2000年の結成以来、コンスタントなライヴ活動を展開するとともに、求道的ともいえるスタンスで自らのサウンドに研鑽を重ね、“ポストロック”というカテゴライズでは収まりきらない唯一無二のサウンドで幅広い音楽ファンの支持を獲得してきたインストゥルメンタル・バンド、
toe。彼らが約4年ぶりとなるフル・アルバム
『For Long Tomorrow』を発表する。過剰なドラマツルギーを排除することで、より自然な形で像を結ぶこととなった、彼らならではの切なくもエモーショナルなサウンドスケープ。バンドとしてのさらなる進化を感じさせる今作について、2人のギタリスト、山嵜廣和と美濃隆章に話を訊いた。
──約4年ぶりとなるフル・アルバムがついに完成しました。
美濃隆章(g / 以下、美濃) 「本当は去年中に出したかったんですけど、気づいたら今年の12月になってしまって」
山嵜廣和(g / 以下、山嵜) 「ライヴに誘ってもらう機会が多くて、レコーディングの準備がなかなかできなくて。頭で考えていることを線で繋いで、すぐに形にできるといいんですけど(笑)」
──アルバムの制作に意識が向き始めたのは、どれぐらいの時期になるんですか?
山嵜 「ガッチリ制作に意識が向き始めたのは今年の3月です」
──全体の青写真みたいなものは、なんとなく思い描いていたんですか?
──「New Sentimentality ep」では
クラムボンの
ミトさんがプロデュースを手掛られていましたが。
山嵜 「ミトくんは“バンド感”をすごく大切にしていて。僕らはそれまでカッチリしたレコーディングをしていたから、演奏の勢いを重視するミトくんのやり方に慣れるまで時間がかかってしまったんです。でも、できあがった作品を実際に聴いてみたら“バンド感を出すのも悪くないな”と思えて。今回のアルバムは、それまでの自分たちのやり方とミトくんのやり方を折衷したようなものになっていると思うんです。バンド感を大切にしながら、作品としてのまとまりも意識したんで」
──アレンジに関していえば、今作は今まで以上に音と音との隙間を重視した作りになっているような印象を受けました。
山嵜 「いわゆるマスロック的な曲というか、ひとつの楽曲の中で、複雑な展開があったり、転調したりだとか、そういう感じに飽きてしまったんですね。今回のアルバムでは、制作中によく聴いていた90年代のヒップホップやネオソウルだとか、黒っぽいループ・サウンドに影響を受けたところがあって。リフだったらリフでもいいんですけど、それを淡々とループさせつつ、ドラムを抜き差ししたり、ベースラインを変えたりして、ひとつの楽曲として成り立たせるっていう」
──そうすると曲の作り方もおのずと変わってきますよね。
山嵜 「そうですね。基本的にはプロトゥールスで最初に基本となるループを組んで、そのうえで数パターン用意したベースやドラムをいろいろ試しつつ当てはめていきました。最終的には、コンピュータで作ったデモ音源をバンドで再現するような形にしたいんです。CDはあくまでもライヴに来てもらうためのサンプルとして考えているから、可能な限り自分たちが思い描く理想のイメージに忠実なものにしたいんですね」
──9曲目の「ラストナイト」でマリンバが効果的に使用されていたり、サウンドの幅も確実に広がっていますよね。
山嵜 「あの曲では、アフロビートみたいな感覚を曲に取り入れたくて。微妙にトロピカルですよね(笑)」
──今となってはギター、ベース、ドラムのみで楽曲を構築するということには完全にこだわらなくなった感じですか?
山嵜 「まったくもって、こだわってないです(笑)。最終的にいい曲になるんだったら、自分がギターを弾かなくても全然構わないし。今は曲が求めている音を入れている感じです」
──クラムボンの
原田郁子さんや
土岐麻子さんのヴォーカルをフィーチャーした楽曲に関しても、やはり“曲が求めていた”から?
山嵜 「そうです。郁子ちゃんが参加している曲はデモを作っている段階で、自分のギターリフをもとにしたハミングがループで入っていて、それを誰かにやってもらおうと思ったとき、真っ先に思い浮かんだのが彼女だったんです」
──ヴォーカリストとしての原田さんはいかがですか?
山嵜 「全面肯定です(笑)。僕は原田郁子の悪口を言う人は許さないです(笑)」
美濃 「郁子ちゃんは本当に素晴らしいシンガーですよね。声を聴くだけでゾクゾクしちゃいます」
──一方の土岐さんとも、作品やライヴでこれまで何度か共演していますが。
山嵜 「土岐ちゃんに関しても全面肯定です(笑)。CMソングを歌ったりすごく表現の幅が広いんですけど、歌声の真ん中に彼女にしか出せないような魅力があって」
美濃 「実は歌声に黒いフィーリングがあるんですよね。そこもまた良くて」
山嵜 「土岐ちゃんは意外と毒舌で、そこもまたブラックなんですけど(笑)」
──(笑)。完成したアルバムを1枚通して聴いてみていかがですか?
美濃 「やっと……完成したって感じですね。どうやってひとつにまとめたらいいんだろうと思うようなこともあったし」
山嵜 「実際、こないだまでレコーディングしてましたからね(笑)。でも、自分たちが考えているイメージをブレずに形にできたので、今はすごく達成感があります」
──まさに冒頭でおっしゃっていた、“頭で考えているようなことを線で繋いで形にできた”感じですか。
山嵜 「そうですね。随分、時間がかかっちゃったんですけど(笑)」
取材・文 / 望月 哲(2009年11月)