Port of Notes   2009/11/10掲載
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 新鮮な驚きを覚える一方、“今回が初めてだっけ?”というような気持ちも、どこかにあったり……。ジェシー・ハリスがPort of Notesのニュー・アルバムをプロデュースするという話を聞いて、まっさきに思ったのはこんなこと。考えれば考えるほどにしっくりくる、意外性と必然性を同時に感じさせる顔合わせ。出逢うべくして出逢った、というよりも出逢うことがあらかじめ宿命づけられていたかのように思える両者の音楽を介した美しい交歓は、このたび届けられたPort of Notesのアルバム『Luminous Halo(ルミナス・ヘイロー)〜燦然と輝く光彩〜』で、どんな言葉よりも明確に感じ取ることができるし、"言葉や国境の壁を越える"という音楽にまつわるクリシェをここまで自然な形で証明した作品も、実はこれまでなかったのではないだろうか。ニューヨークに飛び会心のニュー・アルバムを作り上げたPort of Notesの畠山美由紀小島大介に話を訊いた。
「ひとつの道筋だけを考えて、躊躇せずに進んでいく。ジェシーの決断力の強さは本当に凄いなと思いました」(小島)
──今回、どういうきっかけでジェシー・ハリスにプロデュースを依頼することになったんですか。
畠山美由紀(以下、畠山)  「一番大きなきっかけになったのは(ジェシー・ハリスをプロデューサーに迎えて2007年に制作された)私のソロ・アルバム『Summer Clouds,Summer Rain』ですね。ジェシーとのレコーディングではいろんな発見があって。シンガーとして表現の幅が一気に広がった気がするんです。いつか、また一緒に何かやれたらいいなと思っていたんですけど」
小島大介(以下、小島) 「僕も彼の作品は好きで聴いていたし、漠然とPort of Notesの作品をプロデュースしてもらえたらいいなと思っていたんだけど、実際にオファーしてみたら、すごく興味を持ってくれて」
──本格的にプロデューサーを迎えるのは今作が初めてですよね。
小島 「そうですね。瀧見さん(瀧見憲司:クルーエル・レコード主宰)から、曲によってアイディアをもらうようなことはあったけど、基本的には僕らに任せてくれたから。アルバム1枚通してというのは今までなかったです」
畠山 「時期的なものもあるのかな。10数年活動してきて、今までやってこなかったことに挑戦したいという気持ちが漠然とあったのかもしれないですね」
──作業の流れとしては。
畠山 「できあがったデモ音源をまずはジェシーに聴いてもらうというところからスタートしました」
小島 「それで最終的にプロデュースのオッケーが出たのが5月の下旬。スケジュール的には結構、タイトだったんですよ」
畠山 「それで曲をギリギリまで固めて、7月29日から8月6日までニューヨークでレコーディングして。いろんなことがドタバタと進んでいって。すごく暑い夏でした、今年は(笑)」
──(笑)。ジェシーとの間で事前に作品の方向を話し合ったりはしたんですか。
畠山 「シンプルなものを目指そうというのはお互い考えていたんですけど、基本的に今回はジェシーにお任せだったんです。デモを送ったらすぐに、アレンジのアイディアを書いたノートがジェシーからFAXで送られてきて。それを見たときに、ジェシーが曲に対するイメージを膨らませて楽しんでくれていることが分かったんですね。だったら、もう彼に全部、任せてしまった方がいいんじゃないかと思って」
──実際、一緒に作業してみて、ジェシーの仕事ぶりはいかがでしたか。
小島 「とにかくエクセレントでした」
畠山 「エクセレントだし、本当にパーフェクトだよね」
小島 「曲のニュアンスについても痒いところに手が届くというか。最終的にあらゆることが、ジェシーの思ったとおりになっているんです。最初になんとなく違和感を覚えたようなことでも、時間が経つにつれて、それがだんだん自然に思えてくる。たとえば曲順を決めるときも、ジェシーが考えた曲順をもとに、自分なりにいろいろ考えてみたんだけど、一晩経ってみたら、結局、彼が考えたものと一緒になってるんですよ(笑)」
畠山 「1曲1曲をレコーディングしている段階で、すでに作品全体のことを考えてるんでしょうね」
──ジェシーといえば、仕事が早いことでも有名ですが。
畠山 「とにかく集中力が凄いんです。ひとつの作業に取り掛かったら水も飲まないから」
小島 「無駄な作業をしないんですよね。普通はオッケーだと思っても、なんとなく、"もうワンテイク録ってみようか"となってしまうんだけど、ジェシーはそういうことを一切しないんです。オッケーだと思ったら次の作業に進む。しかも、ジャッジが的確だから、一緒に作業してると、あらゆる物事が全部正しい方向に進んでいるような気がしてくるんです。ひとつの道筋だけを考えて、躊躇せずに進んでいく。あの決断力の強さは本当に凄いなと思いました」
畠山 「変に欲深くないんだよね」
小島 「そうそう。変に深追いしない。レコーディングのときって、演奏を通じて、そのときにしか出せない感情というのがあって。最初は新鮮な気持ちで楽しみながら演奏していたのが、テイクを重ねるにつれて、だんだん、"正確な演奏をしよう"という意識に移り変わっていく瞬間があるんです。ジェシーは、その移り変わりの瞬間を的確に見極めてオッケーを出すんですよね」


