音楽はもちろん、今や映画監督としての活躍でも名高い
ロブ・ゾンビ(Rob Zombie)が、去る10月、〈ROUD PARK 09〉出演のため来日。それに先立って行なわれた単独公演の本番直前に、インタビューすることができた。ジャケットの下に着ていた
アリス・クーパーTシャツについて質問したところ、「すごく仲がいいんだ。つい2日前も話したばかりだよ」。ハード・ロックの文脈に“お化け屋敷”的な感覚を持ち込んだ大先輩だけに、気が合うのも当然、というところかもしれない。取材時間こそ短かったものの、映画と音楽の分業についてなど、気取りのない口調で答えてくれた。
「私がやっている、という点においては、音楽も映画もさして違いはないはずなんだ。どちらも、自分が表現したいことの延長線上にあるものだからね。とはいえ、音楽、特にライヴ・パフォーマンスでは、観客の眼前に自分のすべてをさらし、一方映画では、カメラの後ろに立って俳優の演技を確認しているという、立ち位置の違いはあるね」
――切り替えは難しいですか。
「難しい時もある。映画の撮影は1作に1年、長い時には2年かかる場合もあるから、ツアーに復帰した直後は、なんだか気恥ずかしいような気分になる。映画の編集自体、閉じこもってやる作業だからね。パフォーマーに戻ってステージに出た瞬間、“あれ、なんか変だ”と思って隠れたくなる場合だってあるよ(笑)。今夜のショウもライヴ復帰後ほとんど初に近いから、どうなることやら(笑)。いや、切り替えにコツなんかない。やるだけだね」
――映画監督としてのあなたの立ち位置もユニークですよね。リメイク版『ハロウィン』にしても、ホラー映画であるはずなのに、超自然的な要素が一切なかった。 「私にとってのホラー映画とは、“お化け映画”である以上に、ダークなドラマとしての意味合いのほうが大きいんだ。お化けより、人間のほうに興味がある。たとえば
『マーダー・ライド・ショー2』(原題『Devil's Rejects』)。人はホラー映画として捉えたかもしれないが、自分としては古典的な西部劇のつもりで撮った。3人の無法者を、保安官が追跡する話だからね」
――『ハロウィン』の主役のマイケル・マイヤーズも、あくまで一人の人間として描かれています。
「シリーズ化されて久しい作品だから、違った趣向を盛り込む必要もあった。『ハロウィン』って何作目まであるんだっけ? いずれにしろ、どの作品のマイケルも“お化け”として描かれている。私としては、マイケルを他者の感情を理解することができない“人間”として描きたかった。子ども時代のマイケルを描くために、彼のようなタイプの殺人者の幼年時代を調べたりもしたよ。幼少時から動物虐待をしている、とかね。マイケルのような社会病質者は、それが人であれ動物であれ、自分以外の痛みというものが理解できない。かならずしも“悪”というわけではないんだよ。ただ、他者への共感が皆無というだけで」
――と同時に、白人のロウワー・クラス、ブルーカラーの生活のドキュメントになっている点も興味深いです。2006年のアルバム『エデュケイテッド・ホーシズ』とも、通じ合うようで。 「意図したつもりはないんだけど、私自身ブルーカラー出身であることが、どこかで反映されているのかもしれないな」
――『エデュケイテッド・ホーシズ』では、バンドの演奏にサザン・ロックを思わせるグルーヴ感が聴き取れる気がしましたが。
「
オールマン・ブラザーズ・バンドや、
レーナード・スキナードが大好きなんだ。『エデュケイティッド・ホーシズ』のレコーディングは、新しいメンバーが加入した時期と重なっていた。バンドを再建しながら録音していたわけで、結果、非常に“生身”なアルバムに仕上がった。音が生身なら、メンバーも生身ということだ。『マーダー・ライド・ショー2』を撮り終えたばかりだったので、映画の雰囲気に影響されていた部分も、少なからずあるね。あれから丸3年たったので、2010年に出るニュー・アルバム(
『ヘルビリー・デラックス 2』)は、だいぶ違う内容になっている」
――今後の予定をうかがえますか。
「2010年いっぱいはツアーして回るから、監督業はおのずとお休みになる。企画はあるけど、ツアー終了までお預け。その間は、観客の前で全力でパフォーマンスするつもりだ。(声音を変えて)みんな観に来てくれ。デストロ〜イしてやるぜ(笑)」
取材・文/真保みゆき(2009年10月)