――「サヴォイでストンプ」(Stompin' at the Savoy/ジャズの名曲)にかけたアルバム・タイトルが印象的です。 矢野沙織(以下、同)「サヴォイというレーベルのアーティストであることは、私にとって何よりも誇らしいことなんです。デビューしたときから、なんとかサヴォイの名前を出してCDを作れないものだろうかと打診していたんですが、今回、願いが叶いました。サヴォイの名曲ということで〈ファイヴ・スポット・アフター・ダーク〉(
カーティス・フラーの『ブルースエット』に収録)も入れています。私がサヴォイのミュージシャンだということをもう一回、認識していただけたら嬉しいですね」
――スタンダードとともにジャズ・ミュージシャンが書いたジャズの人気曲も多く収められていて、これまでのアルバムで最もジャズ・ファンにアピールする選曲だと思います。
「前回の
『Gloomy Sunday』は
ビリー・ホリデイのトリビュートで、大好きな曲ばかりだったんですけど、ほとんど全編バラードでした。今回はルー・ドナルドソンのバンドにいらっしゃるドラマーの
田井中福司さんにすべてお願いして、ルーさんのバンドでやっている方たちを集めていただき、がっちりビ・バップを録音したいなと思ったんです」
――田井中さんとレコーディングすることになったきっかけは?
「田井中さん、かっこいいですからね。ルーのバンドに20年間ずっといて、カーネギーホールやブルーノートに出ているのは偉業だと思うんです。そういうことを含めて、ぜひ一緒にやっていただきたいなと思っていました。田井中さんの演奏は安定していて、安心できます。ソリストとしての私は、しっかりした基盤がある上で自由に乗っていられる状態が一番いいと思っているんです。田井中さんやパット(・ビアンキ/og)さんがいることで、そういう状態を作れたことは大きかったですね」
――快調なレコーディングだったことはアルト・サックスのソロからも伝わります。たとえば、速いパッセージを吹き切ったあとのビブラートが丁寧に感じられ、そうした点も聴きごたえにつながっていると思います。
「ビリー・ホリデイのトリビュートをやったことも反映していると思います。彼女の音楽を聴くとき、どこを聴くかというと、末端の処理なんです。大好きな
中島美嘉さんを聴くときも同じです。音が消えるときはどうしているんだろうって。グッとくるんですよね。ビリー・ホリデイのトリビュートをレコーディングしてみて、私は発音を大事にしたかったんだと納得できたんです」
「なきにしもあらずですね。歌えたら歌手になりたいくらいで、歌モノに関してはテーマに執着しています。そのへんの気持ちよさは前回のレコーディングで感じました。歌モノのソロはスキャット感覚でいたいなと思っています。今回の歌モノは、私が歌手で、ほかのソリストがクリフォード・ブラウンというイメージですね。だから〈バードランドの子守唄〉でもテーマのあと、すぐにトランペット(
ジム・ロトンディ)のソロを持ってきているんです」
――ボーナス・トラックの「Laura Peacock〜太陽の船のテーマ」はオリジナルで、考古学ドキュメンタリー番組のテーマ曲です。どのようなイメージで作曲したのですか?
「とにかくたくさんの財宝をもった国なんだなということは認識できたので、さまざまなモチーフやフレージングを宝物に見立て、曲全体でエジプトという国を表現することにしました。私はストリングスの入る大編成を考えていたんですが、アレンジの
斎藤ネコさんがエレキギターなどの入る編成(アルト・サックスを含めて8名)にこだわったんです。この人数であれだけの音にするのはすごいなと思います。仕上がりにはびっくりしました。気に入っています」
――2月から3月にかけての全国ツアーはどのようなものになりますか?
「田井中さんをニューヨークからお呼びして、オルガン・トリオとやります。曲目はまだ決めていませんが、ルー・ドナルドソンの曲は必ずやるでしょうね。やると気持ちいいんですよ(笑)」
取材・文/浅羽 晃(2009年12月)