「曲の雰囲気自体、洋楽とも邦楽ともいえない感じだし。すごく画期的なアルバムを作ることができたと自負しています」(畠山)
──レコーディングは基本的に一発録りですか。
畠山 「ベーシックは一発録りでした。みんなで、せーので演奏して。日本よりも全然、ラフな感じ。音漏れとか、演奏のカブリとか普通にあったり(笑)」
小島 「だから編集で直せないんです。でも、最初から直せないって分かっていると、意外にいい演奏ができるんですよね」
畠山 「参加したミュージシャンに共通しているんだけど、みんな楽しみながら演奏しているというか、どこか余裕があるんですよね」
──スケジュールはタイトなんだけど。
畠山 「そう。超タイトなんだけど(笑)。ひとつ事故があったら、うまくいかないようなレコーディングだったんだけど、現場の雰囲気はすごく良くて」
小島 「しかも夜になったらレコーディング終了なんですよ。11時に始めて、だいたい7時か8時には終わる。それからご飯を食べて、ライヴを観にいって、ホテルに帰って一杯飲んで寝るっていうのが毎日のパターンでしたね」
──ライヴは結構、観たんですか。
畠山 「そうですね。私たちのレコーディングに参加してくれたメンバーが出演するライヴを観にいったり」
小島 「ジェシーもよく演奏してるライヴ・ハウスがあるんですけど、そこは下北沢の440みたいな感じなんですよ。地元の人たちが集まってお酒を飲んだりしてるんですけど、そこはジェシーとかノラ・ジョーンズが普通に演奏してるようなお店で」
畠山 「みんな超有名なミュージシャンばかりなんだけど、全然、気取ってないんですよ。料金も投げ銭制だし(笑)。お客さんがいるなかで、ほど良い緊張感をもって演奏できるから、たぶん、地元のミュージシャンにとって、いい練習の場になっているんじゃないかな」
小島 「お客さんも楽しみながら音楽を聴いていて。この雰囲気はすごくいいなと思いましたね」
畠山 「サクっと演奏して、サクッと終わるんだよね。その感じもまた良くて」
小島 「レコーディングのときにも同じことを思ったんだけど、みんな構えてないんだよね。もしかしたらレコーディング自体、それほど特別なものだと思っていないんじゃないかな。だから、リラックスしてるし、こちらを構えさせることもないんだよね」
畠山 「そうすると、私たちも同じような気持ちになってきて。ニューヨークのミュージシャンは本当に素晴らしかったですね」
──技術的な部分はもちろん、マインドの部分でも。
小島 「そう。とにかく、みんなウェルカムなんです。どんなリクエストをしても"オッケーオッケー、やってみようか"って言ってくれて。本当にポジティヴなことしか考えていないというか。彼らと一緒にレコーディングして、自分はなんて細かい人間なんだと思いました(笑)」
畠山 「日本人には、どうしても外国人に対するコンプレックスみたいなものがあると思うんだけど、彼らは全然、ウェルカムだから。1週間しか滞在しなかったし、完璧に分かりあえたわけではないだろうけど、感覚的な部分はすごく共有できたような気がするんですね。〈真夏の眩暈〉という曲のミックスの最中、みんなでスタジオで踊り始めちゃったり」
小島 「あれは、いい空間だったね」
畠山 「そうそう。全然、踊るのが恥ずかしくなくて」
小島 「そういう、いい雰囲気がどんどん音に入っていく感じが、今回のレコーディングでは、すごくよく分かったんですよね」
──Port of Notesの曲について、ジェシーはどんな印象を持っていたんでしょう。
畠山 「とにかく私たちの曲を褒めてくれるんですよ。"君たちの曲には、僕らにはない日本人特有のフィーリングを感じる"って。そこに彼が持っているフレイヴァーを注ぎこんでいくのが、ジェシーにとっては、すごく楽しかったみたいですね」
小島 「〈夜明けのバラ〉という曲をレコーディングしてるときに、スタジオのオーナーが、その曲を"THIS IS INTERNATIONAL"と表現していて。日本語のクラブ・ジャズ的な曲をニューヨークのミュージシャンが演奏して、そこに生粋のブラジリアンが叩くパーカッションが乗っているっていう──全体的に今回のアルバムは、たしかにちょっとインターナショナルな感覚があるかもしれないですね」
畠山 「あと、曲によって解釈の仕方が違うのも、すごく面白かったよね」
小島 「〈心の半分〉という曲があるんですけど、その曲は、ジェシーとか地元のミュージシャンにとって、なぜか昔のディスコっぽく聴こえるみたいで(笑)。みんな"超懐かしい!"って喜んで演奏していて。その感覚が僕にも美由紀ちゃんにも、いまだに分からないんですけど(笑)、そういう解釈の違いみたいなものもすごく面白いなって」
──いい意味での誤訳というか。
畠山 「そうそう。でも、根本的な部分で通じ合ってるから、最終的には良いものができるんです」
──完成したアルバムを1枚通して聴いてみて、改めてどんな印象を受けましたか。
畠山 「そうですね……。すごく手前味噌なように聞こえてしまうかもしれないですけど、こういう作品って今までなかったように思うんです。曲の雰囲気自体、洋楽とも邦楽ともいえない感じだし。自分たちとしては、すごく画期的なアルバムを作ることができたと自負しています」
小島 「曲作りに関しては、すごく悩んで試行錯誤したんですけど、最後はすごく楽しみながらレコーディングすることができて。そういえばレコーディング最終日の夜、ジェシーと一緒に食事をしてたとき、彼がピザを片手に“YOU CAN DO WHATEVER YOU WANT(やりたいようにやりなよ)”ってストーンズみたいなことを言ってて(笑)。その言葉を聞いて背中を押された感じがしたんですよね。やっぱり、これからも自分たちのやりたいことを迷わずにやっていくべきなんだなって」


