シマノフスキ&ドヴォルザーク:
ヴァイオリン協奏曲
(TMP・RPTC-5186353)
――これまではOrfeoからのリリースでしたが、『シマノフスキ&ドヴォルザーク』はPentaToneからですね。今回の『ベルク&ベートーヴェン』を最後にPentaToneに完全移籍ということなのでしょうか?
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(以下、同) 「Orfeoと専属契約したことは、これまでに一度もないんですよ。PentaToneとは2011年までの契約を結んだので、たしかに何枚かはこちらでレコードを作ってゆきますが、Orfeoとこれで完全に関係がなくなったというわけではありません」
――まず『シマノフスキ&ドヴォルザーク』盤ですが、民俗的な観点からのカップリングでもありますね。シマノフスキの第1協奏曲は3管編成にピアノ、それにハープが2台と巨大なオーケストラ編成ですが、近年録音が増えてきています。
「企画自体は、指揮の
マレク・ヤノフスキさんやPentaToneからの提案です。シマノフスキはオケの編成が巨大なので、実演ではなかなかソロ・パートが聞こえにくい曲ですよね。その点、録音ならソロ・パートもよく聞こえます。全曲の最後が、まったく突然にふっと消えてしまうようなユニークな作品ですが、とても美しい録音に仕上がったと思います」
――ヤノフスキとのレコーディングはいかがでした?
「ヤノフスキさんのことは以前からとても好きで、何度も共演しています。彼はとてもドイツ的で、考えがとても明晰ではっきりしています。何がしたいか、どういう音楽が欲しいかということを、自分でとてもわかっていらっしゃる人。だからオケに対してもあまり多くを語らずに、本当に2、3を言うだけでも、オケが彼の要求通りに完璧に変わってしまう。ですからレコーディングでは、無駄な時間がまったくありませんでした」
――一方、『ベルク&ベートーヴェン』盤の指揮者には、2006年のショスタコーヴィチ盤の時と同じアンドリス・ネルソンスが起用されていますね。
「ネルソンスさんは、ヤノフスキさんとはとても違ったタイプで、お腹から音楽が湧き出てくる感じですね。とてもスウィングするし、一緒に演奏していてとても情熱的に感じます。あまり話さなくても感じ取れる人です。最初からすぐにわかり合えたので、あまり音楽について話すことはありませんでした。音楽家には2種類の人がいると思うんです。とても知的でアナリーゼなどを好むタイプと、もう一方は頭は使うんだけど、基本的に感情に任せていくタイプ。私はお腹からのタイプ(笑)」
[*註:このカップリングにはかつてギドン・クレーメル盤があった] 「2曲とも、現世的ではなく天上の世界のような要素があるように思うからです。ベルクのコンチェルトはレクイエムですよね。もちろんマノン・グロピウスのためのレクイエムでしたが、同時にベルク自身のためのものでもありました。なぜなら、彼は生前にこのコンチェルトを聴いていないからです [*註:初演は作曲者の亡くなった翌年]。ベートーヴェンの方はそういう背景はないですが、弾いているとその音楽が現世的でなく、まるで天上からこの世を俯瞰しているように聞こえてくる。そういう意味で“天上的な音楽”だと思うんです」
(C)Thomas Rabsch
――少し楽器のこともお伺いしましょう。現在は1716年製のストラディヴァリウス“ブース(Booth)”をお使いですよね。使い心地は?
「暗めで美しい音色が気に入っています。弾くにもしっくりきますし」
――弓は、
アンネ=ゾフィー・ムターからもらったというブノワ・ロラン(Benoit Rolland)を使っているのですか?
「今はドイツの製作家のものをメインに使っています。とても使い勝手がよくて、音もエレガントに鳴ります。ブノワもいつも持っていて、曲によって使い分けています」
――ちなみに、ブノワを使った録音はどれなんですか?
「たしか、ミヨー・アルバムとハチャトゥリアンのコンチェルトだったかな」
――今後のレコーディング・プランを教えてください。
「
バルトークのコンチェルト盤が、2010年3月頃にリリースされることになっています。指揮はヤノフスキさんでオケは
スイス・ロマンド管弦楽団。その次もいろいろ決まってるけど、まだ内緒(笑)。コンチェルトの録音にあたっては、基本的にはミヨーの時のように、あまり録音がない曲にしたいと思ってるんです。リサイタル・アルバムも考えていますよ」
――さて、最後に気になる次回の来日予定だが、現在のところ2011年で調整中とのこと。まだ実現するかははっきりしない。決定した時点で当ウェブサイトでもご報告する予定である。
取材・文/松本 學(2009年10月)