ジャズ黄金期の楽曲をストレートアヘッドに聴かせる 矢野沙織の新作

矢野沙織   2010/01/14掲載
はてなブックマークに追加
 オルガン・トリオをバックにしたカルテット、あるいはトランペットを加えたクインテットというコンボ編成で「ザ・キッカー」(ジョー・ヘンダーソン)、「スウィート・ケイクス」(ブルー・ミッチェル)、「ブルース・ウォーク」(ルー・ドナルドソン)といったジャズの名曲を演奏する。矢野沙織の新作『BEBOP AT THE SAVOY』は、14歳のときからジャズ・クラブに出演して腕を磨いた彼女にとって“勝手知ったる我が家”のようなものだろう。水を得た魚のようなプレイを繰り広げている。


――「サヴォイでストンプ」(Stompin' at the Savoy/ジャズの名曲)にかけたアルバム・タイトルが印象的です。
矢野沙織(以下、同)「サヴォイというレーベルのアーティストであることは、私にとって何よりも誇らしいことなんです。デビューしたときから、なんとかサヴォイの名前を出してCDを作れないものだろうかと打診していたんですが、今回、願いが叶いました。サヴォイの名曲ということで〈ファイヴ・スポット・アフター・ダーク〉(カーティス・フラーの『ブルースエット』に収録)も入れています。私がサヴォイのミュージシャンだということをもう一回、認識していただけたら嬉しいですね」
――スタンダードとともにジャズ・ミュージシャンが書いたジャズの人気曲も多く収められていて、これまでのアルバムで最もジャズ・ファンにアピールする選曲だと思います。
 「前回の『Gloomy Sunday』ビリー・ホリデイのトリビュートで、大好きな曲ばかりだったんですけど、ほとんど全編バラードでした。今回はルー・ドナルドソンのバンドにいらっしゃるドラマーの田井中福司さんにすべてお願いして、ルーさんのバンドでやっている方たちを集めていただき、がっちりビ・バップを録音したいなと思ったんです」
――田井中さんとレコーディングすることになったきっかけは?
 「田井中さん、かっこいいですからね。ルーのバンドに20年間ずっといて、カーネギーホールやブルーノートに出ているのは偉業だと思うんです。そういうことを含めて、ぜひ一緒にやっていただきたいなと思っていました。田井中さんの演奏は安定していて、安心できます。ソリストとしての私は、しっかりした基盤がある上で自由に乗っていられる状態が一番いいと思っているんです。田井中さんやパット(・ビアンキ/og)さんがいることで、そういう状態を作れたことは大きかったですね」
――快調なレコーディングだったことはアルト・サックスのソロからも伝わります。たとえば、速いパッセージを吹き切ったあとのビブラートが丁寧に感じられ、そうした点も聴きごたえにつながっていると思います。
 「ビリー・ホリデイのトリビュートをやったことも反映していると思います。彼女の音楽を聴くとき、どこを聴くかというと、末端の処理なんです。大好きな中島美嘉さんを聴くときも同じです。音が消えるときはどうしているんだろうって。グッとくるんですよね。ビリー・ホリデイのトリビュートをレコーディングしてみて、私は発音を大事にしたかったんだと納得できたんです」




――「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」と「バードランドの子守唄」を収録しているのは、クリフォード・ブラウンつながりですか? ※前者はヘレン・メリル、後者はサラ・ヴォーンの決定的名唱があり、ともにクリフォードが客演。
 「なきにしもあらずですね。歌えたら歌手になりたいくらいで、歌モノに関してはテーマに執着しています。そのへんの気持ちよさは前回のレコーディングで感じました。歌モノのソロはスキャット感覚でいたいなと思っています。今回の歌モノは、私が歌手で、ほかのソリストがクリフォード・ブラウンというイメージですね。だから〈バードランドの子守唄〉でもテーマのあと、すぐにトランペット(ジム・ロトンディ)のソロを持ってきているんです」
――ボーナス・トラックの「Laura Peacock〜太陽の船のテーマ」はオリジナルで、考古学ドキュメンタリー番組のテーマ曲です。どのようなイメージで作曲したのですか?
 「とにかくたくさんの財宝をもった国なんだなということは認識できたので、さまざまなモチーフやフレージングを宝物に見立て、曲全体でエジプトという国を表現することにしました。私はストリングスの入る大編成を考えていたんですが、アレンジの斎藤ネコさんがエレキギターなどの入る編成(アルト・サックスを含めて8名)にこだわったんです。この人数であれだけの音にするのはすごいなと思います。仕上がりにはびっくりしました。気に入っています」
――2月から3月にかけての全国ツアーはどのようなものになりますか?
 「田井中さんをニューヨークからお呼びして、オルガン・トリオとやります。曲目はまだ決めていませんが、ルー・ドナルドソンの曲は必ずやるでしょうね。やると気持ちいいんですよ(笑)」
取材・文/浅羽 晃(2009年12月)
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015