取材・文/望月哲(2009年9月)


【ジェシー・ハリスからのメッセージ】


このアルバムは、創作の喜びにあふれたアルバムになりました。
何か期待以上の、特別な生命が宿ったみたいな、幸福感とそしてちょっとのサウダージと。
Port of Notesとのレコーディングがとてもスムーズにできたことに感謝します。
それと二人の才能にも。
また日本で会える日を楽しみにしています。




This album was a pleasure to make.
It became something unexpected and took on a life of its own, with happiness and a bit of saudade too.
Thank you for being so easy to work with and so talented.
Can't wait until we meet again in Japan. All the best, Jesse.




〈Port of Notes “Luminous Halo” Tour 2009〉
●日時:11月15日(日)
●会場:沖縄・桜坂セントラル
●開場:16:15 / 開演:17:00
●料金:税込4,500円(ドリンク別 / 整理番号付)
●問い合わせ:桜坂劇場 [TEL] 098-860-9555


●日時:11月20日(金)
●会場:愛知・NAGOYA CLUB QUATTRO
●開場:18:00 / 開演:19:00
●料金:税込4,500円(ドリンク別 / 整理番号付)
●問い合わせ:JAIL HOUSE [TEL] 052-936-6041


●日時:11月21日(土)
●会場:岡山・エテパルマ
●開場:18:30 / 開演:19:30
●料金:税込4,500円(ドリンク別 / 整理番号付)
●問い合わせ:サウダーヂエンタテインメント [TEL] 086-234-5260

●日時:11月22日(日)
●会場:岡山・サウダージな夜
●開場:13:00 / 開演:14:00
●料金:税込4,500円(ドリンク別 / 整理番号付)
●問い合わせ:城下公会堂 [TEL] 086-234-5260(15時〜火曜定休)

●日時:11月23日(月)
●会場:大阪・SHINSAIBASHI CLUB QUATTRO
●開場:17:00 / 開演:18:00
●料金:税込4,500円(ドリンク別 / 整理番号付)
●問い合わせ:清水音泉 [TEL] 06-6357-3666

●日時:11月25日(水)
●会場:宮城・BACK PAGE
●開場:18:30 / 開演:19:00
●料金:税込4,500円(ドリンク別 / 整理番号付)
●問い合わせ:GIP [TEL] 022-222-9999

●日時:11月28日(土)
●会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM
●開場:17:00 / 開演:18:00
●料金:税込4,500円(ドリンク別 / 整理番号付)
●問い合わせ:HOT STUFF [TEL] 03-5720-9999(平日16時〜19時)
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