50万枚というセールスを記録した『12 Love Stories』から1年、
童子−Tの新作
『4 ever』が到着した。“フィーチャリング・スタイルによるラブ・ソング”という前作の流れを汲みつつ、ヒップホップ・マナーに則ったアップ・チューンからリアルなメッセージを込めたナンバーまでをバランスよく収めた本作。そこから伝わってくるのは、彼のプロデュース能力がさらに精度を上げているという事実だろう。
――全方位的な魅力を持ったアルバムですよね。前作『12 Love Stories』の流れを期待するリスナーも満足させ、“ラブ・ソングだけじゃ物足りない”っていうヒップホップのファンも納得させられる仕上がりです。
童子−T(以下、同) 「そうですね、大変なんですよ(笑)」
――しかも、童子−Tさん自身のメッセージもしっかり込める。そのすべてを高いレベルで表現するのは、すごいことだと思います。
「ありがとうございます。〈ファーストソング〉から始まった2009年なんですが、『12 Love Stories』をたくさんの人に聴いてもらったことで、だいぶ環境も変わって。そのなかで“ネクストステージはどこなのか?”ということはかなり考えましたね。大ヒットしたアルバムのあとって、海外のアーティストを見ていても、カウンターを当てていくパターンも多いじゃないですか」
――逆の方向性に行く、ということですよね。
「ええ。でも、それは好きじゃないんですよね。ラブ・ソングも大好きだし、それも童子−Tだから。とはいえ、『12 Love Stories II』を作るのも違う。そこで思いついたのが、(ジャケットのデザインを指差しながら)こういうグラデーションのイメージなんですよね。具体的にいうと、1曲目から4曲目(〈想い feat.YU-A〉〈ファーストソング〉〈あの頃…feat.CHEMISTRY〉〈あの日/CHEMISTRY feat.童子−T〉)までが“12 Stories”のゾーン。フィーチャリングのスタイルのなかで、切ない恋愛だったり、淡い恋愛だったりを表現してるんですよね。それで、5曲目から8曲目(〈スマイル feat.清水翔太〉〈Heaven feat.BENI〉〈ラブトレイン feat.HI-D、椎名純平〉〈Rainy days feat.Hanah〉)までは“12 Strories´(ダッシュ)”って読んでるんですけど、簡単に言うと大人のラブ・ソングですよね。トラックのテイストもそうですけど、たとえば〈Rainy days〉(80年代のヒット・チューン〈I like Chopin〉のフレーズを取り入れたナンバー)は離婚をテーマにしてるんですよ。恋愛のきれいな部分だけじゃなくて、裏側もきちんと描きたいっていう思いもあったので」
――楽曲のクオリティも高いですよね。
「うん、やっぱりグレード・アップしたいですからね。フィーチャリングに関しても必然性がないとやらないというか、簡単に受けたり、オファーしたりってことは避けるようにしていて。システマティックになるのがいちばん怖いですから。で、9曲目から11曲目(〈Get Ready feat.Baby M.、MANDOZA〉〈WA RA BE〉〈オン ザ Mic〜Ruler達のタワゴト〜feat.K.I.N Mummy−D、KOHEI JAPAN〉)はヒップホップ特有の“俺もの”ですよね(笑)。歌詞に“童子−T”っていう名前が出てきちゃうのって、ヒップホップしかありえないですから。アップ・チューンばかりだし、ライヴ向きのゾーンでもありますね。そして最後はメッセージ・ゾーン。不自由のなかの自由だったり、ありがとうという感謝だったり、生きていくなかでいちばんベーシックなことを歌ってます。40代になって、メッセージもどんどんシンプルになってるんですよね」
――コンセプトといい、楽曲のプロダクションといい、完璧なバランスですね。
「20代だったら難しかったかもしれないですね。プロデュースもずいぶんやらせてもらってきたし、いまは童子−Tを客観的に見ることもできるようになってるので。まったく迷いがなかったと言えば、ウソになりますけどね。セールスとかコンセプトをぜんぶ取っ払ったうえで、“いま、いちばんやりたいことは何だ?”って見つめ直す時間も必要だったし。でも、納得できるアルバムになってよかったですよ」
――アーティストとしていまのポジションは理想的じゃないですか?
「うん、ちょっと奇跡的だと思ってます。チャレンジし続けた何年間だったから、ここまでのポジションに押し上げられるのはまったく考えてなくて。ただ、俺の場合は天才型じゃなくて、つねに情報を入れて、それを研究、分析するタイプだと思ってるんですよ。もうね、何やってても音楽のことに結びつけちゃいますから。病気なんじゃないかと思いますよ、自分でも(笑)」
取材・文/森 朋之(2009年12月)