通算19枚目となるシングル
「COSMIC BOX」をリリースする
YUKI。色鮮やかなピアノに、ベースのうねりが添えられたイントロ。ジャズのセッションを思わせる自由で熱気あふれるサウンドが特徴的なこの曲は、<YUKIの頭の中にある世界>を「COSMIC BOX」と名付けて歌にしたのだという。どこか懐かしくて切なくて、それでいて体の底から湧きあがるような生命力を感じさせる1曲に仕上がっている。彼女がまた清々しく新しい扉を開いたようだ。
――どんな形で今回の制作はスタートしたんですか。
YUKI(以下、同)「〈COSMIC BOX〉は映画『曲がれ!スプーン』の主題歌としてのお話をいただいてから曲を探して作り始めました。この曲はどうしても生バンドでやりたかったので、ミュージシャンを集めるところから始めて。でも最初の段階からはBPM(テンポ)も変わり、もう少しゆっくりな曲だったんですけど、歌を合わせていったら速く、もっともっと速くという風になっていきました」
――ピアノがジャズっぽくてグルーヴ感がありますね。
「ミナチン(皆川真人)の生ピアノはやっぱりいいですね。すごく好きです。人が生で演奏する意味というのをとても感じて、幸せだなと思いました。私の頭の中で鳴っている音を出してもらうのにすごく時間がかかってしまったんですけど(笑)」
――生の、厚みのある音を求めていたんですか。
「そうですね。ドラムと、ベースもこれくらい動いていて。テンポがあまり一定ではないように感じるというか、突然変わるようなものもやりたかったし。少し曲から離れた話になるんですけど、ここ3年くらいライヴをやっていて思ったことがあるんです。私は大きな会場でやらせていただくことが多くて、ショウ的な部分を突き詰めていくライヴばかりをやっていましたし、キャパシティとか、リリースの関係もあったりすると、どうしても予定調和にならざるを得なくなって。それがちょっとなぁ、やっぱり予定調和から抜けたいなぁと思っていて。そういうこともすごく曲に影響しています」
――だから歌もすごく生々しくて、気持ちのまま歌ってるのが伝わってきます。
「すっごく早口で大変でした(笑)。本当はもっとやりたいです。私はもっとはみ出していてもいいなと思っています。それは言葉もだし、ピッチ(音程)も。すごく綺麗に歌うことも可能だけど、そうではないことをやりたかったから」
――歌詞では“誰かが残したシャベルを コックピットにして還ろう”という部分の“還ろう”を最後に繰り返し歌っているところが印象的です。
「“還ろう”という言葉が好きですね(笑)。やっぱり自分が一番居たいところにいるべきなんです。それはやっぱり場所ではなくて、どの人と居るかだなと思います。だから家族のことも歌っているのかな。きっと……何も不思議なことはないんだなと思うんです。それは自分の体の変化とか、子供を授かるということも神秘でもなんでもなくて。本当に昔から繰り返されていることで、繋がっていっている、いろいろな人たちが紡いでいっているもので。そこにはもちろん喜びはあるんですけど恐れのようなものはなくて、それを……受け入れているんだと思います。人はこうやって生まれて、ずっとずっと続いていくんだなって。続いてほしいという気持ちもありますけど」
――「COSMIC BOX」はそうした、今のYUKIさんが伝えたい気持ちがダイレクトに伝わってくる歌になりましたね。一時期はYUKIさんとリスナーの間に曲があって、そのひとつのクリエイティヴな世界を共有するような関わり合いだったと思うんですけど。また何か直接的なやり取りができる季節に突入してるんじゃないですか。
「それはそうかもしれないですね。なぜなら今の私は、自分の作品の発表に怖いものはないですから(笑)。そのくらい〈汽車に乗って〉から正直に作っていこうと思ったので。だから他の曲も早く聴いてほしいなと思います。今はやっと、“歌を歌うっていうのはこういう感覚だよな”って、凄く心地いいんです」
取材・文/上野三樹(2009年3月)