――今回のアルバムもポップでテンションの高いナンバーが並んでますね。なかでも、70年代ロックのテイストを強く感じたのですが。
「70年代のサウンドが一番好きなんだ。たとえば、
バッドフィンガー、
ラズベリーズ、
バズコックス、
ビッグ・スターなんかのサウンドがね。だからアルバム全体の雰囲気は70年代サウンドを意識したよ。とくにミキシングの段階で“もうちょっと、70年代っぽく”とかね。でも、作曲をしている時に、そういったバンドを聴いて影響を受けたりはしなかった。曲を作っている時は、一切音楽を聴かないんだ。自分の中にこもって、自分の内側から出てくるものだけで曲を書いている」
――きっと、あなたの音楽人生に70年代の音が深く根差しているんでしょうね。今回のアルバムでは
ビー・バップ・デラックスのカヴァーをやっていますが、とくにグラム〜パンク期のイギリスのバンドの匂いがします。
「13歳ぐらいの頃に、友達がイギリス系のパンク・バンド系のレコード・コレクションを持ってて、
ダムドとか
セックス・ピストルズ、
ザ・クラッシュなんかを初めて聴いたんだ。それがすごく新鮮でインパクトが強かったんだよね」
「そうだね。あの曲はパラダイスみたいな庭から、突然、宇宙に飛んで行ってしまうようなイメージなんだ。だからエイリアン的なフィーリングが欲しくて、サビに入るところのギター・サウンドを
『ジギー・スターダスト』みたいにしてみたんだ」
――さっき、「自分の中にこもって」と言われましたが、あなたはいつも曲作りから演奏まですべてを自分ひとりで手掛けていますよね。そうしたやり方を好む理由は?
「強力なエゴのせいかな(笑)。いやいや、それはジョークだけど、僕はギターも、ドラムも、キーボードも、あらゆる楽器が大好きなんだよ。だからちょっと子供っぽいかもしれないけど、最初から最後まで全部自分で作るのがすごく楽しいんだ。その過程を誰かとシェアしようなんて思わないな」
――以前、ロジャー・マニングにインタビューした時に同じ質問をしたら、「誰かと一緒にやると、どこかで妥協しないといけない。それが嫌なんだ」と言ってました。あなたもそういったところはありますか?
「あるかもね。僕に言わせればレコーディング自体が妥協なんだよ。頭のなかにスゴく素敵な曲があったとしても、録音した段階でどこかで妥協してしまっている。だって、頭の中にパンパンに詰まっている音を100%再現することなんてできないからね。だから誰かと一緒にレコーディングすることで、レコーディングという妥協からさらに妥協したくないんだ」
――そんなあなたとロジャーが、かつて
ジェリーフィッシュというバンドに一緒にいた。それってかなり大変そうですね(笑)。
「ジェリーフィッシュの時は確かにちょっとヤバかったね(苦笑)。
ティーヴィー・アイズでは2人とも歳をとったおかげで協力できるようになったけど、ジェリー・フィッシュは厳しかったな……」
――ともあれ、あなたが作り出すサウンドはジェイソン度100%ってことですね。そんななかで、ProToolsやコンピュータを使わず、ライヴ感のある演奏とミックスが印象的です。
「そう、演奏している感じが強いだろ? 今の時代はコンピュータで切ったり貼ったりして編集しながら曲を作っていく。僕はそういうやり方が好きじゃないから、最後まで繰り返し繰り返し、何度も自分で演奏してレコーディングする。その音源を後でミキシングして仕上げていくんだ」
――カット&ペーストをしないのは曲のエモーションが失われるから?
「その通りだよ。ストーリーを語るように曲を作りたいんだ。たとえば同じコーラスだとしても、曲の頭に入るのと最後に入るのとではノリが違うだろ? 編集でこことここに入れればいい、というのではなく、積み重ねながら全体のムードを作っていくことが重要なんだ。曲作りはストーリーテリングだから、ストーリーを語るためには、曲の最初から最後までの流れや空気を大切にしないとね」
――あなたの曲を聴くと、まずメロディ・ラインが耳に入ってくるんですが、聴けば聴くほどサウンドが重層的に構築されているのがわかります。音作りにはかなり時間をかけるんですか?
「僕にはソングライターの面と同時にプロデューサーの面がある。普通だったら、まず曲を作ってからスタジオに入り、そこで曲を仕上げるプロデューサーの出番になるよね。僕の場合は作曲とレコーディングが同時に行なわれるんだ。60%ぐらい曲ができた段階でレコーディングに入って、レコーディングしながら完成させていく。でも曲を書き始める時は、とにかく直感に従って、満足するまで自分のペースで書き続けるんだ。「こうすれば、ああなる」なんて計算なんかせずにひたすら書き続ける。そうやって、まず自分がイメージしている曲を書ける状況を作っておいて、後でプロデューサーとして曲を整えるというか。そうやって、ソングライターの面とプロデュースの面を僕なりにきちんと分けて曲を作ってるよ」
「ワオ! ダニエルとは4日間ぐらいしか一緒にいなかったんだけど、5年くらい老けた気がするよ。ということは、1日で1年は老けたわけだ(笑)。ダニエルはロスに来て、デモとして25曲、ヴォーカルとギターを演奏して帰った。僕は4〜5週間、『ALL QUIET ON THE NOISE FLOOR』を作ったのと同じスタジオにこもってアレンジや音作りの作業をした。で、彼がまた戻って来て歌を入れたわけだけど、新しいアレンジに対して全然反応がないんだよねー」
――それは大変でしたね(笑)。あなたとダニエル、2人が大好きな
ザ・ビートルズの話で盛り上がったりはしなかったんですか?
「う〜ん、ちょっと違う感じだったな。彼は音作りには関わらなかったからね。でも、僕が作ったトラックを聴いて「(ダニエルの声をマネしながら)まるでビートルズみたいじゃないか! すごい! カラオケみたい」って喜んでくれたよ(笑)。そういう感じでビートルズの名前がよく出てきたのは確かだけどね。あのアルバムはプロデュースというよりコラボレーションって感じだった。いやあ、大変だった(笑)」
取材・文/村尾泰郎(2009年11月)
ライヴ写真撮影/vinka