱ残っちゃうから。記録に残るから音源とライヴは全く別の物だと思ってます。やっぱりちょっと違うじゃないですか。この間、
中原昌也さんに拉致られて(笑)、飲み屋で記録物とライヴの違いの話をしたんだけど、結論からいうと昔は楽譜だったよね、って話になって(笑)。昔っていつだよってのはおいても、楽譜を自分が書いて、人に渡して、それがその人なりに解釈されてやっていくっていう形だったわけですよね」
――ライヴは“ハッピーな暴力”としかたとえようのない空間になりますが、その素晴らしさとギャップのない音源があって。きっとメンバーで会議とかしているんだろうけど、リハもやらずにやってきました、みたいな顔して現れますよね。
「ライヴは単に友達と遊びたいから。パーティまではいかないですけど、週末とかに、貴重な時間を割いて遊びに来てくれるから、それはすごく楽しかったらいいな、と思うんで。俺もみんなに会えるし、会える場所があるから。ライヴはほんとそういうのだけで。楽しかったらいいな、っていう思いです。だって4人だけでやってもしょうがないじゃないですか。音源だけじゃなくて、ライヴを観に来てほしいとかもないですね。現場主義みたいなのすごい大嫌いで。病気してたり、物理的に来ることができない人だっているし、ライヴ行きたくないって人もいるだろうし。そういう人たちは聴いちゃいけないのかな? って疑問に思うし、すごく嫌だから。ライヴに来るとか来ないとか別にどうでもいい。俺だって好きなライヴを全部観たかっていったら、圧倒的に観てないものの方が多いんで。観てないからこそ膨らんでくるのも、楽しいじゃないですか。実際観たら、時差があったりして、アレ?みたいなのも含めて(笑)」
――自分たちの周りにいる、同じ意識の人たちだと思えるバンドやアーティストはいますか?
「やっぱりDREADEYEと
PAYBACK BOYS、周りの人たち。みんな考えていることも一緒だし、すごく楽なんですよね。彼らのライヴ観たり、音源を聴いたりすると単純にヤバいと思います。ライヴハウスに行ったりすると失望することも実際には多くて。酔っ払った古いパンクスがライヴを観もせずにわーっと騒いでて、この人たちは何がしたいのかなって思うような出来事がすごくオレは嫌いで。そういうことでがっかりして、結局なんにも変わってないのかなって思ったり。だけど、DREADEYEとかPAYBACK(BOYS)とかがライヴをやってくれて、観て、気分を持ち直してるじゃないけど、やっぱり俺はこういうのが好きなんだなって思わせてくれるから、すごく感謝しています」
――最近あえて出演リストから名前を外したりしてますよね?
「そうっすね(爆笑)。あれは……もう書かなくても別にいいかな……みたいな(笑)」
――(ライヴで後ろを向いて歌う)恥ずかしがりやの一環ですか?
「違う違う(笑)、なんか特に理由もないんですけどね」
――SFPのハッピーなエネルギーは本当に不思議だし、ジャンルや音楽性だけじゃない部分で、このエネルギーに引き寄せられる魅力があると思います。
「さっきのDREADEYEとかPAYBACK(BOYS)の話と一緒で、それは、俺の周りにいる人が、保たせてくれてると思ってます。 レコーディングの話をもらって、どうしようか盛り上がって、すっごい楽しいんですけど、でもスタジオ決めるくらいからやっぱり、めんどくなってきちゃって(笑)。でもスタジオに友達が遊びに来て、ただお菓子食べて帰っていくだけだったり、メシ食いにいったりして、どーでもいい話とかして、リラックスさせてくれて、家に帰れる。それのおかげで、ただそれだけでめんどくさい気持ちはなくなってるから。周りがほんと助けてくれてます。めんどくさいな……でもやったほうがいいよ……あ、そっかあ……みたいな」
――SFPはやっぱりハードコア・パンクのバンドですか?
「ハードコア・パンクです。なんかハードコアって言ったらみんなそれぞれ思いがありますよね。いろんな種類があるんじゃないかなって。相対的なものだって思うと気になっちゃうんだと思いますけど」
――ハードコアから教わったことって、何ですか?
「(1分近い沈黙)教わったこと……(沈黙)。まだ、わかんないすね」
――まだ教わっている途中?
「いつかすごい大嫌いになっちゃうかもしれないんだけど、好きな限りは、発見するっていうか……学び取れるものが多いので。まだわかんないっすね。ごめんなさい」
取材・文/服部真由子(2009年10月)